341:公爵家での会合
「ミーメ嬢、少しよろしいでしょうか?」
「どうかしましたか? ヘルムス様」
死竜対策に光明が差してから数日。
実証実験は……ちょっと難しいのでまだだが、理論と詠唱は無事に完成した頃。
王城で仕事をしていたワタシは、ヘルムス様に声を掛けられた。
「先日、父上が王都屋敷に着きました。そして、ご自身の手で早急に処理しなければ案件も終わりました。なので、ミーメ嬢の都合さえよければ会いたいそうですが……大丈夫ですか?」
「はい、もちろん大丈夫です。ヘルムス様」
思えば、冬の舞踏会の開催まであともう少しで、王都内には普段は見ない馬車がだいぶ増えているようだった。
そのような状況なので、トレガレー公爵が王都に到着しているのも当然の事なのだろう。
そして、公爵が着いたら顔を合わせたいという話は以前からあったので、ワタシが断る事などあるはずがない。
「ちなみに何時ですか?」
「出来れば早い内にとの事でしたので……今日でも問題ありませんか?」
「大丈夫です」
と言うわけで、本日の業務終了後の予定が決定。
その予定に従い、ワタシは自宅できちんとした衣装に着替えてから、ヘルムス様と共にトレガレー公爵家の王都屋敷へと向かうのだった。
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「久しぶりだミーメ殿」
「お久しぶりです、トレガレー公爵様。それに公爵夫人様も」
「ありがとう、ミーメ様。私の事も気遣ってくれて嬉しいわ」
夜、公爵家の王都屋敷を訪れたワタシは、早速トレガレー公爵様……チャップ様と公爵夫人様……コルエ様と挨拶を交わす。
続けて、ヘルムス様の兄上にして王都駐在官であるボースン様に、その奥方であるテレス様、それと秋頃に生まれた姪っ子にも挨拶をしていく。
そして、挨拶を終えた後は、ヘルムス様と共に夕食に参加。
普段より豪勢な物であるらしい食事をマナーに沿って、楽しませていただく。
流石に貴族らしく食べながら、貴族らしい会話を交わす能力まではまだ無いので、ワタシは聞くばかりだが……。
どうやら、ボースン様もヘルムス様も、裏では色々と動いていたし、トレガレー公爵様も同様。
誰が聞いても牧歌的な話など、ワタシから見て甥と姪に当たる子供たちの話くらいなものである。
とりあえず、次期公爵様……つまりはヘルムス様のもう一人の兄上であるオイラー様とその夫人であるタルビーナ様の間に生まれた姪っ子は非常に可愛らしいとの事。
「これで息子が一人に、娘が二人。トレガレー公爵家は次の次の代まで安泰ですね」
「ミーメ殿にそう言っていただけるとは嬉しい事だ。ただ、子供はある程度育つまでは油断ならないものです。我が公爵家ほどの家になればなおのこと。ですのでミーメ殿、貴方もどうか、可愛い孫たちの事を優しく見守っていただければと思います」
「勿論です。ワタシに出来る限りの事はさせていただきます」
ちょうど食事の区切りがついていたワタシが思わず呟いてしまった感想に、公爵様が乗ってくる。
ただ、その内容はワタシとしても同意する他ない話だったので、遠慮なく同意させていただくのだけど。
ちなみに、子供はある程度育つまで油断ならない。特に高位の貴族は。と言う話については、事実であるらしい。
なにせ、グロリアブレイド王家でも悩まされてきた話であるらしいので。
なんか色々とあったらしいのだ。
ワタシが生まれた頃の前後一年くらいの話らしいけど。
何処かのイストフィフスさんが関わってそうな気もするけど。
まあ、そうでなくとも、何があるのか分からないのが子供と言うものなので、何処の家であっても油断ならないのが真実なのだろう。
「ミーメ嬢。そのような話をすると、魔術の指導を求められるかもしれませんよ?」
「別に教えても構いませんよ。とは言え、『八顕現』にしろ、もっと基本的な考えかたにしろ、まずは基本かつ一般的な魔術を教わった後に、それでは満足できないからと本人たちが望んだらですけど」
「……」
「いや、ヘルムス様。そこでズルいと言いたそうな顔をしないで下さいよ。早くて何年も先……それこそ十年くらい後でもおかしくない話ですし、可愛い甥っ子姪っ子の頼みなら、断れなくて当然じゃないですか」
「それは……そうですが」
ヘルムス様の表情には、公爵様もボースン様もやれやれと言う顔をしている。
まったく、ヘルムス様にも困ったものである。
それほど思って貰えている事については、嬉しさも感じるけれど。
「コホン。ヘルムスとミーメ殿の仲が良いようで何よりだ。その様子ならば、冬の舞踏会にも二人で揃って参加するのかね?」
「勿論です父上」
「はい、ヘルムス様と一緒に参加させていただきます。冬の舞踏会に共に出席する事の意味も聞き及んでいます」
「そうかそうか。本当に良い事だ」
ヘルムス様とワタシの言葉に公爵様が嬉しそうにしてくれる。
コルエ様たちも同様だ。
「ドレスなどは……」
「例の物が完成したと連絡を受けていますので、安心してください」
「そうか。ならば儂からは何も言わん。二人とも、大いに目立ち、楽しんでくるといい」
「「はい」」
公爵様に認めてもらえたことで、自然とワタシもヘルムス様も表情がほころぶ。
だが、公爵様の表情は一呼吸置く間に真剣なものに変わった。
その変化にワタシは思わず背筋を伸ばし、ヘルムス様も少しだけ表情が強張る。
「そんな良い事に水を差すようで申し訳ないのだが、ミーメ殿が許容するのであれば、冬の舞踏会で一つ見世物をする必要が出てきてしまった」
「見世物?」
「父上、何の話ですか?」
どうやら、冬の舞踏会で何かがあるらしい。
ふと、コルエ様とボースン様たちの方へ視線を向けてみれば、コルエ様は表情を変えていないが、ボースン様とテレス様は緊張した様子だったので、恐らくだが前者は詳細まで知っていて、後者は細部までは知らないのだろう。
「簡単に言えば、冬の舞踏会の会場でミーメ嬢に求婚しようと考えている愚か者が居るらしい」
「「は?」」
ワタシとヘルムス様の声が被ったが、その表情は対照的な物だった。
ワタシは自分でも分かるくらいに呆れたものだが、ヘルムス様の方は明らかに怒っているというか、威嚇の表情である。
なんだったら、ヘルムス様からは威圧の魔力が漏れ出ているくらいで、無意識的に放出されているそれを、ワタシが密かに制御して公爵様たちに向かわないようにする必要があるくらいだった。
うん、魔力属性を使えるようになって、この辺でも油断ならなくなっているのだと、後でヘルムス様に伝えておかなければいけないかもしれない。
「いったいどこの愚か者ですか? いえ、私とミーメ嬢の婚約においては、選択権がミーメ嬢にある事は理解していますが」
「落ち着きなさい、ヘルムス。儂だって相手の正気は疑ったし、相手の家の主だって申し訳なさそうにしていた」
「ワタシから見ても、あらゆる意味であり得ないですけどね。その人」
「ミーメ殿の言う事も御尤もだ。と言うより、理解していないのは、その愚か者ただ一人だから、どうか安心して欲しい。情報についてはこれから渡そう」
まあ、それはそれとして、本当に何をどう考えれば、そんな行動を起こそうと言うのか。
見世物と最初に評したことも含めて、説明が欲しい事も確かだった。
いや本当に、二重三重……では済まないくらいにあり得ない事態が進行しているように思えたので。
「では、説明しよう」
そうして、ヘルムス様がある程度落ち着いたところで、公爵様直々の説明が始まった。
以前に感想欄で正妃殿下の初産がこの世界の事情的に遅くない?と言う話がありましたが、その裏ではまあ、色々とあったのですよ。ええ。




