表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏銀河の冒険者  作者: 大星雲進次郎
宇宙船ハイペリオン号
23/28

02-102 青い惑星より

 良い旅のためには準備が大事だ。

 普段は星系内の軽貨物輸送が主な仕事なのだが、今回は星系間輸送の仕事が舞い込んできていた。トレジエム星系からプルミエル星系まで三〇光年の長距離輸送だ。

 通常であれば、もう少し規模の大きな業者が選ばれるのだろうが、お得意様がどうしてもアカリの手でのプルミエルへの輸送を希望したのだ。彼の船、星系随一の快速艇である宇宙船ハイペリオン号ならば、たどり着けない距離ではない。だからこそ運航計画は念入りに立てる必要がある。


 AIにダウンロードさせた『長距離航行の手引き』には、「恒星系間の移動には超空間バイパス路を使用するのが一般的である」と書いていた。

「そんなことは分かっている」

『……やむを得ず通常空間を使う場合は、次の計算式によっておおよその日数を計算し、……我々の場合は十八日だな。……五日を超える場合は計画の再考も視野に入れること。まあ手引きであって決まり事ではないな』


 超空間バイパス路は星系間の近道のようなもので、主な星系の内惑星軌道まで安全に旅することが出来る装置だ。

 一〇光年の距離を一日で進むことができる。使用するためにはレベル3以上の自動操縦装置が搭載されていることが最低の条件だ。軍用と一般用があり、軍艦やそれに準ずる船は一般用の通路は使えず、軍用はその逆。速度差や緊急出動時での事故を防ぐ目的なのだ。

 ハイペリオン号は軍籍を残しながら民間で使用されているため、両方の規制に掛かり超空間バイパス路が使えない。遥か三〇光年の距離を「下道」で行くほかないのだが、元が軍艦であるためエンジンだけは強力である。単純な機関出力で比較すれば、同サイズの一般貨物船をはるかに上回る。この距離を十八日で踏破出来るのは優秀なほうだろう。

 日数に関しては、計画をどうこう出来る選択肢はなかった。

 

『ならば乗務員だけでも確保しよう』

 貨物船ハイペリオン号の元となったのは小型の汎用宇宙艦艇だ。当時の乗務員は最大五人。居住区画や貨物室などはなかったのだが、船体を中央に延長区画を挿入することでそれらを確保している。電子機器類を大幅に強化することでAIサポート付きの前提だが一人での運用が可能となっている。

 しかしこれからの旅には少なくても六人は必要だろう。完全自動運転だとしても、全てをAIにさせるわけにはいかないし、第一それではアカリが乗っている必要もない。乗組員がローテーションで監視をするのが一般的のはずだ。なるべく一人の時間を作らないためにも、AIの推奨人数も同じ答えだった。

「何人かは姉さんに頼むとして。仕方ない、斡旋所で募集出してくるよ」

 今回は片道十八日往復三六日、一ヶ月以上の長旅だ、あまり知らないメンバーとは組みたくない。となると、船乗りの知り合いが少ないアカリはすぐに困ってしまうのだ。頼ることができるのは、自分が生まれ育った貨物船のクルー。大型の船なのでそれなりの数の人員はいるが、それでも多くの余裕があるはずもない。しかし何人かは寄越してくれるだろうと、姉である船長にメールを送信した。

 それでも後何人かは足りない計算になるので、短期の契約でクルーを見つけるため斡旋所へ向かった。

 

 宇宙港の貨物エリア内のビルの中に斡旋所はある。

 斡旋所と言っても大規模なものではない。フロアは広いが、ほとんどが小さなミーティング用のテーブルで占められていて、あと目立つのは壁の大きなモニターくらいだ。要はこのモニターに臨時クルーの募集が出ていて、ちょうど良い物を選んでいくという仕組みだ。テーブルで顔合わせをして、問題なければ契約成立だ。斡旋所から成功報酬が出るわけではなく、単なるマッチングの場なのだが、ここを通して契約すればお互いに証拠が残るため、もしもの時には役に立つだろう。

 そのような、真面目に仕事を捜している人の中で、またもやアカリはミーティングテーブルでコーヒーを飲んでいた。ここのレプリケーターで入れるコーヒーのコクが好きだったのだ。あまり酸味が立つのは好みではなかった。レシピを聞いて、船のレプリケーターも同じものを吐き出すようになってるのだが、なぜか斡旋所のものがおいしく感じるのだった。

『アカリよ、あまり長居すると、ベアトリクスが来るぞ』

 一瞬で現実に引き戻され、周囲を見回して彼女がいないことを確認して、一安心。

 彼としては何杯でも飲んでいたいのだが、五杯目でハイペリオンが注意してくるようになった。

「ハイペリオン、やっぱりそういう言い方はベアトリクスさんに悪いよ」

『効き目はかなりあったようだが』

「そりゃね、結構怖かったのは本当だし」

 確かにいつまでものんびりしている場合でもない。重い腰を上げ、端末に向かう。

 フロアにいる人々の視線を集めながら、アカリは端末までゆっくり歩く。以前ベアトリクスが言ったとおり、どうやら自分と仕事をしたがっている船乗りは多いようだ。視線がなんか気持ちいい。

 端末まで来ると目的地や予定期間などの要項を打ち込んだ。

 直後に奪い合いが始まった。喧騒にも振り返らずアカリは元のテーブルに戻った。すぐに三人やって来るのだ、余裕を持って対応したい。

 しかし。

「あ、これダメだ」

 列の先頭を勝ち取った男性が、呟いた。思ったより大きい声が出たのかアカリのほうを気まずそうに見る。

「何がダメなんだ?」

 二番目の男性が画面をのぞき込み、要項をながめる。そしてアカリに告げた。

「アカリさん、この要項、間違ってないです?」

「え?なんか間違えたかな」

「目的地はプルミエル」

「そう」

 遠いな、という声がちらほら。

 しかし三〇光年はこの時代、近所ではないが貨物輸送としては普通にあり得る距離だ。

 ざっとした計算で、往復およそ8日。気軽に飛び出すことはできないが、ここの船乗り達も何度もこなしている距離だろう。

 なのでそれほど問題になる距離ではないという意見に集約されたようだ。

「で、往復一ヶ月ってかかりすぎじゃないです?これが、わからないです」

「間違ってないよ。うちの船、超空間バイパス路使えないんだ。みんな知らなかったっけ」

「ああ、そうか。ハイペリオン号はそうでしたね」

 男性はアカリの船のハイペリオン号は、戦闘艦改造輸送船だったことを思い出す。ピンとこない仲間に理由を教えてやった。

「つまり、二種類ある超空間バイパス路、民用と軍用の両方の規定にかかり、どちらも使用できないんだ」

 二番目の男性の説明にみな納得する。そうなんだ~あの人物知りね~、との声。彼も実はアカリのファンだ。

 「だ、だけどほら、パワーだけはあるから。リライト5.6の0.5光速で飛ぶんだよ?なかなか出ないよ、4以上なんて」

 距離が問題なのは自覚しているため、めったにできない経験で付加価値を上げようとした。速く飛ぶからといって、窓からの景色に大した変わりはないのだが。

 5.6か、さすがだね。通常ではない速度が体験できることにフロアが沸く。係数で計算すれば実速度で光速の1960倍。百パーセント出力の係数7.0ならば5230倍にもなる。民間船ではあり得ない速度だが、戦闘艦艇であればよくあるレンジだ。

「でも片道十八日になるんでしょ?それって、手引きだったら計画の再考どころか計画破綻ってレベルですよね」

 アカリは追撃を受けた。

「そうなんだけどね。無茶なのは承知なんだよ、でも僕が行くしかなくてさ……」

「なんかすいません、別にアカリさんを非難しているわけじゃなくて」

 問題点が出そろった事で、希望者の間で円陣ができた。アカリの仕事に付いては行きたいが、リスクが高すぎる。かといって全員パスするのも、ここまで食いついた以上は悪いしなんか悔しい。というか、このレベルの案件をおかしいと思いつつも実現可能と考えていることに、英雄と自分たちのスペックの差を思い知り、畏れてもいたのだが。

 話が違う。アカリは思った。みんな自分と仕事をやりたがっていると言ってたではなかったか?募集をかければきっと取り合いになるだろうと。実際今日だってすごく期待されていた事くらいは分かる。しかし募集を掛ければみんな困ったように話し合うばかり。

「あ、忘れてた。プルミエルに着いたら、星団リゾートチケットが貰えるんだ」

 こういう時のために準備されていたのだろう。アカリはご褒美を思い出した。

「だから帰りは寄り道するよ。予備日を入れて全部で四十日くらいになる。要項を書き足しておこう」

 船乗りたちが取り囲む応募用端末に新たな項目が足された。成功報酬のチケットのこと、募集人員最大三名。

「オイ、アカリさんの船の定員って何人くらいだ?」

「確か、六人くらい?十人は無理だったような」

「六人で四十日って、キツくないか」

「予備日が前提として普通にあるってちょっと怖いな。やっぱり日常的にトラブルに遭ってるって噂は……」

 安心させるつもりの発言が、逆に働く。よくあることだった。いっそう騒がしくなる斡旋所内だったが、このステーションにはそんな異常を物とも思わない人物がいた。

「あれ?アカリ君が募集出してるじゃん。もらっとこ」

 騒がしい円陣の後ろを通って、端末にやって来た女性が、何も考えずアカリの依頼に受諾申請をした。電子音がピッと鳴る。

「ちょっとベアトリクス、内容くらい確認しなよ。ほら皆集まって相談してるよ、割り込んじゃってない?」

「あ、ゴメン。もう順番決まってた?」

 円陣の船乗りたちがびっくりした顔でベアトリクスを見つめていた。

「おお、ベアトリクス。まだ誰がって決まってはいないんだが、要項をみた方がいいぞ、かなり難しいと思う」

「え?私、アカリ君の募集なら、条件なんて関係ないよ」

 一部の女性たちから黄色い悲鳴が上がる。この界隈では有名な純愛、だと思われているのだ。

「いいから読んでみろって」

「……ほう」

 さほど長い文面ではないがベアトリクスは熟読した。

「どうして単なる荷役が、君が絡むとトラブルの香りしかしなくなるのよ?天才か、アカリ君は!絶対に楽しそうだよね!」

 それなりの数が居るトレジエムの船乗りの中で、彼女は厳密には船乗りではない。ベアトリクスは傭兵で冒険家であり、アカリと冒険したいがため遠い星からやってきたのだ。

「そ、そうか。ベアトリクス的に、これはトラブルがついてくる仕事なのか」

「ええ、AP10,000以下の子にはキツいんじゃないかしら」

「APとは?」

冒険力アドベンチャー・パワーよ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ