340:魔力属性とは
「此処が貴族院の図書館です。ミーメ嬢」
「流石の大きさですね……。一棟丸ごとですか」
貴族院の図書館は大きく、立派なものであり、見える範囲だけでも大量の本と資料が収められているようだった。
王城の図書館と比べても、こちらの方が明らかに大きい。
恐らくだが、王城の図書館は業務に必要な資料を収めることを優先しているのに対して、貴族院の図書館はより広範な知識を収めるために、このような大きさになったのだろう。
そして、図書館の中では、少なくない数の生徒が本を読んでいたり、目的の資料を求めて歩き回ったり、それぞれが目的を持って静かに動いているようだった。
うん、邪魔をしないように気を付けるとしよう。
「ではミーメ嬢。魔術に関係する本がまとめられている棚へと案内しますね」
「お願いします」
普段よりも明らかに小声なヘルムス様に案内されて、ワタシは魔力属性に書かれている本について探し始める。
探し始めて……直ぐに気付く。
「やっぱり魔力属性については知られていないようですね」
「そうですね。実を言いますと、私は貴族院在籍中に魔術に関して教鞭をとっている教授には、属性に関係なく一度は接触し、少しばかり話をした事があるのですが、魔力属性について調べている教授については出会った覚えがありません」
「まあ、そうですよね」
ワタシは思わず溜息を吐いてしまう。
だがこれは当然と言えば当然の話なのだ。
魔力属性が認知されているのなら、『開拓王』以来のトリニティアイがワタシになったりしない。
だって、第二属性を使える人間が魔力属性を認知していたなら、絶対に組み合わせて見せるはずなのだから。魔術師とはそう言う生き物なので。
「この分だと、魔力属性だけでも単純な身体強化が出来る。と言う話すら知られていない感じですね」
「ミーメ嬢、その話は私も今初めて聞いた気がしますが?」
「……。まあ、何が出来るのか探るのも、研鑽の一部だったと言う事で」
「では、そう言う事にしておきましょう」
魔力属性で出来る事は……ワタシが把握している限りでは、低出力かつ単純な物であるけれど身体強化、魔力を飛ばすだけの単純な攻撃、あらゆる魔術現象の強化、後は確証こそないが老化の抑制、この辺りがそうだ。
ただ、このうちの一つか二つ……それこそ、魔力の球を生成して、ちょっと遠くまで飛ばせるようになれば第一属性に目覚めてしまうのが、この世界のルールでもある。
本格的な魔術の修練も、貴族では魔力に目覚めた直後ではなく、第一属性に目覚めた後に第一属性に合わせた教師を招くらしい。
こう言った事情もあって、やはり魔力属性は認知されていなくて、研究している人もいないのだろう。
「しかしミーメ嬢。そもそも魔力とは何なのでしょうか? 確か以前、ミーメ嬢は自身が持つ前世の知識では、魔力に関する知識は空想や妄想に分類されていた。との事でしたよね」
「ええ、その通りです」
今更な話だが、ヘルムス様とワタシの周りには、隠蔽の魔術を全力で掛けてある。
宮廷魔術師が二人も居るのに、一切騒ぎになっていないのは、その為だ。
まあそれでも、図書館の中には変わりないので、喋るのは小声になるのだけれど。
「それでもなお定義をするならば、目には見えない不思議な力、でしょうか。あるいは人を引き付けて惑わすような魅力、と言う話もありますが、こちらは魅了されたかのようなおかしな現象があったから、と言う話ですね」
「なるほど」
魔力とは何なのか、言われてみれば、そこまで意識した事は無かった気がする。
そもそも、魔力に目覚めて以来、普通に目に見えているものだからなぁ……。
定義的にも、前世の魔力に関する知識は使えないような気がする。
「おや……。ミーメ嬢、これは昔の研究者の書いた本のようですね」
「ありがとうございます。ヘルムス様。これは……」
ワタシが手に取った本には、こう書かれていた。
『魔力とは、肉体・魂・精神が揃った存在からのみ産生される力である』
『魔力を用いて、何かしらの現象を引き起こす事を魔術と呼ぶ』
『魔力を高度に扱うには瞳が必要になるが、単純な扱いでよければ、瞳が無くても扱える』
と言う話を、実験で実証していく本だった。
なお、現代だと許されなさそうな実験は……意外な事にしていないようだった。
だいたいは魔物を使っているし、人間でないと無理な部分は事故などで瞳を失った人間に協力を仰いで実験をしたらしい。
人間の協力者なら名前も記している辺り、裏も無く、信頼出来そうな資料だった。
「間違ったことは書かれていなさそうですね」
「そうですね。百年ほど前の研究者のようですが、よく調べていると思います。問題はミーメ嬢のお役に立つかですが……」
「うーん、まあ、死竜の瞳を奪う意義の根拠にはなった気がします」
「そうですか」
ワタシの言葉にヘルムス様が少しだけ残念そうにしている。
いやでも、実際、間違ったことは書かれていないと思うのだ。
生きている生物が死んで、素材になってしまえば、素材に魔力は籠もっているけれど、新たに魔力を生み出す事は無い。
スケクロがそうだったように、人工のゴーレムは魔力を生み出せないが、これは魂が無いが故にだろう。
トレントのように、瞳が無くても魔術を使う生物は、それなりに居るのもワタシは知っている。
だから間違ってはいないし、死竜にどう対抗すればいいのかの論にも繋がるが、直接、刺し貫くような矛にはならない感じである。
なお、トレントは生来の種を瞳代わりにしている。
後、天竜の鱗のように勝手に光を魔力に還元する性質がある素材も有ったりする。
ただこの辺りは例外と言うものだろう。
世の中とは、何か一つ断言しようとすると、何処かからか例外が出て来るものなので、実に困った話だが。
「こちらはテイム魔術ですね」
「魔物と契約をして、従える魔術。でしたか。そう言えば何属性なのですか?」
ヘルムス様が次に持ってきた本には、テイム魔術のやり方が書かれていた。
基本的な話から、どうやって交渉をまとめるかまで、一通り書かれている感じだ。
「この資料によれば……契約において重要なのは当事者同士の合意であり、属性については、どの属性でも構わないとされていますね」
「なるほど……ん?」
「……。もしかしたら、そうかもしれませんね」
「あー……」
確証はない。無いのだが……。
もしかしたら、テイム魔術は魔力属性魔術の一種なのかもしれない。
「魔力を用いた契約、約束事、結束、履行……なるほど……」
思い出すのは、グロリベス森林深層を調べた時に手伝ってくれたニワシガラスのダニーと、そのテイマーであるグレッグさんの姿。
二人は属性も種族も違うのだが、確かに魔力的に繋がっているようだった。
そして、グレッグさんは植物属性だが、その属性を活用しているようにも思えなかった。
うん、こうして思い返してみると、もう、そうとしか思えなかった。
つまり、テイム魔術は魔力属性魔術で、魔力属性はその性質として結びつきに関わる分野があると言う事なのだろう。
「ミーメ嬢。武力を用いても、交渉は交渉ですし、約束は約束だとも言っておきましょう」
「ありがとうございます、ヘルムス様」
ではどうやったら、この考え方を死竜相手に使えるのか?
簡単な事だ。死竜の瞳を封印する際に、提示してしまえばいいのだ。
瞳を返してほしかったら、奪い返して見せろと。
そうする事で、強制的にだが相手と契約が結ばれ、条件を満たさない限りは瞳を奪い返せない事にもなるはず。
なるほど、使う価値は大いにありそうだ。
「でもこうなると、いっそのこと、ワタシたちの方から死竜を呼び出して、不意を打った方が戦いを制しやすいのでは? と言う変な考えを抱きそうになりますね」
「分かります。ただ、それの是非を判断するのは宮廷魔術師長と陛下の仕事です」
「勿論です。そして、確実に上手くいく保証でもなければ、やる事でもない、と。じゃあ、やる事は無さそうですね」
「死竜が何年も出てこないなら、打つかもしれない手ですね」
しかしこれならば、ほぼ恒久的な封印にも繋がりそうだし、魔力属性をこれまで以上に活用できるような気もする。
つまり、死竜対策になるし、天竜の情報を生かせているとも思える。
「ヘルムス様。しっかりとした構築を考えてみようと思います。少し時間がかかると思いますが、良いですか?」
「良いに決まっています。どうかミーメ嬢が思う通りにしてください」
うん、するべき事が見えたような気がするので、頑張ってみるとしよう。
ワタシとヘルムス様は満足して、貴族院の図書館を後にした。
11/03誤字訂正




