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探偵は水底で手を伸ばす

俺はあの後、裏口から逃げ出した。


走って走って、ひたすら走って。無我夢中で道を駆けていった。それなのにどうしてだろう。進んでいないみたいにさっきから同じ風景ばかりで、建物さえ見えない。

「何で」

ナンデ?ドウシテ?二つの言葉が俺の頭の中で繰り返される。


ドンッと背中に衝撃がきた。目の前が真っ白になって風景が分からなくなる。白い空間で認識出来るのは自分の体だけだった。

体はスローモーションの様にゆっくりと倒れていく。

「ホラ、還りたかったのでしょう?」

違う。そう返したはずの言葉はバシャンと水の中に落ちた音で掻き消えた。

ただ俺は、あの世界に帰りたかっただけなのだ。だから。

「雪冬!!」後を追う様に手を伸ばした誰かがいたことも。

「ギャウ!」

アゲハが側にいたことも。

彼は、まだ知らない。



水の中を漂っている。明るい方から遠ざかって、暗い水底へと近付いていく。その隣を大小様々な魚が横切っていった。


何が起こったんだったか。いまいち把握しきれないまま体は下へと落ちる。

空気の泡が逃げていく。酸素が無くなって息苦しい。体温は冷たい水に奪われてしまった。寒い。苦しい。交互にその言葉が浮かんでは消える。

思考がまとまらなくなってくる。口を開けば冷たいものが体の中に入り込む。肺にまでいってしまっただろうか。

息が出来ないのが苦しい。水が冷たくて、寒い。溺死と焼死、どちらがマシなんだろう。だけど、俺は・・・僕、は。まだ───。

水中で無我夢中で手を伸ばす。


カチャリ。ここにはドアもないはずなのに、鍵が開いた音を聞いた。

意識がプツリと途切れる。


「やあ。随分楽しませてもらったよ。─────だから、これはそのお代だ」

意識が途切れる瞬間にはそんな言葉が脳内に響いていた。



その世界に居場所や存在した事実すら消されていても、彼は元の世界に帰ろうとしただろうか?

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