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第018話 オペレーション・セイグロリアーナ(1)

■日本国 東京・市ヶ谷 防衛省 統合幕僚監部 地下作戦会議室


重厚な防爆扉に守られた地下深くの作戦会議室は、数十名に及ぶ制服組と背広組の熱気によって、空調がフル稼働しているにもかかわらず微かな汗の匂いが漂っていた。

壁面を覆う巨大なマルチモニターには、SS-520観測ロケットを転用して強引に軌道上へ打ち上げられた『期間限定の超小型簡易衛星』から送られてきた、コアラ大陸の光学映像と地形データが投影されている。


「これより、ダージリン王国の王都コウチャ奪還、ならびにウバ山脈制圧を目的とした『オペレーション・セイグロリアーナ』のブリーフィングを開始する」


統合幕僚長が指揮棒(ポインター)をスクリーンに向けた。

そこには、日本という国家がかつて経験したことのない、狂気じみた規模のストライクパッケージ(航空打撃群)の展開図が赤と青の矢印で描かれていた。


「まず航空打撃戦力だ。第一波として、沖縄の石垣空港より第9航空団の『F-15XJ』2個飛行隊が出撃。続いて、東京都管轄の南方――かつての激戦区であり、現在は完全な前線航空基地として機能している硫黄島より、ステルス戦闘機『F-35A』3個飛行隊が発進する。両部隊ともに、王都コウチャにひしめく三百万の害虫(魔族)を『耕す』ための最大爆装(ビーストモード)を施している」

「加えて、厚木基地より『P-1哨戒機』2個飛行隊が発進。機内爆弾倉および主翼下パイロンの限界までCBU-87/B(クラスター爆弾)を過積載し、コウチャを文字通り火の海に沈める、ランズエンド仮空港で燃料補給後本土に帰還させる。」


空自の幹部が口を挟む。

「問題は、王城跡地にそびえ立つ魔素の結晶体『ハイヴ』の破壊です。目標は極めて堅牢な未知の物質であると推測されます。通常爆弾での破壊は不確実です」

「そこは対策済みだ」

統幕長はレーザーポインターを福岡県・築城基地のアイコンへ合わせた。

「『F-2』戦闘機10機からなる特殊攻撃隊を編成した。各機には、マッハ3の超音速で目標を粉砕する空対艦ミサイル『ASM-3A』を2発ずつ搭載。ハイヴを仮想の敵艦船と見なし、物理的な運動エネルギーと徹甲弾頭で完全に粉砕する。……これら数十機に及ぶ航空戦力を往復させるため、KC-46A等の空中給油機を多数随伴させる」


会議室にどよめきが走った。

それは日本の防衛力の大半をコアラ大陸の一点へ叩きつけるに等しい。


「これだけの航空アセットと弾薬の運用……よくも政府が許したものだな」

腕を組んでいた陸幕の将官が、信じられないというように呟いた。「燃料はどこから捻出する? 転移後に確保した資源島からの採掘と精製だけで、これほどの作戦を維持できる十分な量があるのか?」


その疑問に答えたのは、背広を着た防衛省の内局(官僚)だった。


「維持できます。というよりも、『ここで全力投資をしてでも回収する』というのが総理と霞が関の総意です」

官僚は冷徹な目でモニターを見上げた。

「先日打ち上げられた簡易衛星のデータにより、コアラ大陸の輪郭と周辺海域のデータがおおよそ判明しました。この大陸には、下手を通せば億単位の人口(購買層)と、手付かずの莫大な地下資源が存在しています。我々が圧倒的な暴力で害虫を駆除し、日本が独占できる『絶対的な安全圏(エリア)』と『インフラ網』を構築できれば……日本経済は次の百年、黄金期を迎えます」

「つまり、自衛隊の全力投入は『市場開拓の初期投資』だと?」

「その通りです。害虫(魔族)の脅威を排除した後、海を隔てた周辺国との国交樹立の準備もすでに進められています。日本国の国益を最大化するために、我々はここで出し惜しみをするわけにはいかないのです」


資源と市場。国家の生存競争という名の欲望が、この未曾有の軍事作戦の真の原動力であった。


「その『最大の報酬の1つ』となるのが、このウバ山脈だ」


統幕長が画面を切り替えた。

コウチャの手前に位置するウバ山脈の地形図が三次元(3D)で浮かび上がる。山脈といっても険しい岩山ではなく、地球におけるモロッコやナウル島のような、リン鉱石の露天掘りに適したなだらかな丘陵地帯が連なる地形である。道なき山とはいえ、自衛隊の履帯(キャタピラ)を持つ戦車や六輪・八輪の装甲車であれば、強引に突破し、陣地を構築することが十分に可能な地形だった。


「陸上自衛隊・北部方面隊より、第7師団および第2師団の一部装甲戦力をランズ・エンドへ展開済み。彼らがウバ山脈へ進軍し、山脈内に潜む害虫を掃討。山頂付近を制圧し、そこを足場として王都コウチャへの面制圧砲撃の拠点(前線火力基地)を構築する」


「……統幕長。そのウバ山脈攻略戦において、新たな『実験部隊』を投入するというのは事実ですか?」

「ああ。すでにランズ・エンドで猛威を振るっている自走砲『異01式装輪155mmりゅう弾砲』の随伴に加えて……今回、陸自は極めて画期的な無人機(ドローン)運用部隊の試験を行う」


スクリーンに映し出されたのは、黒塗りの無人ヘリコプター。

川崎重工業が開発した大型無人多用途ヘリコプター『K-RACER X2』であった。


「現在、自衛隊は極端な人員不足に悩まされている。コアラ大陸全土の安定化を目指すには、人間の血を流さず、少ない人員で火力を投射する省人化ドクトリンの構築が急務だ。そこで、既存の『120mm重迫撃砲中隊』から一部の隊員を抽出し、無人機による『携帯型爆撃機運用部隊』へと強引に機種転換させた。計10個小隊を今回の作戦に投入する」


なぜ、ゼロから無人機部隊を創設するのではなく、重迫撃砲中隊からの転用なのか。

理由は極めて合理的だった。120mm砲弾の信管セット、空中破裂や瞬発・遅延の切り替え、爆発物の安全管理といったノウハウを、迫撃砲部隊の隊員たちはすでに完璧にマスターしている。一からドローンの操縦士に火薬の扱いを教え込むより、火砲のプロにタブレットの操作を教える方が遥かに早いのだ。


さらに、前線の観測手(FO)から座標を受け取り、マップ上で火力を投射するという戦術ループは、迫撃砲も空爆ドローンも全く同じである。弾道計算が「放物線」から「ドローンのGPS飛行ルート」に変わるだけだ。

撃った瞬間に弾道を逆算され、反撃される対砲兵戦(カウンター・バッテリー)の恐怖に怯える必要もない。隊員は数キロ後方の安全圏の森に隠れ、タブレットを操作するだけでいい。


「K-RACER X2の実質ペイロードは180kg。胴体下部に新開発の『ロータリー式投下ラック(約20kg)』を懸架し、軽量化を施した120mm迫撃砲ベースの空爆弾(1発6kg)を最大30発搭載する。時速200km以上で前線へ急行し、敵の頭上を通過しながら1〜2秒間隔で投下。一機で長さ数百メートルの『死のライン』を地上に引くことが可能だ」


「運用人員は?」

「1個小隊4機編成に対し、従来は迫撃砲4門を動かすのに20名以上必要だった。だがドローン小隊ならば、タブレットを操作する指揮・管制車の2名と、後方で弾薬と燃料をピットイン作業のように補給するトラック要員4名の、計6〜8名で完結する」


人員は三分の一。展開速度は三倍以上。そして隊員の致死率は限りなくゼロに近づく。

陸上自衛隊において最も高機動で、最も致死的な『無人重迫撃空爆部隊』の産声であった。


「……ウバ山脈には、大量の害虫が伏兵として潜伏していることが確認されている。装甲部隊と、このドローン空爆部隊の完全な連携が作戦の成否を分けるだろう」

統幕長がブリーフィングを締めくくった。


「なお、本オペレーションの初期段階であるウバ山脈攻略については、ダージリン王国のアールグレイ王女殿下が、ランズ・エンドの簡易基地より高解像度モニター越しに観戦される予定となっている。……同盟国に対し、我が日本国の『技術と火力の絶対性』を骨の髄まで刻み込む絶好の機会だ。各員、抜かりなく頼むぞ」


「「はっ!!」」


作戦会議室に、制服組たちの張り裂けんばかりの号令が響き渡った。

現代日本の資本主義的野心と、一切の妥協を排した軍事。それが今、ファンタジー世界の生態系を根底から蹂躙するための巨大な歯車として、冷徹に回り始めたのである。

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― 新着の感想 ―
迫撃砲の砲弾を落とすドローンはプロドローンの2kgペイロードの奴や、ポーランドのドローンリボルバーを彷彿としますがあれでも60mm迫撃砲弾がベースと考えると、120mm砲弾がベースでも最大30発搭載で…
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