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第007話 第一回 異世界視察団の来日(sideジェンダー)

ウチはフリーダム都市国家の行政長、ジェンダーや。

ウチら三カ国の武官と文官を率いて、未知の国「ニホン」の地を踏むことになったんやけど……正直、最初から頭が追いついてへんかったわ。


ニホンの実質的な首都である「トウキョウ」までは、コアラ大陸からおよそ二千キロも離れとるらしい。特命全権大使のクジョウはんの話やと、まずは皇国南部の更地に待機してるシィーツー(C-2)ってバカでかい鉄の鳥に乗って、約三時間半かけて「オオサカ」っていう都市へ向かう。そこからさらに五百キロ離れたトウキョウへは、シンカンセンとかいう乗り物でたったの二時間半で着くらしいねん。


二千キロを三時間半? 五百キロを二時間半?

いやいや、数字おかしいやろ! ダージリンが誇るペガサス部隊の強行軍かて、五百キロ移動するのに数日はかかるんやで?

ウチの頭には疑念しか浮かばんかったけど、クジョウはんにエスコートされるまま、土煙舞う原っぱにドカンと鎮座するその巨大な鉄の塊に足を踏み入れることになったんや。


「こちらにある、日本の輸送機C-2で大阪に向かいます。座席は関係者全員分ありますので安心してください。私は行けませんが、別の外交官は同行しますのでご安心ください。」


クジョウはんは涼しい顔で言うけど、ウチの理解は完全にキャパオーバーや。

タラップを登って機内に入ったら、そこは冷たい金属で覆われた巨大な空間やった。生き物やったら胃袋にあたるんやろうけど、これは間違いなく人工物や。要人向けに用意されたっていうその区画には、各国の王族かて持ってへんような、雲みたいにふかふかした椅子がズラリと並んどった。

シートベルトっていう命綱みたいな固定具を締めながら、ウチは思わず息を呑んだわ。


ダージリン王国のペガサス乗りが空を飛ぶ時って、こんな気持ちなんやろか……。

突然、腹の底を震わせるような轟音が響いて、鉄の巨鳥が地面を滑り出した。見えない巨人の手で背中をドーンと押し付けられたかと思ったら、フワッと内臓が浮き上がるような感覚。

飛んでる……!


三時間半後、雲海を抜けたウチらの眼下に広がったんは、言葉を失うほどの異世界やった。

巨大なガラスと鉄でできた無数の塔が、地平線の彼方までびっしり生えとる。ウチ、過去に一度だけ世界最強って言われるアンクル帝国の帝都サムに行ったことあるんやけど、あの誇り高き帝都すら、この眼下の都市に比べたらただの田舎村や。

アンクル帝国と同等……いや、それを遥かに超える国力。

コアラ大陸から二千キロ離れた絶海に、こんな規格外の国家が存在してたなんて。転移国家って説明受けた時は半信半疑やったけど、このオオサカの摩天楼を見下ろした瞬間、ウチの中の疑念は全部吹き飛んだわ。彼らはホンマに、次元の違う世界からやってきた連中なんやと。


オオサカ国際空港とかいう、途方もなくバカでかい平原に降り立ったウチらは、そのままインターコンチネンタルホテル大阪っていう宿泊施設に案内されたんやけど……。

ホテルに入った瞬間、同行してたジャポン皇国の事務方の一人が泡吹いて気絶しよった。

そらそうやろ。フリーダム都市国家の首都カクメイやダージリンの王都コウチャなんか目やない。太陽みたいに眩しい人工の光、勝手に開く透明の扉。こんなとてつもない場所が「民間」で運営されてるって聞いて、ウチの価値観は根底からバキバキにへし折られたわ。


ウチらはこの黄金の城みたいなとこで、ニホンの歴史やルールを、震える頭に必死に叩き込んだ。

そして翌日、学びを終えたウチらは、すぐ隣にある「オオサカ駅」っていう鉄の馬車が大量に止まってる場所から、いよいよトウキョウへ向かうことになったんや。


◆ ◆ ◆



■ 同行者のエルフ娘視点



「ひゃああああっ! ジェ、ジェンダー様、外の景色が……!」


私はフリーダム都市国家の文官見習い、エルフ族のルミナ。

C-2と呼ばれる巨大な鉄の鳥の窓に張り付きながら、私は長い耳をピコピコと震わせて叫んでいました。

つい数時間前まで、私はこの鉄の怪物の胃袋に飲み込まれ、空へ連れ去られる恐怖で半泣きになっていました。離陸の瞬間の、あの内臓が押し潰されるような感覚は今思い出しても足がすくみます。けれど、雲の上に飛び出してからの景色は、私のエルフとしての長い寿命の中でも決して見たことのない、息を呑むような美しさでした。


そして到着したオオサカの街は、本の中のおとぎ話すら生ぬるいほどの魔法の国だったのです。


「ルミナ、落ち着き。ニホンの方々に失礼のないようにしいや」


ジェンダー様は毅然とした態度で私をたしなめますが、そのジェンダー様の手も微かに震えているのを私は見逃しませんでした。無理もありません。案内された「ホテル」という建物は、足を踏み入れただけで魔力酔いしそうなほどの豊かさに満ちていたのですから。


「これ、火の魔石も使っていないのにお部屋全体が暖かいです! それに見てください、この水が出る銀色の筒! お湯と水が別々に出るなんて、どんな高度な水精霊の魔法を契約しているんですか!?」


私は部屋中を駆け回り、天井の明かりを付けたり消したり、フワフワのベッドにダイブしたりと、好奇心を抑えきれずにいました。

これが、あの恐るべき兵器で私たちを救ってくれたニホン国の真の姿。破壊の力だけでなく、人々の暮らしをこれほどまでに豊かにする技術を持っているなんて。


「さあ、次はシンカンセンやで。五百キロをたった二時間半やなんて……地上をそんだけ速く移動したら、風景はどうなってしまうんやろな」

「きっと、風そのものになるんだと思います!」


私は目を輝かせました。オオサカ駅の地下深く、冷たい金属の輝きを放つ流線型の巨大な蛇のような乗り物が、音もなく滑り込んできます。

これが、私たちをトウキョウの会合へと導くシンカンセン。

魔法も魔石も存在しない国が作り上げた、極限の物理法則の結晶。私は期待と興奮で胸をバクバクと鳴らしながら、ジェンダー様の頼もしい背中を追って、未知なる鉄の馬車へと足を踏み入れました。


◆ ◆ ◆



■ ジェンダー視点



シンカンセンってやつは……ホンマに、どう表現したらええんか分からんかったわ。


時速二百ハ十五キロって、人間の頭で理解できるスピードやない。ダージリン王国のペガサスかて、最高時速はせいぜい百二十キロや。その二倍以上の速さで、空やのうて「地上」を移動するんやで? 空なら障害物もないからまだ分かる。けど、大地にへばりついたままこんなスピードが出せるなんて、どんな理屈なんや。窓の外の風景は、ただの色の帯になって後ろに吹っ飛んでいく。ウチはただただ、時速二百ハ十五キロで流れるその景色を呆然と見つめるしかなかったわ。


そして一時間後、ウチらは実質的な首都であるトウキョウに到着した。

そこは、オオサカとはまた全然違う、圧倒的な摩天楼やった。二ホンの外交官はんに案内されてスカイツリーなる天まで届くようなバカでかい塔の展望台に上った時、ウチはトウキョウのすべてを理解した気がした。


視界の端から端、地平線の彼方まで、びっしりと鉄のジャングルが続いとる。

緑の森やない。ガラスとコンクリートと鉄でできた、無数の塔の森や。この世界のどこを探しても絶対に実現不可能な風景を、ニホンは自らの手で作り出したんや。空を埋め尽くすほどの富と技術。この現実を前にしたら、魔王軍の二十万なんて、ただのアリの行列にしか見えへん。ウチは窓ガラスに手をついたまま、ただただ呆然とするしかなかった。


その日はエンジリン マリエンタル トウキョウっていう、これまたオオサカに負けんくらい豪華なホテルに泊まって、翌日。ホテルの会議室で、ウチら三カ国の視察団と、ニホン政府の実務者たちによる本格的な会談が行われた。


トウキョウのど真ん中にある「首相官邸」っていう、重厚で威圧感のある建物に通された時のことや。ウチら視察団が案内されたバカでかい会議室の向こう側には、ニホンというバケモノ国家のトップ連中がズラリと顔を揃えとった。


内閣総理大臣をはじめ、防衛大臣、農林水産大臣……ニュース映像でしか見れんような全閣僚が、フリーダム都市国家のしがない行政長であるウチや、ジャポンやダージリンの文官武官たちを真っ直ぐに見据えとる。魔法も魔力も一切持たへんタダの人間やのに、彼らが纏う覇気と知性は、魔王軍の幹部なんか目やないほどのプレッシャーやった。


「はるばる日本国へようこそ。ジェンダー行政長、並びに使節団の皆様。我々は、貴国らとの強固な連携を心から歓迎いたします」


総理大臣が、温和やけど絶対に底を見せん笑顔で口火を切った。

会談の最初の議題は、農林水産大臣からの「食糧輸入と農業技術支援」の本格的な提携やった。ニホンはこれだけの圧倒的な技術と富を持ちながら、転移の影響で食料自給に致命的な弱点を抱えとるらしい。ウチらのコアラ大陸の豊かな農地と資源は、彼らにとって喉から手が出るほど欲しい「生命線」なんや。お互いの弱点を補い合う、完璧な対等取引。これにはウチらも即座に全面協力を約束したわ。


そして本題の「軍事支援」についてや。

「技術流出防止法」の壁がある以上、大砲や自動小銃は渡せへん。やけど、防衛大臣がニヤリと笑って提示してきた目録を見て、ウチは思わず息を呑んだ。


「我が国からは、皆様の軍隊の『足』と『兵站』を劇的に強化する機材を無償提供いたします。まずは軽トラック、そしてスーパーカブです」


机の上に広げられた写真には、小さな鉄の箱みたいな四輪車と、無骨な二輪車が写っとった。

防衛大臣の説明によると、この「軽トラック」とやらは、馬の何倍もの荷物を積みながら、疲れを知らずに走り続ける鉄の荷馬車らしい。「スーパーカブ」に至っては、どんな悪路でも泥まみれになりながら走り抜け、伝令や偵察の速度をペガサス並みに引き上げるという、とんでもない耐久力を持った二輪の魔獣や。


「さらに、大量の物資を人力で運搬可能にするリヤカーと、てこの原理を応用して従来の弓兵の能力を跳ね上げるコンパウンドボウ(複合弓)、スーパーカブ直付の無反動砲、兵士の近接用89式多用途銃剣。これらの運用ノウハウと整備技術を、自衛隊員が直接指導いたします」


ウチは、背筋に冷たい汗が伝うのを感じた。

銃や大砲みたいな「直接的な殺戮兵器」やない。せやけど、これらの物資は最前線の兵士たちの疲労をなくし、大量の矢と食糧を瞬時に戦場へ送り届けることができる。

戦争の勝敗を決めるのは、前線の兵士の強さやない。彼らに飯を食わせ、武器を届ける「物流(兵站)」なんや。ニホンのトップ連中は、技術流出のルールを完璧に守りながら、ウチらの軍隊の根底をひっくり返す「最高の魔法」を提示してきたんや。


「……おおきに。ニホンはんのその提案、ありがたく丸呑みさせてもらいますわ」


ウチが震える声で合意のサインをした瞬間、総理大臣は満足げに頷き、そしてとんでもない提案を付け加えてきた。


「無事に合意に至り、何よりです。……さて、明日は少し足を延ばしていただきましょう。書類上の兵器ではなく、我が日本国が誇る『真の防衛力』を、皆様のその目で直接ご覧いただきたいのです」


総理大臣の言葉に、ウチの心臓が大きく跳ねた。

聞けば、明日から富士の裾野で行われる陸上自衛隊の総合火力演習、横須賀での海上自衛隊の観艦式、そして関東の基地でのF-15XJやF-35、さらに最新鋭の第6世代戦闘機F-3の飛行展示見学という、フルコースの軍事演習に招待してくれるらしい。


「ニホンの……本当の実力……」


ランズ・エンドで十三万の軍勢を消し飛ばしたあの力は、まだ彼らの「ほんの一部」に過ぎへんのやろか。

恐ろしさと、それ以上の好奇心がないまぜになりながら、ウチら異世界視察団は、いよいよニホンという神話の怪物の「本当の牙」を目の当たりにするんや。



◆ ◆ ◆



翌朝。

ウチら異世界視察団のメンバーは、トウキョウから『大型バス』と呼ばれる快適な鉄の箱に乗せられ、ニホンが誇る霊峰「フジ」の裾野にある広大な荒野へとやってきた。


「ジェンダー様! 見てください、あの山の美しさを! 頂に雪を戴いて、まるで神霊が宿っているかのようです!」


エルフの娘、ルミナが窓に張り付いて長い耳をピコピコと揺らしとる。

確かに、空を突くようなその巨大な独立峰は、神々しいまでの威容を放っとった。やけど、ウチの背中にはずっと冷たい汗が流れ続けとる。

ここ東富士演習場には、今日のために陸上自衛隊の精鋭たちが集結しとるらしい。ランズ・エンドで魔王軍を消し飛ばしたのは、空と海の部隊や。なら、この大地を這う部隊は一体どれほどの力を持っとるんや……?


案内された観覧席(VIP席)に座ると、ニホンの防衛大臣が満足げな笑みを浮かべてマイクの前に立った。


「これより、異世界使節団の皆様に向けた、陸上自衛隊による特別総合火力演習を開始いたします」


そのアナウンスが終わるか終わらないかのうちに。


――――ズドドドドドドドッ!!!


大地そのものが悲鳴を上げるような、腹の底を揺らす重低音が響き渡った。

「ひっ……!?」

ルミナが耳を塞いでウチに抱きついてくる。ダージリンの武官たちも、思わず腰の剣(演習場に入る前に預けさせられたから実際には無いんやけど)に手を伸ばす仕草をした。


土煙を上げて広大な平野を疾走してくるのは、幾何学的な迷彩柄に塗られた、平べったい鋼鉄の巨獣たちやった。


「あれが、我が国の陸上防衛の要。10式(ヒトマルしき)戦車です」


クジョウはんが、双眼鏡を覗きながら淡々と説明する。

「せんしゃ……?」

重さ四十トンを超えるというその鉄の塊は、ウチらの常識を嘲笑うかのような速度――時速七十キロ近いスピードで、荒れ地を跳ねるように駆け抜けとる。ダージリンの重装騎兵が束になっても、体当たりだけでミンチにされる絶望的な質量や。


「目標、前方三キロの敵装甲部隊。……撃て」


無線機から無機質な声が響いた瞬間。

疾走し、車体が上下に激しく揺れているにもかかわらず、10式戦車の長く伸びた砲身(砲の筒)だけが、まるで空間に縫い付けられたかのようにピタリと前方を向き続け――。


――――ッッッパァァァァァァァァンッ!!!!


空気が、物理的に爆発した。

音よりも先に、凄まじい衝撃波が観覧席をビンッ!と叩きつける。

発射炎と共に打ち出された120ミリ滑腔砲の徹甲弾は、音速を遥かに超える速度で飛翔し、三キロ先の標的(分厚い鋼鉄の板)の中心を寸分の狂いもなく、まるで紙切れのようにぶち抜いて粉砕した。


「……嘘、やろ……?」

フリーダム、ジャポンやダージリンの武官が、へたり込むように椅子に座り込んだ。

走りながら。しかも三キロも離れた米粒みたいな的に。魔法の誘導もなしに、百発百中でぶち抜く? あんなもん、どんな魔法防壁を張ろうが、展開する前に術者ごと消し飛ぶわ。


だが、恐怖はそれで終わらんかった。


「続いて、特科(砲兵)部隊によるTOT(同時弾着射撃)を展示します」


大きい声のアナウンサーの言葉の直後、今度は演習場の遥か後方、山陰に隠れて姿すら見えない場所から、連続した雷鳴のような発射音が轟いた。

「……何や? 姿が見えへんぞ!?」

「19式装輪自走155ミリりゅう弾砲です。ここから十キロ以上後方に展開しています」


十キロ!? ランズ・エンドで魔王軍を消し飛ばしたあの海からの砲撃と同じや。

やがて、空を引き裂くような飛翔音が幾重にも重なって降り注いできた。そして、信じられない現象が起きた。


ドガァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!


演習場のど真ん中に設定された目標地域。そこに、発射したタイミングも距離も違うはずの数十発の砲弾が、「コンマ一秒の狂いもなく、完全に同時に」着弾し、巨大な火柱のドームを作り上げたのだ。

コンピューターとGPS(?とかいう星の魔法)による、完全な弾道計算。

逃げる隙すら与えない、純粋な物理演算による「神の鉄槌」やった。


「…………」

ウチはもう、言葉を発することすらできんかった。

これが、ニホンの「陸」の力。

もし仮に、彼らが本気でコアラ大陸を侵略しようと考えたら? 魔王軍どころやない。人類の軍隊が百万いようが、彼らは汗一つかくことなく、コーヒーでも飲みながらボタン一つでウチらを消し炭にするんや。


「ジェンダー様……ニホンは……ニホンという国は……!」

ルミナが、顔面を蒼白にして震えとる。

ウチは、その細い肩を抱き寄せることしかできんかった。


「……すばらしい演習やで」

ウチは必死に足の震えを抑え、引き攣った笑顔を二ホンの外交官に向ける。

「ご満足いただけたなら幸いです。……さあ、次は海です。ヘリでヨコスカ(横須賀)地方隊基地へ向かいましょう」


悪魔は、極上の笑顔で次の絶望(フルコース)へとウチらを誘うんや



◆ ◆ ◆



ウチらを乗せたヘリコプターは、富士の裾野から東へ飛び、あっという間に青々とした海が広がる港町へと降り立った。


「ここが、我が国の海上防衛の要衝の一つ、ヨコスカ(横須賀)地方隊基地です」


ヘリを降りたウチらを待っとったのは、潮の香りと……視界を埋め尽くすような、灰色の「鉄の絶壁」やった。


「ジェ、ジェンダー様! 海に……海に、鉄の城が浮かんでいます!!」


エルフのルミナが、長い耳をピンと立てて金切り声を上げた。

木造の帆船しか知らんウチらにとって、それは船というより「移動する要塞」や。全長百七十メートルを超える巨大な鋼鉄の塊が、何隻も何隻も、波一つ立てずに海に鎮座しとる。

ランズ・エンドの沖合から十三万の魔王軍を粉砕したのは、たった五隻の艦隊やったと聞いとる。やけど、このヨコスカの港には、そんなバケモノがゴロゴロとおるんや。


「ご覧ください。あれが艦隊防空の要、イージス護衛艦『まや』です」


クジョウはんが指差した先にある、ひときわ巨大で、独特の八角形のレーダー板を貼り付けた船。

「イージス……?」

「ギリシャ神話における『あらゆる邪悪を払う盾』の名を冠したシステムです。あの船一隻で、同時に数百の目標を捕捉し、空を飛ぶあらゆる脅威を自動で撃ち落とします」


言葉の意味を理解する間もなく、演習のサイレンが鳴り響いた。

遥か上空、雲の隙間を縫うようにして、仮想敵機に見立てた無人標的機が高速で飛来する。肉眼ではただの点にしか見えへん。

やけど、イージス艦は微動だにせんまま、甲板に埋め込まれた四角い蓋(VLS:垂直発射システム)をパカッと開いた。


――――ボッ、ボボォォォォォォンッ!!!


火柱と共に、何発ものミサイルが真上に向かって打ち上げられた。

空中で滑らかに向きを変えたミサイルたちは、白い煙の尾を引いてマッハの速度で標的機へと殺到し、遥か上空で花火のような爆発を次々と咲かせた。

弓矢も、魔法の火球も届かん絶対の安全圏からの、完全なる対空殲滅。

もし魔王軍に空を覆うほどの竜騎士団がおったとしても、あの「盾」の前では、文字通り手も足も出ずに全滅するんやろな。


「……あれだけやない。見てみぃ、ルミナ。海面が……泡立っとる」


ウチが震える指で海を指差した。

港の少し沖合。何もないはずの海面が突如として大きく盛り上がり、ザバーーッ!と滝のような海水を払い落としながら、漆黒の巨大なクジラのようなものが浮上してきたんや。


「あれは、最新鋭潜水艦『たいげい』です」

「せんすい……かん? 水に、潜る船やと……!?」


ダージリンの武官たちが、幽霊でも見たかのように後ずさった。

船は水の上に浮かぶもんや。それがコアラ大陸の常識。やけどニホンは、水圧と窒息の恐怖を科学でねじ伏せ、海の底を音もなく進む「見えない暗殺者」を作り上げとったんや。

空も、陸も、そして海の底すらも。彼らに死角は存在せえへん。


ヨコスカでの絶望的な(としかウチには表現できん)海軍演習を見せつけられた後、ウチらは近くのホテル、「ホテル オールド ヨコスカ」で一泊したのち、ヘリに乗り込み、サイタマというところにあるイルマ(入間)基地へと案内された。



◆ ◆ ◆



「ここが、イルマ基地......」


そこは、見渡す限りの平らなコンクリートの広場やった。

ウチらの鼓膜を震わせたのは、ランズ・エンドの空を支配したあの「灰色の鳥」――F-15XJの編隊飛行や。腹に抱えきれんほどの爆弾とミサイルを積んだまま、音速を超えて空を切り裂く爆撃のトラック。

やけど、二ホンがウチらに見せたかった「本当の牙」は、これやなかった。


「あれが、我が国が周辺国の脅威に対抗するために配備している、第5世代ステルス戦闘機『F-35A』です」


格納庫の前に置かれとったのは、F-15XJとは全く違う、のっぺりとした不気味な形状の黒っぽい機体やった。

「ステルス……? それは、光学迷彩(透明化の魔法)のようなもんですか?」

「いいえ。光ではなく、敵の『レーダー(電波の目)』から姿を消す技術です。敵からすれば、何もない空から突然ミサイルが飛んでくることになります。魔法の探知結界も、この機体を捉えることはできないでしょう」


見えない所から一方的に殴られる。それがどれほど恐ろしいことか、ウチは痛いほど分かっとる。

やけど、ニホンの技術はさらにその先を行っとった。


「そして――本日は特別に、現在開発の最終段階に入っている、我が国の『最高機密』をお見せしましょう」


外交官の声が、一段低くなった。

基地の上空に、全く音を立てずに「それ」が現れたんや。


「なんや……あれ」


F-15XJのような腹を揺らす轟音がない。まるで空を滑るように、いや、空間そのものを書き換えるように、異常な滑らかさで空を飛ぶ、巨大で鋭角的な黒い機体。

次期主力戦闘機、第6世代戦闘機『F-3』。


「あの機体は、パイロットの思考を直接機体とリンクさせ、さらに周囲を飛ぶ数十機の無人戦闘機(ドローン)を脳波で一括制御します。いわば、一機で一つの『空の軍団』を形成するバケモノです。加えて、高出力のレーザー兵器を搭載し、ミサイルすら光の速さで撃ち落とします」


空中でピタリと静止したかと思えば、次の瞬間には重力の法則を完全に無視したような変態的な軌道で急上昇し、あっという間に雲の彼方へと消えていった。

魔法使いが一生をかけて習得する飛行魔法なんか、あの機体の前ではただの止まった案山子(かかし)や。


「…………」


ウチは、膝から崩れ落ちそうになるのを必死に堪えた。

陸の10式戦車。海のイージス艦と潜水艦。そして、空のF-3。

これが、ニホンという国の「真の防衛力」。


なぜ彼らが、ウチらに銃や大砲ではなく「軽トラック」や「スーパーカブ」を提供したのか。その本当の理由が、ウチの脳髄に冷たく突き刺さった。


(そうか……。ウチらに強力な兵器を渡して、内戦を起こされたら困るから……なんてのは、建前なんや)


本当の理由は違う。

『ウチらがいくら銃や大砲を持ったところで、ニホンにとっては石ころと変わらんから』や。


仮にウチらがニホンの兵器を解析し、自分たちでライフルや大砲を作れるようになったとしよう。そして万が一、ニホンに牙を剥いたとしたら?

彼らは怒ることもなく、ただ遠く離れたトウキョウの椅子に座ったまま、空と海からボタン一つでウチらの国を更地にするやろう。

軽トラやリヤカーでウチらの兵站を鍛え上げ、魔王軍に対する「便利な肉壁(防波堤)」として徹底的に使い倒す。それが、ニホンという国の描いたグランドデザイン(生存戦略)なんや。


「ジェンダー様。いかがでしたか、我が国の防衛力は」


外交官が、眼鏡の奥で冷たい光を放ちながら微笑んだ。

それは「我々は頼もしい友好国ですよ」という優しい顔をした、絶対的な『恫喝』やった。裏切ればどうなるか、その目に焼き付けておけという、神話の怪物からの死の宣告。


「……ええ。お腹いっぱいやわ。これ以上ないくらい、ニホンはんの『優しさ』が骨の髄まで沁みましたわ」


ウチは、強がって笑い返すのが精一杯やった。

ルミナは完全に腰を抜かしてへたり込んどるし、ダージリン含めた他の武官たちは恐怖で歯の根が合わずにガチガチと音を鳴らしている。


こうして、ウチら異世界視察団によるニホン訪問は終わった。

コアラ大陸へ帰還したウチらは、ニホンからもたらされた軽トラックとスーパーカブをフル活用し、前代未聞の機動力と兵站網を構築することになる。


魔法と剣のファンタジー世界は、ニホンという圧倒的な劇薬を飲み込み、もはや後戻りできない激動の時代(フェーズ)へと突入していくのやった。



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50pt

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30pt


誠にありがとうございます。


いろんな作品で、技術流出防止が絡み自衛隊装備が輸出できない展開あります。

考えてみれば、日本の製鉄技術、鋳造・鍛冶技術は中世文明が100年かけてコピペしても実現不可能な領域かと思います。

であれば、ある程度輸出と管理でいいのではないか?と思います。


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― 新着の感想 ―
恐らくJSIの代わりとなったFー15XJはまだ分かるが、まさかFー3の原型がこちらの世界の日本では出来ていたとは…しかも現時点で判明してる現実世界の日本のFー3よりも色々と進歩してて少し羨ましいですね…
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