9.早出(はやで)
今度は、彼の仕事が終わって、私の職場の近くまで、
車で迎えに来てくれる事になった。バスの仕事は、
早出[午前6時位から午後2時位まで]、
午後出[午後2時位から午後10時くらいまで]、
中間[午前6時位から午前10時位までと
午後4時位から午後8時くらいまで]、
早朝[午前4時位から正午位まで]、
の4種類があるらしい。
殆どが、早出・午後出・中間の勤務で、早朝が月に数回
あるそうだ。さすが、通勤・通学の時間帯に、
バスの運行本数が増えるような、勤務形態だった。
彼が早出の時に、私を迎えに来てくれる事になったので
私は、職場の近くのバス停で待ち合わせをした。
仕事終わりの午後5時半頃、彼の車に乗り込むと、
夕日に向かって国道を進み、
郊外の静かなレストランに行った。
車を降りて、並んでレストランの入り口まで歩いた。
「結構背が高かったんだ。」彼は、私より頭一つ分
背が高かった。今までは、座った所しか見ていなかった
ので、とても新鮮だった。
和食も洋食もあるそのレストランは、
休日、多くの人で賑わっているものの、
今日は、平日の夕方で、お客さんは少なかった。
そこで食事をしながら、色々な話をした。
私と初めてドライブした時、彼は、何を話して良いか
全く分からず、とても緊張していたが、私が面白い話を
したので、楽しく過ごすことができたそうだ。
「また、すぐに会いたい。」と思ったが、
あまり早急なのも良くないと思い、
一週間後に電話をした、との事だった。
彼は、今28歳。
高校を卒業後、就職がうまくいかず、
アルバイトをしながら、20歳で結婚。
凛ちゃんという小学1年生の女の子と、
湊君という年中さんの男の子がいる。
妻とは、1年前に離婚。
バス会社に入社したのは、2年前。
今は、彼の両親と子供2人と5人で、
市内の実家で暮らしている。
子どもがいる事は、知っていたので、
驚くようなことは、何もなかった。
2年前に、路線バスの運転を始めたので、
これまで会わなかったはずだ、と合点がいった。
私は、自分が注文したエビフライ定食を、
ぺろりと平らげた。ところが彼は、
ピラフを3分の1程残している。
私は、自分よりも大きい人が好きだった。
自分より背が高い人。自分より体重が重い人。
そして、自分より沢山食べる人。
彼は、私より身長が高いし、体重も重そうだ。
でも、あまり食べないのかな。
少し心配になり、聞いてみた。
「あまり食べない方ですか?」
「いつもは、食べるんだけど、今日は緊張して
入らなかったんだ。」
ちょっとホッとした。私は、彼に提案した。
「今日の会計は、割り勘にしましょう。」
「どうして?」
「割り勘の友が、長く付き合える友だそうですよ。」
「いや、友達じゃないから俺が払う。」
どういう事。私たちの関係は友達じゃないの?
と、ドキドキした。
帰り道、もう一つ聞きたい事があったので、
聞いてみた。
「透さんの夢は、なんですか?」
「いい家庭を作ること。」
私は、大きな夢を持った人が、好きだった。
だから、「えっ、そんな夢」と思ってしまった。
だけど、よく考えてみると、
離婚を経験した彼だからこその夢だ、とも思った。
続きは、3月30日(月曜日)に投稿する予定です。




