第十八話 グレイの布告
翌朝、僕の頬はまだ赤い。姫の指のあと一本一本まで残っている。
僕は昨日姫に張られた頬を撫でた。
僕は、僕にできることをしなければいけない。
僕は国王陛下の許可を得て、アレクセイ・プラソール国王陛下の名前で、布告を出した。
国中に、武芸の優れた猛者を集めるという札をたてたのだ。
僕は悪魔から逃げることしかできなかった。
けれども、ナルタール王国は広い。
悪魔と戦える人もいるに違いない。
僕は王都の広場の、演台を置いた台に登る。
「僕はグレイ。今、アントワネット姫と婚約をしています」
人々の足が止まる、「おい、グレイだぞ」「なんだなんだ?」「そういやまだ結婚してなかったな」など、みんなの声が聞こえる。
広場に置かれた台が珍しいのか、台のすぐそばには子どもたちが集まってきた。
「みんなにお願いがあります!」
注目が集まった。僕はみんなに顔が見えるように一周する。
「今、強い人を探しています。僕は悪魔というとても強い敵と戦おうとしています。これはナルタール王国の存亡に関わる話です。悪魔と戦ってくれる人が必要なんです。自信のある人は、衛兵詰所まで来てください。報酬は十分にお支払いします」
僕の声を聞き、人垣の後ろのほうで、何人かが動いたように感じた。
その一瞬、僕は周囲の警戒を怠った。
演説する台に、一人の男が飛び乗ってきた。手には刃物を構えている。
台の上は狭く、フットワークが使えない。
台から飛び降りると、周りにいる子どもを押しつぶす恐れがある。
僕は拳を握る。
けれども、相手の反応が早かった。
相手は刃物を突き出さず、僕に抱きついてきた。
まずい。
そして、片手で僕に抱きついたまま、もう片方の手で刃を胸に突き立ててきた。
僕の胸に刃が沈む。
騎士が飛びかかり、男を組み伏せる。
僕は胸を探る。
アントワネット姫へ贈るはずだったペンダントが歪み、僕の血で汚れていた。
思ったよりも血が流れる。
視覚が暗くなる。音が遠くなる。指先が痺れる。
僕は大の字に倒れた。




