第二十話 再征服
傷が治り、馬のアルト号に乗れるようになった。
僕は戦争の準備をしなければいけない。
人の死が香る。
けれども、僕は僕の周囲の人のために、僅かな知恵を絞る。
談話室に入る。もちろん、他人の侵入は防いでいる。
ヤタルスさん、プレスナさん、サタナリア教官、そして僕が座る。
ヤタルスさんが地図を広げる。
「さて、今回の作戦ですが、まずは大貴族を潰します。その後、降伏する貴族は速やかにその領地から引き剥がし、抵抗する領主はできる限り囚えます。この方針で問題ありませんな」
僕は地図を見る。五十ほどの拠点が赤く塗られていた。
「問題ありません。兵力はどのくらい使えるのでしょうか」
ヤタルスさんは別の資料を出してくれた。ナルタール王国の直属兵の内訳だ。
「王国直属の兵千五百名のうち、五百名です。カーン王国がいつ侵攻してくるかわかりませんからな。千名は王都に残します。そして、我々の五百名のうち三百を騎兵とし、残りは予備兵力に回します」
僕はヤタルスさんの目を見る。
「わかりました。反乱軍で最も大きな軍は何名ですか?」
ヤタルスさんは地図を指差す。大きな赤い印が付いている。
「ここですな。ですが、大貴族といえども、直属の兵がいるものは多くありません。兵百名、徴兵が間に合ったとしても、多くて千名程度でしょう」
徴兵の兵はまともに飛び道具も扱えず、防具も薄い。
「わかりました。今回、プレスナさんに指揮を執ってもらいます。よろしくお願いします」
プレスナさんは、こちらを向いて浅く頭を下げた。
「かしこまりました。計画ではどの程度の日数を予想していますか?」
僕はヤタルスさんを見る。
「順調にことが進めば二ヶ月。長引けば半年。ですが、二ヶ月が濃厚でしょう」
少し不思議な言葉だ。幅が大きい。
「それはなぜですか」
ヤタルスさんは、馬の模型を取り出した。
「直属兵三百を馬に乗せる。これだけで、戦闘時の機動力で勝ります。作戦を優位に進められますし、籠城した際は、火を使って落とします。王都とダイフォス領以外は、みな木壁。油を用いれば可能でしょう」
「火はすぐに消されませんか?」
プレスナさんが身を乗り出す。
「消しに来た兵は、騎射で討ち取ります。問題はありません」
問題なさそうだった。
「わかりました。それでも、二ヶ月は早すぎませんか?」
「大貴族が落ちれば、残りは有象無象、軍で圧力をかければ、交渉で事足りましょう」
「ありがとうございます。では、その方針でお願いします」
二人は頭を下げた。僕はサタナリア教官を見る。教官の頭の上の耳がこちらを向く。
「サタナリア教官。この内容について、国王陛下への報告をお願いします。僕たちはすぐに作戦を実施します」
「わかった、グレイ。急ぎすぎないように」
僕たちは出陣した。
まず攻略するのは大貴族。常備兵力は百名、徴兵で千名ほどまでに膨らんでいる。
どことなく、太った拳闘士が思い浮かぶ。
フットワークとキレで攻めればいい。身体を大きくしても、指揮官が変わるわけじゃない。落とす目標は変わらない。
戦争はたぶん、勝利するための方法がある。
顎を打ち抜き脳を揺らすような。
僕はヤタルスさんにイメージを伝える。
フットワークで翻弄して、隙ができたところを突いて、すぐに倒してほしいと。
ヤタルスさんが考え、プレスナさんが実行する。
プレスナさんの精鋭の騎兵たちが弓を撃って敵に少しの損害を与え、離れる。
それを何度も繰り返す。
何度目かの攻撃の時、敵がそれに合わせて門を開け、突撃をしてくる。
そこに、ヤタルスさんが伏せさせていた剣兵たちが切り込み、城門を確保する。
中にいるのはほとんどが徴兵された兵。
訓練された僕たちの剣兵に敵うことはなく、あちこちで降伏する。
僕は書類にサインした。降伏勧告の書類と、兵に対して報酬を出すので、民衆から奪わないようにという書類だ。
このような戦いをいくつか繰り返した。
最初に大貴族を落としたことはよく効いたようで、ほとんどの貴族は降伏し、捕虜となった。
「素早く動いてくれたヤタルスさんとプレスナさんのおかげです。ありがとうございました」
僕は二人に頭を下げた。
王都に戻った僕は、アントワネット姫に呼び出される。
「姫、どうかなさいましたか?」
姫の機嫌はよくなさそうだった。肩が微妙に震えている。
「どうして、すぐに私のもとに姿を見せないの!」
約束はしていないけれども、確かに約束をしていた気持ちになる。
「申し訳ありません。呼んでいただき、ありがとうございます。忘れてしまうところでした」
姫が僕をにらむ。
「忘れるの?」
僕は自分の心を確認する。
「いえ、忘れません。顔を見せるのを忘れてしまったかもしれない、ということです」
姫は僕の目から視線をずらし、僕の喉を見た。
「グレイ」
「はい」
「これから先、一週間ごとに一緒に夕食を取ります。良いですね」
「はい。あれ? いえ、わかりました」
そう言うと、姫は颯爽と帰っていってしまった。
今日は頬は腫れなかった。
翌日、僕は執務室代わりに使っている応接室で、サタナリア教官の訪問を受けた。
「グレイ、王弟派の貴族たちが自らの兵糧庫に火を付けたのは知っていますか?」
「はい、プレスナさんから聞きました。それがどうかしましたか」
「王弟派の貴族は、民衆の食料庫も燃やした。我々に奪われることを恐れた暴発でしょう。つまり」
「つまり?」
「冬が来た時、食料が不足します」
僕は麦粥の味を思い出した。




