16.奇襲
楽しいスキー旅行から帰って来ると、
私は、両親に呼び出された。母が言った。
「まいちゃんは、お付き合いをしている人がいるの?」
私は、びっくりした。
透さんの事は、すみれ以外は知らないはずだ。
すみれが言うはずないのに、
どうして両親は、知ってしまったのだろうか。
「どうして?」
しらばっくれて聞くと、母は言った。
「お花の生徒さんが、あなたと男の人が二人で、
飲み屋にいるところを見たって、
教えてくれたのよ。」
私の母は、専業主婦だが多趣味な人で、
お茶にお花、日本舞踊に着物の着付けと、
師範の資格を取って、自宅で教室を開いている。
その生徒さん達と私は、面識があった。
というより、一緒に教室に通わされた事があるのだ。
まさか、あの居酒屋に行った日、
その生徒さんの一人に、見られていたとは。
「そう、お付き合いしている人がいるよ。」
「その人を、今度家に、連れていらっしゃい。」
両親は、詳しい事は聞かなかった。
そして今度、透さんを家に連れて来る事を約束した。
透さんは、手土産を持って、緊張した面持ちで、
私の家に来た。
「大島透です。よろしくお願いします。」
両親は、透さんの事をいろいろと聞いて、歓談した。
ように見えた。
ところが、透さんが帰った直後、攻撃が始まった。
「あの人は、やめておきなさい。
子どもが二人もいるなんて、
あなたが苦労するのは、目に見えている。
早いうちに別れなさい。」
「高卒じゃないの。大卒のあなたとは、
つりあわない。」
「あんな人のどこがいいの。
良いところなんて、ないじゃない。」
子どもがいる事は、分かってお付き合いしているのに、
そんな事言われても困る。
しかも、私が大学に行ったのは、
高学歴の結婚相手を、見つけるためじゃない。
透さんは、お箸の持ち方だって上手だし、
トイレのスリッパも、次の人が履きやすいように、
きちんと並べられる人なのに、
良いところがないなんて、なによ。
何より、私が出会った運転士さんの中で、
一番お客様の事を考えている、運転士さんなんだよ。
心の中で、そう叫んだが、
両親のあまりの豹変ぶりに、私は言葉を失っていた。
そういえば、私の上の姉の旦那さんは、
大手一流企業に勤めている。もちろん高収入だ。
下の姉の旦那さんは、小さいながらも、
会社を経営している社長だ。
その人達を、母は、親戚や自分の友達に、
自慢していた。
だから、私の旦那さんになる人も、
自慢できる人が、良かったのかもしれない。
透さんは、地方のバス会社の社員で、
収入も私より少ない。
姉の旦那さん達と比べれば、自慢はできない。
また、姉達は、母と同じ専業主婦なので、
私も専業主婦に、憧れを持っていた。
しかし、透さんとの結婚を考えてから、
私も働いて、二人で頑張って行こうと、
覚悟を決めていたのだ。
続きは、5月18日(月曜日)に投稿する予定です。




