338:王城の宝物庫
「さあ諸君、こっちだ」
死竜対策会議の後。
会議中にも挙がった懸案事項である、『開拓王』が狩った死竜の素材から作られた魔道具が今どうなっているのか、と言う点について調べるべく、宮廷魔術師長様に連れられて宝物庫に向かう事になった。
「先に言っておこう。宝物庫はその位置も含めて他言無用。家族にも話さないように」
「はい」
「了解でございます」
「わ、分かりましたわ」
勿論、宮廷魔術師全員での調査ではない。
メンバーは、先導役である宮廷魔術師長様、一番後ろを歩く親衛隊隊長様、ワタシ、グレイシア様、ロクリエさんの五人だけである。
これは、位置を知っている人間を限る事で、宝物庫の守りを強固なものにするという意味があるようだ。
いや、それなら件の魔道具だけ外に出して見せてくれればとも思うのだけれど、ちょうどいい機会だから色々と調べたい事もあるそうなので、向かう他無いのだろう。
「ところでミーメ様。ミーメ様の指輪は大丈夫でしょうか?」
「ヘルムス様が居るので、大丈夫だと思います。そうでなくとも、ワタシ以外には使えないように処理してありますし」
なお、万が一にも妙な共鳴と言うか、干渉が起きても困ると言う事で、死竜の鱗が使われているワタシの指輪は会議室に置いてきた。
今頃は、『鉄弓の魔術師』様の持ってきた死竜の鱗製鏃と見比べる事で、あーだこーだと議論が交わされている事だろう。
「それにしても、どうして私が王城の宝物庫などと言う特別な場所に……」
「ロクリエ君を呼んだ理由は第二属性に期待しての事だね。君の『模倣』なら、正しい形を知っていれば、傷ついた品の修復くらいは出来るんじゃないかなと吾輩は考えたのだけれど、どうだろうか?」
「それは……外見だけなら、出来ると思います。出来ると思いますけれど……」
宮廷魔術師長様の言葉に、ロクリエさんが何とも言えない顔をしている。
きっと、修復行為と贋作を作ってしまった記憶がダブってしまっているのだろう。
ただまあ、ワタシとしては、そこは何とか受け入れると言うか、割り切って欲しいところだ。
『模倣』による修復が出来るようになれば、ワタシも何処かで助けてもらえる機会があるかもしれないし。
「ミーメ君。念のために隠蔽を」
「分かりました」
宮廷魔術師長様から唐突に要請をされた。
だが必要な事なのだろう。
ワタシは隠蔽の魔術を直ぐに発動して、誰もワタシたちのことを気にしないようにする。
そして、隠蔽が発動したことを確かめてから、宮廷魔術師長様は柱を触り……そこにあったらしい何かを弄ると、壁の一部が動いて、地下への階段が現れる。
なるほど、前々から此処の壁の向こうには空間があるなと思っていたが、宝物庫への隠し階段があったのか。
「こっちだ。君たちが入ったら直ぐに閉める」
「分かりました」
ワタシたちはらせん状の隠し階段を下っていく。
そうして恐らくは、王城の地下深くに存在している空間に到着。
そこは明かりも空調も全て魔術で行われている空間だった。
「この宝物庫は、無くしては困るけれど、特定の状況下でしか使う事が無い貴重な品を収めるための宝物庫なんだ。整備も専門の人員が秘密裏に行っているくらいだね」
「なるほど。それで死竜の素材を使った魔道具は此処にあるわけですね」
「『闇軍の魔女』様。それはどういう事ですの?」
「日常的に使うマントや王錫、緊急時にだけ使う魔術強化の杖、そう言った品は此処には無いという事でございます。恐らくですが、数年に一度……戴冠式でしか使わないような品が収められている場所なのかと」
「正解だ、『凍えの魔女』。希少素材倉庫の件で一度検めた事もあるが、それ以降は一度も開かれていないし、その前は……三年程度は開かれていないはずだ」
空間の奥には、様々な魔術が施されている大きな扉が存在している。
ただ、第二属性は使われていない辺りに、メンテナンスをする人が絶えないようにするための対策は感じられる。
「ではミーメ君。折角だから、君の『万能鍵』で開けてみて貰いたい」
「……。なるほど、確かめたい事とは、そう言う事でしたか」
「うむ。以前から出来るのではないかと言われていたし、実際できるとも思っているのだが、いっそのこと確定してしまえば、何かあった時に吾輩たちは先に知っていたが、ミーメ君の事を信頼して放置していたのだと言える話になるからね。庇うためにも開けてもらえると助かる」
「分かりました」
まあ、ヘルムス様がこの事態を想定せずにワタシを送り出したとも思えないので、開けても問題は無いのだろう。
グレイシア様も止める様子が見られないし。
「さて……」
と言うわけで、ワタシは宝物庫の扉に触れる。
開けるだけならば、正直に言って一瞬で開けられるのだが、折角なので少しだけ宝物庫の扉がどういう仕組みになっているのかを調べる。
えーと、なるほど。
うん、かなり厳重な仕掛けだ。
物理的な鍵をただ差し込むだけでは駄目で、正しく動かさないといけない。
魔力の登録を一定期間より前にしておかなければいけない。
既定の手順を満たさずに開けようとすれば、警報からの電撃やら睡眠ガスやら、中々に苛烈な反撃が行われるようだ。
当然、外部からの干渉に対しては、非常に高い抵抗力を有している。
「開きました」
まあ、ワタシには一切通じないのだが。
『万能鍵』の力で正規ルートからアクセスしている扱いにして、後は普通に開くだけである。
「……。そうかぁ、普通に開くんだね。流石は『万能鍵』」
「まあ、そう言う属性なので。こればかりは属性相性の問題としか言いようがないと思います」
「『闇軍の魔女』以外が『万能鍵』を得てしまった時の備えは、親衛隊の隊長として問題提起しておく必要はあるかもしれないな……」
宮廷魔術師長様と親衛隊隊長様が呆れた様子を見せる中、扉が静かに開いていき、宝物庫の中が見えてくる。
宝物庫の中には美しい刀剣や鎧が、幾つも飾られていた。
埃が被っていないのは、そう言う魔道具が設置されているからだろう。
「さてミーメ君、グレイシア君。何か怪しい要素は感じるかな?」
「ワタシは特に。グレイシア様は?」
「わたくしも同様でございます。『不安』は覚えません」
「なるほど。じゃあ、今すぐにこちらに問題が迫っている事は無さそうかな」
ワタシは集中するが、それでも呪いのような気配は感じない。
グレイシア様もワタシの顔を見て頷いているし、それなら本当に何もないのだろう。
「それで、どの品が死竜の素材を使った品ですの?」
「えーと、この王冠と宝剣がそうだね」
ロクリエさんの言葉を受けて、宮廷魔術師長様が王冠と宝剣の前にワタシたちを案内してくれる。
宮廷魔術師長様によれば、王冠の方は死竜の角と鱗を、宝剣は牙と爪を用いて作られた魔道具であるらしい。
製作者……正確には魔術を込めた人は、王冠の方は当時の宮廷魔術師で、宝剣の方は『開拓王』その人らしい。
なるほど、確かに宝剣の方からは、光属性の他に二つ、属性を感じる。
そして、先ほども感じ取った事だが、改めて詳しく調べても、闇属性と魔力属性の気配はまるでしていないので、やはり死竜による干渉はこれらの品に対しては行われていないようだ。
「ちなみに。宝剣は本来なら二本あるそうなんだけど、一本は『開拓王』が何かして紛失してしまったらしい。これは最近になって判明したことだけれどね。ミーメ君、何処で失われたかの見当とか付くかい?」
「あー、はい。もしかしたら、グロリベス森林の深層、絶対に人が立ち入れないような場所にでもあるんじゃないですか?」
「やっぱりそうなるよねぇ……」
たぶんだが、『開拓王』が全力の魔術を放って、グロリベス森林の深層を作り出してしまった折に、妙なところに呑み込まれて失われてしまったとか、そんな感じの理由で失われているのだろう。
そちらは、もしかしたら死竜が今でも求めているのかもしれないが……、グロリベス森林はどう考えても空間に関する魔術を使っているし、最低でも同系統の魔術が使えなければ、回収は不可能だろう。たぶん。
「『顔作の魔女』見終えたか?」
「ええはい。大丈夫ですの。中身は真似できませんが、見た目だけなら、何とかはなると思いますわ。とは言え、陛下から直接頼まれでもしない限りは作ったりはしませんけれど。あまりにも畏れ多いですもの」
「それでいい。私や宮廷魔術師長程度の頼みでは作るな。此処にあるのは、そう言う品だからな」
どうやら、ワタシたちが話をしている間に、ロクリエさんに一通り見せる事も終わったらしい。
つまり、今回この場に来た目的は全部果たせたことになる。
「では、戻ろうか」
「「「分かりました」」」
そうしてワタシたちは何も問題が無い事を確かめてから、宝物庫を後にした。
11/01誤字訂正




