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6.チョコレート

 その事があってから、彼とバスで一緒になる機会が、

何故か増えた。と言うより、バスに乗る時に気を付けて

見るようになったから、増えたように感じたのかも

しれない。

彼と同じバスに乗ると、私はバックミラーで彼の顔を

じっと見た。そのうち彼と目が合う。

「ようし、にらめっこだ。」じっと彼の顔を見る。

そのうち、彼の目線が外れる。彼は運転中なので、

バックミラーをじっと見ていられるはずがない。

「よし、勝った。」勝手ににらめっこは、もちろん、

いつも私が勝利する。


 ある日、仕事の帰り道、彼が運転するバスに乗った。

だんだん乗客が降りていき、私一人になった。すると、

「今日は、キャンディー持ってないの?」

と声がした。マイクで流れてくる彼の声だった。

私は、バッグにキャンディーを、常備している

わけではない。だから、キャンディーは、持って

いなかった。しかし、たまたまその日、会社で

もらったチョコレートを持っていた。

「チョコレートならあります。」

と言って、バッグから個包装のミルクチョコレートを

取り出して、運転席に近づき、彼に渡した。

「ありがとう。前に座れば。」

と言われたので、左側の一番前の席、私が助手席と

呼んでいるところに座った。そして、マイクを切った

彼と話した。

「この間、キャンディーをもらった時、喉が痛かった

 から、とても嬉しかったんだ。」

「そうなんですね。良かったです。

 今日は、チョコレートしかなくて、すみません。」

「チョコレートも疲れが取れるから、いいよね。

 今は、仕事の帰り?」

「そうです。今日は少し早く終りました。」

次のバス停で乗客が乗ってきた。

だから、会話はストップ。

彼も、マイクのスイッチを入れた。

その後、何事もなかったかのように、

私は、バスを降りた。


 朝のバスは、ほぼ満員状態なので、

乗客が私一人になることはない。

しかし、夕方の帰りのバスでは、

時々そういう事があるのだ。

だから、私は、バッグにもキャンディーを

常備するようになった。

そして、彼が運転するバスに乗った時は、

助手席に座る。二人きりになったら、

キャンディーを渡して、とりとめもない会話を

ちょっとする。これが、私の楽しみの一つになった。

そんなことを何回かするうちに、彼の事がもっと

知りたくなってきた。

彼の事は、名前と職業しか分からない。

もし、既婚者だったら不倫になってしまう。

それは嫌だ。既婚者でなくても、彼女がいたら・・・

略奪愛もしたくない。

彼が、妻も、付き合っている人もいなければ、

ゆっくり会ってお話をしてみたい、という気持ちが

膨らんでいった。

でも、直接聞いてしまったら、今の関係が壊れてしまう

ような気がして、聞けなかった。

続きは、3月9日(月曜日)に投稿する予定です。

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