8.ドライブ
今日は、休日。普段なら音楽を聴きながら、
部屋の掃除をしたり、友達と出かけたりする日だ。
でも、今日は違う。
大島さんと待ち合わせをしている日だ。
午後1時にバス停の前。
私は、ブラウスとスカートを着て、
バス停に5分前に着いた。
大島さんは、どっちからやって来るのだろう。
キョロキョロしていると、いつも通勤バスが走って来る
方向から、黒い車が近づいて来るのが見えた。
まさか!
大島さんの車だったらいいなと思っていた、
あの黒い軽自動車だった。
そんな事があるのだろうか。
車がゆっくりとスピードを落とし、
私の目の前を通り過ぎて、バス停の少し先で止まった。
大島さんが乗っている。
私は、その車に小走りで近づいた。
助手席のドアが開いた。私は、そのドア越しに、
「よろしくお願いします。」
と挨拶しながら、助手席に乗り込んだ。
「ドライブしましょう。」
と、大島さんは、車を走らせた。
車は、丘陵地帯のなだらかな一本道を、
ゆっくりと進んでいく。遠くにレンゲ畑が見えた。
大島さんと本格的に話すのは、今日が初めてだ。
とにかく、共通の話題を考えながら、話を進めた。
「この車が、大島さんの車でびっくりしました。
バスの営業所に止まっている、自家用車の中で、
この車だったらいいなあ、と思っていた車
だったんですよ。」
と言うと、
「えっ、そうなの。嬉しいな。」
と大島さんが、笑いながら答えてくれた。
そして、私は、改めてガムのお礼と、そのガムを
みんなに配った事を伝えた。すると、
「実は、キャンディーをもらった後、同僚に
聞いてみたんだけど、誰もそんな女性はいない、
と言うので、不思議だったんだよね。」
と言われたので、私は、そのいきさつを語った。
その後は、バスでの面白い話をたくさんした。
例えば、表情を全く変えない乗客の一人に
「はにわ君」とニックネームを付けたり、
通勤の時に、帽子をかぶっていたら、
バスガイドさんに間違えられたりした事だ。
もちろん、車内でのにらめっこの話もした。
あっという間に3時間が経った。
この時、お客さんと接する中で培った
ノウハウが、役に立ったと思った。
その間、立ち寄ったのは、自動販売機の前だけだ。
大島さんが、車を降りて、ジュースを買って来て
くれた。あの中のジュースだったら、
あれがいいな、と思ったジュースがあった。
それは、レモン味の炭酸飲料だ。
すると、何も言わないのに、そのジュースを買って、
私に渡してくれたのだ。
とても不思議で、とても嬉しかった。
最後に連絡先を交換して、家の前まで送ってもらった。
その夜、早速すみれから連絡があった。
「どうだった?」
「可もなく、不可もなくという感じだった。」
と私は答えた。会って話したら、前に進むか、
やめるか、決められると思っていたが、
どちらにも、決められなかった。
ところが、1日経ち、2日経ち、3日経つうちに、
私は、また大島さんに、会いたくなってきた。
それなのに、大島さんからは、何の連絡もない。
連絡先を交換したのに、連絡がないということは、
私の事が嫌だったんだ。断りたいけど、
私を傷つけると思って、直接言えないのかも。
それなら、すみれの方に連絡があるはず、
と覚悟を決めた。一週間後、彼から連絡が入った。
「また、会いましょう。」
続きは、3月23日(月曜日)に、投稿する予定です。




