339:封印魔術とは
「本日はお招きありがとうございます。フーカン様」
「はっはっは。こちらこそ、貴殿を招けて嬉しい限りだ。『闇軍の魔女』殿。そしてヘルムスもよく来た」
「はい。今日はお世話になります。フーカン先生」
死竜対策会議の翌日。
早速と言う事で、ワタシとヘルムス様は貴族院にあるフーカン様の部屋を訪れていた。
ちなみに、フーカン様から話を聞いた後は、貴族院の図書館を使わせていただけることになっていて、そこでヘルムス様と一緒に魔力属性についての資料を探すことになっている。
「では早速だが、私の『封印』についての話をするとしよう。封印とは……簡単に言えば、何かを封じる事であり、封じた印でもある。その力を欲する者にとって必要なのは、言うまでもなく前者だろう」
フーカン様の部屋はキレイに整理整頓されていたが、鍵付きの戸棚も沢山あった。
どうやら、フーカン様の部屋には、他の人に見せられない物が色々とあるらしい。
そんな中で、フーカン様は幾つかの箱をワタシたちの前に置く。
本来なら鍵穴がある部分に魔術で作られた黄緑色の蝋のような物がくっついていて、開かないようになっている。
「これが私の封印で一番分かり易い形にした物だ。だが恐らくは、『闇軍の魔女』殿なら難なく開けられる事だろう。試してみて欲しい」
「まあはい、簡単ですね。そう言う属性ですので」
ワタシは適当に闇を鍵型にして、蝋に接触させる。
それだけで、蝋は少しの風と共に消え去り、フーカン様が施した封印は解けて、箱は開かれる。
説明用だったので、箱の中身は空っぽだったが。
「ふむふむ。やはり『万能鍵』の前では抵抗すら出来ないか。他の箱も開けてみて欲しい」
「? 分かりました」
ワタシは他の箱も同じように開けていく。
幾つか手応えが固い……と言うよりは妙な物もあったが、封印解除そのものは難なく出来ていく。
その光景にフーカン様は何かを考えこむ様子であり、ヘルムス様はいつものニコニコ笑顔であった。
「なるほど分かった。やはり『闇軍の魔女』殿なら、理論さえお伝えすれば、後はご自身で錠や包むものを用意できれば、封印は出来るでしょう。これならば問題なくお伝え出来ます」
「なるほど」
どうやら、フーカン様は自身の理論がワタシにも使えるかを確かめていたらしい。
そう言う慎重なところは、やはり貴族院に勤めて長いからこそなのだろう。
貴族院は全体的に慎重なところのように思えるので。
それはさておき、ワタシとヘルムス様はフーカン様から、封印に関しての話を聞かせてもらう。
重要な事としては……。
「解けない封印は封印と呼びません。ただの箱です。不思議に思われるかもしれませんが、解き方をきちんと提示する方が、封印としての強度は上がるのです」
「それは……本当に不思議ですね」
「本体から上手く切り離せば、肉体の一部だけ、魔術を扱う力だけと言った、概念的な物を封じる事も出来ます。ただ、これらの封印においては、封印を解けば取り返せる。と言う条件にした方が、これもまた不思議な事に封印が強まります」
「ふむ。ある種の公平性を求められている。と言う事でしょうか?」
「内側から封印を解く事を難しくするとしましょう。すると、それに比例するように外側から解くのは簡単になります。こう言う点を見ても、封印属性が公平性を求めている、と言うのは、それほど間違っていない事かもしれませんな」
何処まで行っても、封印とは一時しのぎに過ぎない。と言う事である。
無条件で永続する封印は封印にあらず。と言う事なのだろう。
そして、様々な条件設定によって、強度や持続性を飛躍的に高める事が出来る。
この概念については、どうしてか封印属性を持たない人間でも同様であるらしい。
「では、ワタシの『万能鍵』でしか解けないような封印は……」
「恐らくですが、ただの堅い箱。ドラゴンならば力で破る事は容易いでしょうな」
思い返せば、収穫祭でロクリエさんを閉じ込めるのに使った闇の結界。
アレも見方によっては封印の一種だった。
なるほど、アレは封じる対象を絞っていたから、まだ強度があったけれど、力を溜めるのに十分な時間さえあれば内側から破るのも難しくなかった。
どうしてそうなってしまったのかと思っていたけれど……封印に関するルールの何かに触れてしまっていたのかもしれない。
「ふむ。敵対者にかける魔術は徐々に無効化されていくと言うルールも考えると、死竜の一部……瞳か心臓の概念だけ封印する。と言うのが、無難なところかもしれませんね」
「そうですね。死竜の瞳を奪ってしまうと言うのは有りだと思います。そうすれば、取り返すまでは死竜の力は大きく減じることになりますし」
でも、アレが出来たのなら、ワタシでも封印の魔術は扱える事になる。
それに、今のワタシには、とても都合がいい魔術のあてもある。
アレを幾つかの条件付けの上で用いれば、死竜の身体がどんな状態であれ、瞳の概念ごと魔術を扱う力を奪い取れるかもしれない。
うん、構築できる気はしてきた。
ちなみに敵対者にかける魔術は徐々に無効化されていくという話は、各種属性の魔術を魔術師や騎士の体に直接作用させることが難しい原因でもある。
無意識的に行使された『八顕現』の抽出によって、掛けられた敵対魔術を取り除いてしまうのだ。
これがあるから、呪いは時間がかかると共に隠蔽性が必要になるし、魅了の魔術は何度も何度もかけ直さないと正気に戻ってしまう。
また、だからこそ、『八顕現』の考えが広まる前から、第二属性に至れた人たちが居た理由の一端でもある。
「はっはっは。何か掴めたようで何よりだ。『闇軍の魔女』殿、ヘルムス」
「はい、ありがとうございます、フーカン様。おかげさまで、死竜対策が一つ思い浮かびました」
「そうですね。この方法が上手く行けば、それこそ死竜を倒すことにすら繋がるかもしれません」
ヘルムス様の考えはたぶん上手くいく。
言われてみればその通りと言うか、要するに死竜の両目を奪い取り、封印。闇属性魔術を扱う力を奪い取った上で、無明の荒野に送り返してやればいいのだ。
そうすれば、無明の荒野自身が持つ作用によって、死竜の身体や精神は闇に呑み込まれて消滅する事になるのだから。
仮に片目だけしか奪えなくても、魔術を扱う力は大きく失われるので、次に無明の荒野から出てくる事は著しく難しくなる。
ワタシにとって死竜が厄介なのは、恒久的な対処手段がないからこそなので、これは本当に大きな前進だった。
「それではフーカン様。今日はありがとうございました」
「ふむ。二人はこれから図書館かな?」
「ええ。折角来たのですから、ミーメ嬢を案内しようと思います」
「そうか。では私が案内するのも野暮と言うものだな。貴族院の図書館には、王城には無い資料もあるはず、目的の物が見つかる事を此処で祈るとしよう」
「はい、ありがとうございます」
と言うわけで、ワタシは多大な成果を得た上で、フーカン先生の部屋を後にするのだった。
そして、廊下を歩きつつ、十分な隠蔽を施した上で、ヘルムス様と話をする。
「封印の理論はありがたい話でした。でも、ヘルムス様。封印だけだと、天竜様の話とは繋がりませんよね?」
「繋がりませんね。なので、やはり魔力属性には何かがあるのでしょう。今からでも調べる価値は十分にあると思いますよ」
「では、案内をお願いします」
「ええ、勿論です。ミーメ嬢」
封印の魔術に魔力属性の何かを特化させるような形で組み合わせる。
天竜が考えた形がどんな物かは分からないが、それが出来れば理想だと思いながら、ワタシはヘルムス様に案内されて、貴族院の図書館へと向かった。




