↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/19

第012話 Sの小隊VSグレーターデーモン100体

■フリーダム都市国家 港町エンジョイ 郊外


港町エンジョイから西へ五キロ。レッサーデーモンの血肉が散乱する激戦地から遠く離れた小高い丘陵地帯に、周囲の植生と完全に同化し、ピタリと静止している四つの影があった。


陸上自衛隊の迷彩服に身を包んだ彼らは、先ほどの第一戦略機動大隊の空輸を担ったチヌークに極秘裏に同乗し、誰にも知られることなくこの丘へ降下していた。

彼らの所属は、千葉県習志野市に駐屯する陸上自衛隊の最精鋭にして、内閣総理大臣の直接指揮下で動く国内唯一の特殊部隊――特殊作戦群(通称:S)。

わずか四名で構成された最小行動単位(分隊)でありながら、その戦闘力と戦術遂行能力は一個大隊にも匹敵するとされる、日本が誇る最高度の『暴力のスペシャリスト』たちである。


「……やれやれ。第一大隊の連中のお守りとして内密に随行してきたが、凄まじい面制圧だったな」

分隊長が、高性能なスポッティングスコープから目を離さずに低い声で呟いた。

「彼らの戦術練度は予想以上だ。だが……我々の本命はあちら(・・・・)だ」


分隊長の視線の先、第一大隊が歓喜に沸く港町からさらに奥深く。地平線の彼方から、先ほどのレッサーデーモンより二回りは巨大な、筋骨隆々の異形の群れが地響きを立てて接近してきていた。

魔王フランツ・ビータが後詰として配置した、百体のグレーターデーモン(上位悪魔)である。


「さて、雑魚どもは第一戦略機動大隊が片付けてくれた。我々は当初の予定通り、あの巨大な害虫どもの駆除を行う。同時に……」

分隊長は傍らに置かれた漆黒の銃身を撫でた。

「現代の純粋な歩兵火器が、この世界の『上位種』にどこまで通用するかの実証データ(テスト)を採る」


四人の隊員たちが、無言で各々の得物を構える。

メインウェポンは、水陸機動団などでも運用が開始された最新鋭の20式5.56mm小銃。そして、今回の「対大型害虫用」に持ち込まれた切り札――米軍制式の12.7mm対物狙撃銃(バレットM107A1)と、ボルトアクション式の対人狙撃銃である。


「百体という数は厄介ですが、対処は容易です。……この大陸の歴史を変えて、疲れ切った『新緑(第一大隊)』たちに、あの化け物を押し付けるのは野暮というものでしょう。そんなに怖いか? 第一大隊が! ってな」

狙撃手がスコープを覗き込みながら、皮肉めいた軽いジョークを飛ばす。


「各員、目標捕捉。距離一千二百。風速二、北北東。……撃て」


――ドパァァァァァンッ!!


分隊長の静かな号令と共に、12.7mm対物狙撃銃が強烈なマズルフラッシュを噴き上げた。

音速を遥かに超える初速で放たれた重機関銃用の徹甲弾は、グレーターデーモンが反応するよりも早く、その分厚い胸板を紙屑のように貫通し、背後の岩ごと吹き飛ばした。

上位悪魔の絶対的な防御力も、数万ジュールの運動エネルギーを誇る現代の対物兵器の前では何の意味も持たなかった。


「次弾、命中です。目標の装甲、問題なく貫通」

「20式、有効射程内に入り次第、徹甲弾(AP)で頭部を刈り取る。フルオートは使うな、確実に目を抜け」


静寂な丘の上から、現代最高傑作の銃器たちによる冷徹なアンサンブルが響き渡る。

何体かのグレーターデーモンが異変に気づき、咆哮を上げて丘へ向かって突進を試みた。しかし、その巨体が彼らに届くことはなかった。20式小銃の精密な単発射撃(セミオート)が、魔族の眼球や喉笛といった急所を寸分の狂いもなく穿ち、次々と巨大な肉塊を地面に沈めていく。


わずか数十分後。

魔王軍が誇る百体の上位悪魔は、敵の姿を一度も視認することなく、完全なる沈黙を余儀なくされた。


「……掃討完了。容易だな。いや、こちらの火器がオーバースペックすぎるだけか」

分隊長は熱を持った銃身を静かに下ろし、呆れたように息を吐いた。

「むしろ、上に提出する『魔族に対する弾道特性の検証報告書』を書く方がよっぽど骨が折れそうだ。……全隊、撤収」


硝煙の匂いを風に流し、四人の影は音もなく丘から立ち去った。

彼らは再び密かに港町を抜け、ジャポン皇国の皇都オワリの沖合で待機している海上自衛隊のいずも型護衛艦へと帰還し、そのまま日本本土への帰途についた。

歴史の表舞台に一切出ることのない、最強の暗殺者たちによる極秘のテストプレイは、こうして誰にも知られることなく幕を下ろしたのである。



・・・


・・


・



■コアラ大陸西方 魔王城 王の間


冷え切った大理石の床に、パリンッ、と乾いた音が響き渡った。

四大魔人セマの前に置かれていた、部隊の生存状態を示す百個の高位魔石。それが、ほんの数十秒の間に「全て」砕け散った音だった。


「……あり得ません。レッサーデーモン一千体の全滅はまだ理解できます。ですが、後詰として待機させていた百体のグレーターデーモンが、交戦の報告(テレパシー)すら上げる間もなく全滅するなど……!」


常に冷徹な知謀家であるセマの顔に、初めて明確な『焦燥』が浮かんでいた。

グレーターデーモンは、強靭な装甲皮と高度な再生能力を持つ上位悪魔だ。ダージリン王国の精鋭騎士団が束になっても、これほどの短時間で百体を削り切ることなど物理的に不可能である。魔法陣の構築や大魔術の詠唱時間すら無視したような、異常すぎる殲滅速度。


「……セマよ。もはや疑いようがない」


玉座で頬杖をついていた魔王フランツ・ビータは、ゆっくりと立ち上がった。その顔には、底知れぬ未知への警戒と、戦士としての獰猛な歓喜が入り混じっていた。


「人類は、我々の理解を絶する『理外の力』を手に入れた。ランズ・エンドで十三万を消し飛ばしたのも、決して偶然や一過性の奇跡ではない。……だが、ここで足を止めれば魔族の敗北だ」


魔王の赤い瞳が、暗闇の中で鋭く光る。


「全軍の歩みを止めるな。だが、これまでの人間を狩るような油断は完全に捨てろ。バルタザールを新司令とするダージリン侵攻計画は予定通り進める。人類側に最大限の警戒を払いつつ、その『理外の力』の正体を徹底的に探り出せ。敵がその力を完全に掌握する前に、我々から先手を打って根絶やしにするのだ」



・・・


・・


・



■フリーダム都市国家 港町エンジョイ


「大隊長……これを見てください」


残敵掃討と索敵のために、市街地のさらに西へ足を伸ばしていた第一戦略機動大隊の斥候が、青ざめた顔でカンガ・ルーを呼んだ。

報告を受けて駆けつけたカンガ・ルーは、その光景に言葉を失った。


なだらかな丘陵地帯に、山のような巨体を持つグレーターデーモン百体の死骸が転がっていたのだ。

だが、異様なのはその「死に様」であった。カンガ・ルーたちが用いた無反動砲の爆発痕も、コンパウンドボウの矢も刺さっていない。

ある個体は眉間を、ある個体は分厚い胸板を、ただ一直線に『小さな丸い穴』によって貫かれ、脳や心臓を完全に破壊されて即死していた。魔法で焼かれた痕跡すらない。純粋な、そして極限まで洗練された物理的貫通力。


「……グレーターデーモンが、手も足も出ずに一方的に殺されている」


カンガ・ルーは、悪魔の死骸に空いた小さな穴に触れ、背筋に氷を押し当てられたような悪寒を感じた。


(ニホン国だ。奴らの『ジエイタイ』が、密かに背後まで来ていたんだ)


もし第一大隊が負けそうになっていれば、あるいはこの上位悪魔たちが港町へ到達していれば、彼らはこの化物ごと、あの広場を更地にするつもりだったのだろう。そして同時に、これは現代兵器が上位魔族に通用するかを試すための、ただの『標的射撃(テスト)』に過ぎなかったのだ。


自分たちが手にした「最強の力」など、彼らからすればただの玩具に等しい。ニホンという国は、自分たちの手の届かない遥か高みから、圧倒的な暴力でこの大陸の運命をチェス盤のように弄んでいる。


「……油断するなよ、お前たち。俺たちはまだ、本当の地獄の入り口に立っただけだ」

カンガ・ルーは周囲の森を睨みつけながら、部下たちに重く告げた。



・・・


・・


・



■日本国 東京 市ヶ谷 防衛省 統合幕僚監部会議室


「特殊作戦群より報告。グレーターデーモン百体に対する、12.7mmおよび5.56mm徹甲弾の有効性を確認。想定通りの弾道特性を示し、実戦において上位魔族の装甲は歩兵携行火器で十分に貫通可能とのことです」


統合幕僚監部の会議室で、事務的なトーンの報告が読み上げられた。

異世界においては神話の怪物と恐れられる上位悪魔の死も、ここでは単なる「貫通力のテストデータ」としてファイルに綴じられていく。


「ご苦労。これで魔王軍に対する歩兵レベルでの戦闘データは十分に揃った」

制服組のトップが、スクリーンに映し出されたコアラ大陸の地図を見据えた。


「第一戦略機動大隊の運用テストも成功だ。彼らには引き続き、現地の『優秀な防波堤』として働いてもらおう。……さて、偵察航空隊からの報告はどうなっている?」


「はっ。高高度無人偵察機による地質探査の結果、ランズ・エンドと魔王軍占領下の『王都コウチャ』の間に位置するウバ山脈にて、無尽蔵とも言えるリン鉱石の鉱床群を発見しました」


「リン鉱石か……!」


会議室の空気が一変した。

リン鉱石は、化学肥料の三大要素の一つであり、日本の農作物栽培(食料安全保障)に不可欠な枯渇資源である。のみならず、現代のEVや蓄電池に用いられるリン酸鉄リチウムイオン電池の主原料でもあり、日本にとって喉から手が出るほど欲しい戦略物資だった。


「作戦目標を更新する。魔王城の直接攻略は後回しだ」


制服組のトップが、地図上のウバ山脈と、その先に位置する王都コウチャを指差して冷徹に笑った。


「まずはランズ・エンド要塞の完成を急げ。我々の真の目標は、このウバ山脈の完全制圧とリン鉱石の権益確保である。……そして、その『ついで』として、目と鼻の先にある王都コウチャの奪還作戦を行う」


会議室にいる全員が、その言葉の意図を正確に理解した。


「ダージリン王国を魔族から解放してやるという『美しい大義名分』さえあれば、我が国の自衛隊がこの山地に大軍を展開し、資源を半永久的に独占しても、現地の異世界人たちは涙を流して感謝するだろうからな」


ブックマーク登録

18件

総合評価

96pt

評価ポイント

60pt


誠にありがとうございます。

不定期更新ですみません。

リアル忙しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
おお!リン鉱石ですか! なくてはならない大事な資源ですがある場所が山脈か…山脈の制圧だと、地形や気象などが猛威を振るい都市部制圧と同じぐらい過酷で危険度が高い物ですがこれをどう攻略するのか…楽しみです…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。