第三話 朝日は心の準備体操
――日の光が当たったエリザベス、美しかったな。神々しさを感じた。
エリザベスが力をつけると言って部屋から飛び出して行った直後、デヴィットは半分放心状態でそんなことを考えていた。
『とにもかくにもスクワット』なんてエリザベスの叫び声は彼の耳には届いていない。
「殿下。いまエリザベス様が飛び出していらっしゃいましたが、何が……」
デヴィットの一番近くで世話をしている執事が入ってきた。不思議そうな顔の執事を見てデヴィットはやっと自分の言ったことを振り返った。
『……努力していたって結果が伴わなければ意味がないじゃないか』
『4歳の弟には将来性という一点で絶対に勝てない!』
『君の腕で何を支えるというのだ』
――最悪だ。俺は慰めてくれていたリズに力不足など、なんてひどいことを!
「……俺が、傷つけてしまったようだ。後で手紙を書く」
「え? エリザベス様はとてもやる気に満ち溢れた顔でしたが……」
「やる気に満ち溢れた?」
「えぇ、デヴィット様を支えられるようになるとおっしゃっていて、強い決心を感じました」
「……彼女はもうすでに王妃になるための教育をすべて終えているはずだ。政治や世情にもいつもアンテナを張っているし。これ以上何を」
「えぇ、しかし、何かできることがないかと、これから妃殿下にも会いに行くとおっしゃっていました」
執事の話を聞いて、デヴィットは目を丸くする。
「学ぶことを増やすのか!?」
「そこまでは私も……」
デヴィットはそれもそうかと執事に詰め寄るのをやめた。少し落ち着くと、彼女との会話が脳裏に呼び起こされてくる。
『今は結果が伴わないデヴィット様でも私は大好きです!』
――今は。今は、とはどういう意味だ。
「……聞いてもいいか」
「お力になれるかどうかわかりませんが……」
「今は、大好きって、どういう意味だ」
執事が絶望している。執事には何の質問をされているかまったくわからないが、これは世が世なら答えを間違えると首が飛ぶ質問であることはわかる。
「……現在は大好きであるということかと」
「つまり、未来はわからない、ということか」
「……現在は、大好き、ということですね」
もうやめてくれ、執事の顔にそう書いてある。デヴィットの顔も青ざめていく。
――俺、もしかして、捨てられる?
「セバス。どうしよう。俺捨てられる」
「はい!?」
「エリザベスに嫌われてしまう!」
「お待ちください。エリザベス様にそう言われたのですか? 話したことをもう一度思い出してください」
執事の言葉にデヴィットは彼女の言ったことを振り返る。
『おっしゃる通りですわ……私も力不足です』
『私が今、デイヴィット様を支えるに至らないというだけ』
『デヴィット様、力至らぬ私と一緒に成長いたしましょう』
――みて、これ、俺の婚約者。かっこよすぎて無理。
「私も力不足だ、支えるには至らない。だから一緒に成長しようと」
「……どこに嫌われる要素あったんだ? めちゃくちゃ愛されてるじゃないか」
顔を真っ赤にしてのろけだしたデヴィットに思わず敬語が外れるセバス。
「セバス。こうしてはいられない。人を探してほしい」
「え? どなたをですか?」
「王太子になる前学んだことをもう一度学びなおす。政治を実際に見たり聞いたりしたことで疑問も知識の穴も明確になってきているのだ。私の師として適任者はいるだろうか?」
「……はい! すぐに探します!」
セバスが小走りで部屋を出ていく。デヴィットは窓に近づき、空を見上げる。日差しが何とも心地よく感じた。
「あぁ、そういえば、エリザベスに言われたな。日の光を浴びるのは心の準備体操であると」
――待っていてくれ。エリザベス。俺は絶対に君と並び立つにふさわしい男になるから。
デヴィットは決意新たに、ほぼ沈みかけているまぶしい夕日を見つめた。
「目が痛いが、浴びるのは夕日でいいのだろうか」
少し違う気がするとつぶやきながら、浴びないよりましかと目をつぶって太陽に向かって両手を広げるデヴィットであった。




