第十二話 討伐軍指揮
乾いた風が吹く。
愛馬アルト号の上からの景色は広く、遠く城壁が見えた。
僕たちの上空を、僕の相棒のクマタカのカミスが舞っている。
国王陛下の命令を受けた三週間後に、ようやく兵隊が集まった。
「グレイ様。二千の兵、整いました」
僕のそばにプレスナさんが寄る。
「わかりました。ありがとうございます」
僕は地形を確認する。石積みの城壁と、それに向かい合う森を見つめた。
夜、軍議の場。
天幕の中で、人形を並べて様子を再現する。
「我が軍は二千、反乱軍は五百、寡兵ゆえ、城壁の内側に縮こまっていることでしょう。なんの問題もありません。力押しでいきましょう」
参戦した若い、いや、僕より年上だろう騎士が、勇んで言う。
「ふむ、後背に森がありますが、そちらはどうしますかな?」
中年の騎士が髭をしごく。
「敵は少数、その数を分割するなどありえん。なにより、時間を使えば兵糧もかかる。念の為、何騎か偵察に向かわせ、本隊は一気呵成に攻めれば何も問題ない」
年配の騎士も言う。
僕はプレスナさんに確認する。
「参戦した騎士たちと、国王陛下直属の兵の数をそれぞれ教えてください」
僕は、自身の体調を確認する感覚で、兵の内容を聞いた。
「国王陛下直属の兵が五百。参戦した百以上の騎士たちの兵が千五百です」
「その参戦した騎士たちには、誰がどのように指揮しますか?」
「この軍議の場で決定し、それぞれ指揮していただきます」
試合前に作戦を決めて、その通り動くと言う感じかな。
「作戦を変える時はどのようにしますか?」
「ラッパの合図で一度撤退し、再度軍議を開き、方針を改めます」
「なるほど、それは大変ですね」
年寄りの騎士が口を開く。
「グレイ様は何をおっしゃりたいのか」
なんだろう。兵隊の動きを確認するのは良くない事なのだろうか。
「兵の動きを確認しています。敵の数は五百です。少なくない。僕はもっと少ない盗賊団に苦戦したことがあります」
軍議の席が笑い声で溢れた。
「なるほど、なるほど。グレイ様は盗賊団に苦労されたのですな。でしたら、此度の戦を恐れることも理解できます。安心されよ。我らだけで蹴散らして見せますゆえ」
中年の騎士はそう言うと立ち上がった。
「皆、明日は包囲戦にて殲滅する。軍議は終わりだ。グレイ様、それでよろしいですな」
僕が返事をする前に、その騎士は帰ってしまった。残りの騎士も一礼してそれぞれ帰ってしまう。
軍議に残った僕は、千五百を模した兵隊の人形で城壁を取り囲む。薄く丸い。包囲戦の形だ。でも、背後には森がある。
僕は残ったプレスナさんに声をかける。
「あの騎士が言ったように、そのまま勝てれば問題ありません。だから僕は、代わりの作戦を行おうと思います。聞いてもらえますか?」
「はい。グレイ様、仰ってください。ですが良いのですか。力押しで城が落ちれば、手柄は騎士たちのものとなります」
「僕が国王陛下から受けた仕事は、王弟ダイフォスを討つことだけです。手段は問われていません」
「わかりました。私と直属の兵は、その指示に従います」
「じゃあ、まず……」
僕は直属の五百の兵隊を分ける案を提案した。
プレスナさんは少し驚いた様子だった。
翌朝、ラッパが吹かれ、王国軍の騎士が指揮する千五百の兵隊は、一斉に城壁に向かって駆け寄った。
僕は遠くの高台からその様子を眺めている。
前線の兵は大きな盾を構え、後方の兵はハシゴを持っている。
城壁からは矢が飛んでくるが、その数は少ない。距離が詰まると、そこに投石が混じる。
運の悪い兵が、矢や投石を受けている。
戦況は、多分、僕たちの方が優勢だ。
その時、上空を飛んでいたカミスが高く鳴いた。
その直後、森の中からダイフォス軍の騎兵たちが現れた。
森を偵察していた数名の兵はやられてしまったのかもしれない。
そして、後背を突かれた騎士の兵隊は対応ができない。
ダイフォス軍の騎兵たちは、それぞれおよそ百騎の二手に分かれて、包囲陣に向かう。
騎兵たちは広がって薄くなった包囲陣を次々と貫き、蹴散らしていく。
千五百の騎士の兵隊は、大混乱に陥った。
そこに、城壁の城門が開き、ダイフォス軍の三百の兵隊たちが一丸となって飛び出して、崩れた包囲陣の兵隊を次々と切っていく。
ダイフォス軍の作戦が決まった。
戦場の数的優位はひっくり返された。
僕はプレスナさんに手旗で合図をする。
プレスナさんは、盾と投げ槍を持った三百の兵隊をダイフォスの騎兵の一方にぶつける。
投げ槍で牽制された騎馬たちは足が止まり、そこに三百の槍持ちの兵隊がぶつかる。
ダイフォス軍の二手に分かれた騎兵のうち、一方が潰れた。
これで、包囲陣の完全崩壊を防ぐ。
その隙に、プレスナさん率いる二百の騎兵が城門に突撃する。
ダイフォス軍は主力を城壁の外に出している。
敵は城門を閉めるタイミングを逃した。
プレスナさんたち騎兵二百は、素早く城門を潜り抜け、逆に城門を閉めた。
包囲陣を切り裂いていたダイフォス軍の主力三百は、戦場で孤立し、疲労が溜まり、包囲していた兵隊たちに押し潰された。
同様に、百だけ残ったダイフォス軍の騎兵たちも、最初の衝撃力を失い、突撃を繰り返すたびにその数を減らしていった。
そうして、戦いは終わった。
僕は城内に入る。
生き残った王国軍の騎士たちは苦々しく僕を見る。
「ありがとうございました。皆さんの奮戦のおかげで、城を落とすことができました」
「それは皮肉ですかな」
老騎士が僕を睨む。
「とんでもないことです。包囲陣を敷かなければ、敵は城門を閉めてしまい、戦闘はもっと長期にわたっていたと思います。皆さんのおかげで、早急に、被害を抑えて、勝利することができました」
「グレイ様のおっしゃる通りです。騎士の皆様は騎兵の突撃を受けたかもしれませんが、騎兵は通り抜けたため、損害は少なかったと思います」
プレスナさんが僕の言葉を補強してくれる。騎士たちは黙って頷いた。
「プレスナさん。王弟ダイフォスはどうなりましたか?」
「はい。捕らえております。こちらです」
僕はこの城の謁見の間に向かう。
扉が開き、入室すると、ダイフォスは部屋の真ん中で二人の兵によって押さえつけられていた。
しかし、押さえつけられたその顔には、笑みが溢れていた。
「王弟閣下、顔を上げてください」
ダイフォスは顔を伏せたまま笑う。
「勝ったと思ったか、国王の駄犬よ。我が戦いは終わってはおらぬ」
謁見の間の窓の外、遠く砂塵が見えた。
「我が『友軍』カーン王国の軍勢がそなたらを蹴散らすであろう」
砂塵の向こう、旗が小さく見える。それは隣国であり敵国の、カーン王国の紋章だ。
ダイフォスの高くかすれた笑い声が謁見の間に響いた。




