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第016話 会談と対話(2)

■ジャポン皇国 皇都オワリ 天守閣 大会議室


ペペロンチーノ超帝国という、覇権主義的な巨大国家の存在。

その衝撃的な情報によって会議室に生じた重苦しい空気を振り払うように、九条はあえて軽いトーンで咳払いをした。


「……超帝国に関する詳細なレポートは、後日必ず提出していただくとして。先ほど少し触れた『コアラ合衆国』の件については、我が国としても前向きに検討いたします。新たな法体制の草案作りなどが必要であれば、遠慮なくおっしゃってください。日本から法務や行政の専門家チームを派遣することは十分に可能です」


九条の言葉に、アールグレイ王女とジェンダー行政長は安堵の息を漏らした。

自分たちの隠し立て(報告遅れ)によって日本が支援を打ち切るのではないかと危惧していたが、どうやらその最悪の事態は免れたらしい。


「さて、本題に戻りましょう」

九条はプロジェクターの映像を、再びダージリン王国とフリーダム都市国家群の広域マップへと切り替えた。


「アールグレイ様。現在、ランズ・エンド防衛基地にて、我が国の陸上自衛隊が貴国の残存兵たちに特科(砲兵)教育を行っているのはご存知ですね?」

「はい。従来の剣や槍を捨て、ニホン国の『火器』を扱うための苛烈な訓練を受けていると聞いております」

「ええ。その仮特科大隊向けに、今週中、日本から新たな装備が届きます。自衛隊での制式は『異01式軽機動対装甲単車』……貴国での制式は『砲兵用自走砲』つまり、高機動型の移動式大砲、計百台です」


「百台も……!? 本当ですか、ありがとうございます!」

アールグレイの顔がパァッと明るくなった。

ジャポン皇国軍をベースに編成された「第一戦略機動大隊」が、日本の軽装甲機動車(パジェロミニ)やオフロードバイク(スーパーカブ110)を用いて凄まじい戦果を上げていることは、すでに少女3人達の知るところである。ダージリンの兵士たちも、いよいよ日本式の『機動打撃部隊』へと生まれ変わるのだ。


「これについて、我が国から貴国等へ一つの要請……いえ、作戦の提案があります」

九条はレーザーポインターを、王都コウチャから南にある三つの都市へ順番に当てた。


「防衛省のスーパーコンピューターが弾き出した計算上、現在、コアラ大陸における魔族の戦力の八割以上が、防衛の要である王都コウチャに一極集中しています。……逆に言えば、周辺の都市群は現在、極めて手薄な状態にあるということです」

九条はジェンダーの方を見た。

「具体的には、フリーダム都市国家群の『都市アンテスキュー』、『都市クラトン』、そして『首都ワックスウェーバー』の三都市です。ここに駐留している魔族は少数に過ぎません」


「……っ!」

ジェンダーが、ゴクリと生唾を飲み込んだ。自らの祖国であり、魔族に蹂躙されて奪われた美しき商業都市たち。


「我々日本政府は、これら三都市の『正義の奪還』を提案します。……作戦の中核を担うのは、ジャポン皇国の第一戦略機動大隊。そして、新たに無反動砲の運用ノウハウを熟知した、ランズ・エンドの仮特科大隊です。この二つの機械化部隊を合流させ、我々が後方支援を行い三都市へ進撃させます。少数の魔族であれば、彼らの火力と機動力で十分に対応可能と判断しました」


九条の提案を聞き終わるなり、ジェンダーは両手で顔を覆い、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。

「うぅ……っ。ホンマに、ホンマにありがとう……! 都市国家のことまで、そこまでちゃんと考えてくれとるなんて……ニホン様様やんか……!」


商業国家のトップとして、普段は金にがめついジェンダーの心からの涙に、アールグレイも優しく微笑みかけた。

「わかりました、クジョウ様。ランズ・エンドの仮特科大隊なる部隊の育成と指揮は、ニホン国に全面的にお任せいたします。彼らも、祖国の隣人たちを救う戦いとなれば、士気は最高潮に達するはずです」


「第一戦略機動大隊と合流しての奪還作戦か……わくわくしてくるのじゃ」

オイニも玉座の上で腕を組み、不敵な笑みを浮かべた。

「我が皇国の精鋭と、ダージリンの騎士たちが肩を並べて戦う。かつてない歴史の幕開けじゃな。奪還の実行に関しては、全面的に任せてもらうのじゃ」


「ありがとうございます。これで、作戦の骨子は全て固まりました」

九条は深く頷いた。

王都コウチャという「魔族の巨大なヘイト(標的)」に彼らの主力を釘付けにし、その間に手薄になった周辺都市群を機械化部隊で鮮やかに奪還していく。この大陸(オーストラリア大陸の約半分ほどの面積)の三分の二を占める人類の領土を、日本式ドクトリンによって一気に取り戻すビジョンが、確かな輪郭を持って見え始めていた。


(よし。これで本日の外交交渉は完了だ。後は帰って、超帝国のレポートを本国に打電するだけ――)


九条が密かに安堵し、書類をアタッシュケースにしまおうとした、その時だった。


「――クジョウよ。本題は終わったようじゃが、一つだけ、個人的な相談……というか、お願いがあったのじゃが」


オイニが、少し言い淀むように口を開いた。

何か含みのあるような、困ったような表情。優秀な外交官のカンが、九条に『厄介事の匂い』を告げていた。


「なんでしょうか、オイニ陛下」

「え~とな。クジョウは、この世界にある『冒険者ギルド』という組織の存在は知っておるな?」


「はい。先ほどの四大魔人の情報の出処として、ジェンダー様がSランクの冒険者について言及されていましたね。フリーの傭兵集団のようなものと認識しておりますが」

九条が答えると、オイニは少し首を傾げながら補足した。


「傭兵、というのとは少し違うのじゃ。冒険者ギルドは、国家や公的に認められている超法規的な組織でな。様々なギルド所属者が、国家や貴族に対して自分たちの権利を主張し、不当な扱いを受けないようにするための巨大な互助組織……集まりのようなものじゃ。今、このコアラ大陸には実質的に我々ジャポン皇国しかまともな国家機能がないため、この皇都オワリに『冒険者ギルド皇国支部』が置かれておる」

「なるほど。一種の労働組合(ユニオン)のような側面も持っているのですね」


「うむ。一般的に冒険者ギルドというのはな、市民や国家から仕事を依頼され、その依頼書をギルドの『ボード(掲示板)』に貼り出すのじゃ。所属する冒険者たちは自分のランクに見合った依頼書を剥がし、受付で受理してもらう。そして依頼を完遂すれば成功報酬が支払われ、失敗すれば損害金を支払う……そういう制度で回っておる組織じゃ」


オイニの説明を聞きながら、九条の脳内では「剣と魔法のファンタジー」というロマン溢れるフィルターが、恐ろしいスピードで「現代日本の法解釈」という無機質なフィルターへと置換されていく。


(依頼主から業務を受注し、自らの組織に登録されている人員をランク分けして適材適所に割り当て、業務を代行させる。成功報酬制で、ペナルティもある……)

九条は眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。


「……つまり。人材派遣会社、あるいは業務請負の『斡旋(あっせん)業者』のようなものですね。理解しました。それで、その冒険者ギルドがどうかしたのですか?」


「実はの」オイニは少し苦笑いをして言った。

「そこのギルド長が、『ぜひニホン国にも我々冒険者ギルドの支部を設置したい』と、強く要望してきておるのじゃ。我々を通さず、直接ニホン国の政府と話し合いの場を設けたいと。……どうじゃろうか?」


「日本国内への、人材派遣事業所の新規設立要請、ということですね」


九条の口から飛び出した、ファンタジーの欠片もない極めて事務的な単語に、オイニたちはポカンと口を開けた。


「人材ハケン? いや、冒険者じゃぞ? 未踏の地を探索したり、強大な魔物を討伐したりする、ロマンと危険に満ちた誇り高き……」

「名称は何でも構いません。組織の形態と業務内容から鑑みるに、我が国の法律においては完全に『労働者派遣法』および『職業安定法』の適用対象となります」

九条は手元のスマートフォンを取り出した。

「この案件は外務省の管轄外です。厚生労働省の管轄になりますね」


「こ、こうせいろうどうしょう……?」


「ちょうど良かったです。現在、このオワリの街には、日本の医療・労働制度とのすり合わせのために、厚生労働省の職員が数名滞在しております。彼らを同席させた上で、その『ギルド長』なる方と話し合いの場を設けましょう」


九条はスマホの画面をタップし、手慣れた手つきでメッセージアプリを起動した。

現在、皇都オワリには日本の民間通信キャリアが進出し、基地局のインフラ整備が急ピッチで進められている。高速大容量通信にはまだ制限がかかっているものの、こうしたテキストメッセージや音声通話のやり取りであれば、地球と変わらぬ遅滞のない環境がすでに構築されていた。


数回のタップの後、すぐに既読がつき、返信が届く。


「確認が取れました」

九条はスマホをポケットにしまい、事務的な笑みを浮かべた。

「厚労省の担当課長が、三日後の午後であれば時間が取れるとのことです。文化や法制度の違いもあるでしょうから、オイニ陛下たちにも同席していただき、この会議室で話し合いを行いたいのですが、いかがでしょうか?」


「う、うむ。承知したのじゃ。……何やら、ハヤシ(ギルド長)が可哀想なことになる気がしてならんが……」

オイニはひきつった笑いを浮かべながら頷いた。


「では、三日後よろしくお願いします。これにて、本日の会談を終了といたします」


九条は深々と一礼し、アタッシュケースを提げて会議室を後にした。

三日後は、異世界の常識たる「冒険者ギルド」が、現代日本の強固な「労働法制」という名の壁に正面から激突する、歴史的な一日となるだろう。九条は少しだけ可哀想なギルド長に同情しつつ、まずは超帝国の脅威を本国へ知らせるため、足早に日本の出先機関へと向かった。


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― 新着の感想 ―
戦力の8割がコウチャに集まってるの!? 2つの奪還作戦が成功すれば戦線に多大どころではない影響を与えるぞ…準備に時間がかかるとは思いますが敵さん方が戦力の集結をし続けてる今がチャンスですね笑 そういえ…
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