337:死竜対策会議その2
「その鏃、嫌な気配がしているね」
「同感じゃな。直ぐにでも処理した方が良さそうじゃ」
「そうですね。落ち着いて話をするためにも、最低限の処理は先にさせてください」
「分かった」
『鉄弓の魔術師』様が机の上に置いた黒い鏃は、懐から取り出されると同時に不穏な気配を漂わせ始めた。
その為、ペスティア様、ディム様、ワタシが即座に反応、許可を得た上でワタシが魔術で鏃に干渉して、とりあえず生きている人間以外には干渉できないようにした。
詳しい処理についてはまた後でするとして、今はこれで大丈夫だろう。
「それでスチルボ君。その鏃は何なのかな?」
宮廷魔術師長様が『鉄弓の魔術師』様……スチルボ様に尋ね、『鉄弓の魔術師』様は一度頷いてから話し始める。
「こちらの鏃は大量の闇属性魔力を有する何らかの生物の鱗として出回っていた物を買い取り、鏃の形に加工したものになります」
『鉄弓の魔術師』様だが、普段は全てを魔術で作り出した矢を扱っているらしい。
だが、とっておきとして、鏃だけ特別製にする事で、威力を高めたり、状況に合わせて動けるようにしているらしい。
この黒い鏃はそのとっておきの一つで、当たった相手に大量の闇属性の魔力を注ぎ込む事で、毒のように作用する鏃になっているのだとか。
「恐らくですが、加工前の鱗は『闇軍の魔女』殿が付けている指輪に填め込まれている物と同種の物かと」
部屋中の人たちの視線が、ワタシの手……より正確には、『ひとのまのもの』を無詠唱で使える指輪に向けられる。
うん、確かに同じものなのだろう。
たぶん、どっちも死竜の鱗だ。
現状の差……黒い鏃は不穏な気配を出していて、ワタシの指輪は平穏を保っていることについては、所有者の属性、普段の扱い、鱗の加工度合いなど、色々と違うので、どうしてそうなっているのかは分からないけれど。
でもなるほど。
「この鱗が目印。と言う事ですか?」
「恐らくは。そして、これもまた恐らくなのですが、俺の鏃と『闇軍の魔女』殿の指輪、これに使われている鱗は、死竜の死後に新たに生み出された物なのではないか。『船の魔術師』殿の話と、俺が独自に調べた結果から導き出すなら、これが一番自然になるかと」
「ふむ、もう少し詳しく話してくれ。スチルボ君」
死竜の鱗は二種類ある。と言う事だろうか?
『鉄弓の魔術師』様の言葉に全員が集中して耳を傾ける。
「俺が調べた限り。死竜の鱗と思しき物体は、三百年ほど前から、王都周辺でのみ見つかる、希少だが優秀な闇属性の素材として、魔道具に用いられてきたようです。これは市井の魔道具職人ギルドで確認出来ました」
「三百年前? 五百年前ではなく?」
「三百年です。だいたいの発見者は狩人ギルドの人間で、森の中に落ちているか、狩った魔物の体にくっついているか、とにかく見つければ一獲千金の素材と言う事で、一部の者にだけ存在が伝わっていたようです」
「あー、だからワタシは知らなかったと」
「そして、一番古い記録は三百年前ですが、年月が過ぎるほどに見つかる数が増えています。もしも本当に死竜が狩られた時に飛び散った鱗の欠片が現代にまで残ったというのなら……これはおかしな話になるでしょう」
「そうね~。供給がないのなら~減るのが普通だわ~」
なるほど。それで同じ死竜の鱗であるけれども、新たに生み出された鱗ではないか。
と言う話になるわけか。
うん、本当に生成されていそうな気がする。
でも生成されているとしたら……。
「ミーメ嬢。グロリベス森林の深層にあった不毛の地。あの地が踏み込んだ生物の命を吸い取ると共に、おかしくしていたのはもしや……」
「そうですね。あそここそが、死竜の鱗を新たに生み出している場所なのかもしれません。そして、おかしくした生物に持たせる形で、森の別の場所や外へ運び出していたのかも……」
ヘルムス様の気付いた通り、グロリベス森林深層にある不毛の地、あの異様な場所を利用している可能性が高いだろう。
だって、あそこには『闇』による隠蔽も施されていただろうから。
「なるほど。さて、これで死竜に関しての情報についてはだいたい出揃ったかな?」
「「「……」」」
ワタシたちは揃って頷く。
実際、死竜がどれだけ脅威であるかも、どうやって復活しようとしているのかも、その為の手法の一部についても共有できたと思う。
「よろしい。では、此処からが本題だ。当然の話だが、我々は宮廷魔術師として死竜への対抗手段を導き出さなければいけない。何か思いついたら、臆さず話して欲しい」
さて、どうやって対応すればいいのだろうか?
いや、ワタシ一人では思いつかなかったからこそ、こんな場を開いてもらったのだけど。
「ただ……、そうだね。死竜が復活する前に、目印になる鱗を全て破壊する事で復活を阻止すると言う手法はちょっと現実的ではないので、この場では話さない事にしようか」
宮廷魔術師長様の言葉に殆どの人が頷く。
これについては、確かに無理があるだろう。
なにせ、最初の鱗は三百年前で、今でも新たな鱗が魔境の中で生み出されていて、主な運び手は魔物なのだから。
絶対に把握漏れが出てくる。
なんだったら、既にこの世の何処かで死竜が復活していたっておかしくない状況である。
勿論、それでも地道に対処はしていくべきだが、これで対策が出来ましたとは間違っても言えないだろう。
「宮廷魔術師長。今ではなく未来の為にですが、その鱗を生み出している不毛の地とやらを破壊する事は如何でしょうか?」
「あー、準備無しにそれをやるのは止めた方が良い。現地の魔物も邪魔だから消そうとはしているようなんだが、まるで上手くいってないし、魔術によっては術者に影響が及ぶこともあるらしい。テイマーがニワシガラスから聞き出した話だから、俺っちたち人間の場合でも、そこまで間違ってはいないはずだ」
「なんて厄介な……!」
誰かの言葉に、ジャン様が素早く制止をかけている。
実際、あの土地への干渉をするなら、慎重にやる必要があるだろう。
グロリベス森林があの土地を認識しているかは分からないが、無明の荒野を自分の一部に変えて見せるグロリベス森林が対応できていない土地なのは事実なのだし。
やるなら、時間をかけて慎重にやって行くことになるだろうが……、現状だと、干渉出来る位置に行く事すら一苦労だろう。
「そうなると、今この場で考えるべきは復活した後か」
「悪霊系の魔物に近い状態だが、一緒ではない。どうやって倒せばいいんだか」
「浄化系の魔術を当てたら消えてくれればいいんだがなぁ」
「むしろ、それ以外で魂に干渉できるような魔術などあっただろうか?」
「精神属性魔術ならもしかしたら魂に干渉できるかもな。サキを呼び出してみても良いかもしれない」
「封印はどうなんだ?」
「私の『封印』ではどうにもならない。『闇軍の魔女』殿に色々と教えれば、よりよい封印が出来るかもしれないが……どの道時間稼ぎに終わるだろう。封印とはそう言うものだ」
「目を奪ってしまうのはどうだ? 瞳を奪ってしまえば、魔術は使えないはずだ」
「悪くはない。だが、どう奪うかはともかく、悪霊系の魔物の瞳は奪ってどうにかなるものなのか? 治されてお終いでは?」
「う~ん。瞳の再生はレリックでも上手くいかない事だけれど~……本当なら実体がないのが悪霊系の魔物だものね~……」
「いやはや、これは確かに対策会議が必要じゃな。儂ではまるで思いつかない」
「そうだねぇ。どうすれば恒久的な対処を出来るのやら。アタシだと病気にさせて、出てくる気を無くすとかかねぇ」
色々な人が、色々な話をしている。
ワタシはそれらに耳を傾けつつも、どうすれば死竜に対抗できるかを考える。
でもそうか、封印、目を奪う……死竜の全てではなく、一部だけを、概念や魂的な物も含めて奪い取れれば……。
うん、もしかしたら、ワンチャンスくらいはあるかもしれない。
恒久的な対処ではなく、長期間の時間稼ぎになってしまうかもしれないけれど。
誰も思いついていないのだし、それでも十分なのかもしれない。
それはそれとして。
「……。これだけの人が集まっても、か」
やはり魔力属性については知られていないらしい。
これだけの人数の宮廷魔術師が集まっても、誰一人として、魔力属性については話していない。
天竜がわざわざ話を持ってきたくらいなのだから、今出てきた話の何かと魔力属性に親和性があるぐらいのことはありそうな気もするけれど……。
「『闇軍の魔女』殿」
「何でしょうか? フーカン様」
ここでフーカン様がワタシに話しかけてくる。
そう言えば、先ほどの話の中で、ワタシの名前を出していたような気がする。
「『闇軍の魔女』殿は『万能鍵』と言う第三属性を持ったトリニティアイと聞いております。貴殿ならば、私の『封印』の理屈を聞けば、私よりも強固な封印を作れるかもしれません。時間を見て、貴族院の方で教授させていただいてもよろしいでしょうか?」
「……。ヘルムス様」
「調整はしますのでご安心を。ミーメ嬢」
「ありがとうございます。ヘルムス様。では、お願いします。フーカン様」
とりあえず、フーカン様から封印の概念について詳しく教わっておく事は、得にはなっても損にはならない。そう判断したワタシは、教えてもらう事にした。
『鉄弓の魔術師』スチルボ
第一属性『金属』、第二属性『弓矢』
腕の長さが左右で違ったり、左目が重瞳だったり、平民の元狩人だったり、実は色々と濃い方なんですが、目立たないので描写の機会に恵まれなかったという……。
それはそれとして。
土曜日なので改めて宣伝でございます。
『トリニティアイⅡ -転生平民魔術師の王城勤務-』
オーバーラップノベルス様より、11月20日に発売でございます!
既に書影も公開されていまして、おめかししたミーメでございますよ。
勿論、今回も色々と書き足しましたので、良ければ、手に取っていただければと思います。




