336:死竜対策会議その1
「それでは、今から死竜対策会議を始めようか」
宮廷魔術師長様の言葉と共に、死竜への対策を考える会議が始まった。
はい、ヘルムス様が相談を持ち掛けると言ったのでお任せしたところ、何時の間にやら話が大きくなり、気が付けば王都に駐留している宮廷魔術師全員が集う会議になっていました。
普段は見かけない人……貴族院に詰めているはずの『封蝋の魔術師』フーカン様や、親衛隊の隊長として陛下の隣に居るのが当たり前な『光盾の魔術師』カツリッコミ様、ワタシは名前どころか二つ名も知らない宮廷魔術師の方も居る。
後なんでか、ディム様も居る。
うん、大騒ぎになってしまった……。
なってしまったけれど……なってしまった以上は、しっかりと話をして、対策を導きだす事で報いよう。
「まずは一般的なドラゴンについての話から始めよう。前提の共有は大切だからね」
「では、僭越ながら、私こと『燃油の魔術師』ウコバク・ウインスキーから説明させていただきます」
と言うわけで、話が始まった。
ウコバク様は、これまでに王国の歴史の中で遭遇したドラゴンについて調べ、まとめた上で、自身の母親であるユフィール様の知見も合わせた話をしてくれた。
それによれば……。
「王国の500年少々の歴史の中で遭遇し、討伐したドラゴンですが。どうやら、一体を除いて、いずれの個体も独り立ち間もない個体ばかりで、自分だけの縄張りを求めて活動していたようです。その活動の中で我々王国と活動圏が重なり、戦闘となっていたと推定されました」
ウコバク様の言葉にジャン様含め、何とも言えない表情になっている宮廷魔術師の方は少なくない。
だがそれも当然の事だろう。
まだ大人になり切れていない……つまりは未熟な個体が相手だったのに、ドラゴンの討伐を行う度に、宮廷魔術師を含む死者を多数出していたのが、王国の現状なのだから。
ちなみに、推測になるが、この年頃のドラゴンが保有する魔力の量は、恐らく1000以上、4000未満くらいだろう。
それならば、トリニティアイであるワタシがドラゴンを一方的に狩れているという事実にも沿う。
「そして、王国が遭遇した中で、確実に成熟していたと断言できる個体が、件の死竜になります。歴史書を紐解く限り、当時の第二属性持ち……つまりは我々にとっての宮廷魔術師が十人以上死傷し、最終的には『開拓王』がトリニティアイにならなければ、狩れなかったとされています」
だが、そんなワタシでも死竜相手に圧倒する事は出来ないだろう。と言うのが、ウコバク様の説明からは感じた。
恐らくだが、死竜の全盛期の魔力量は1万以上。
その魔力量で、優れた魔術師並みに魔術を扱い、知略を巡らせ、肉体的にも頑強なのだから、『開拓王』とその仲間たちが為した偉業がどれほどの物であったのかを思わせる。
まあ、死竜に限っては、もっと厄介な点があるのだけれど。
余談だが、天竜は伝聞で聞こえてくる体格からして、魔力量はたぶん六桁。その上でトリニティアイで、魔術に精通し、知性も肉体も揃っていて、属性に『脅威』とか言うどうしようもないのが混ざっているので……うん、本当にどうしようもない。
天竜が足るを知っている、脅威ジャンキーだったのは、王国……いや、人間にとっては幸いな事だったに違いない。
話を戻して。
「だが死竜は死んでいなかった。そうだね? ミーメ君、ヘルムス君、ジャン君、グレイシア君」
「はい、その通りです」
宮廷魔術師長様の言葉に、グロリベス森林深層でシミヒが作ったキメラの体に入った状態の死竜に遭遇したワタシたちは揃って頷く。
と言うわけで、あの時に死竜が話した内容……無明の荒野に隠れ潜み、復活を目論んでいる事を話すと共に、今の死竜がどれだけ厄介な状態にあるかも話していく。
ついでに、出所は隠すが、死竜が近い内に復活する可能性があり、対策を急ぐ必要がある事も。
なお、最後の言葉に宮廷魔術師長様は情報源を悟ったような顔をしていた。
「無明の荒野……トリニア教に語られている、罪人が落とされる世界……それは攻め込めんな」
「引きずり出すのも無しだろうね。ミーメ嬢の推測通り、死竜以上に危険な存在を招きかねない」
「何時何処から出てくるのか分からず、先手を取られるのが決まっているだけでも、まあ、厄介だわな」
「そもそも~肉体がないのに生きている相手なんてどうすればいいのかしら~」
「……。どう復活するのかも不明です」
「なるほど。これは確かに宮廷魔術師全員で集まって話し合うべきであると同時に、この場で話がまとまらないなら、貴族院の学者も招いて、何かは考えないといけないか」
「そう言う事にございます。申し訳ありませんが、これまでに知っていた者だけでは手詰まりでございました」
なんにせよ、これで情報は共有できた。
此処からが話し合いの本番だ。
そして、話を進めるためにも、ワタシから出せる情報は出そうと思う。
「ワタシから一つ申し上げますと。恐らくですが、今の死竜は悪霊系の魔物に近い状態にあるのかもしれません」
「ふむ、悪霊。ミーメ君、どうしてそう思ったのかな?」
「根拠としては、まず歴史書を見た限り、死竜の素材が十分な量、確保されている事です。ドラゴンと言うのは、これだけの量と種類の素材を採られていて生きていられるような生物では無いはずなので」
ワタシはウコバク様が出してくれた資料に載っていた、当時回収されたらしい素材について改めて見る。
鱗、翼、爪ぐらいならば、剥がれてもまだ生きていられるかもしれない。だが、生きている状態で角や牙を奪う事は困難であるし、骨や肉を生きたまま大量に削げるとは思えない。
内臓については言うまでもなくで、どれであっても、ほぼ間違いなく致命傷だろう。
なので、死竜本来の肉体はやはり滅びているのだと思う。
だが、死竜が今も生きている事もまた事実。
となれば、それを両立する方法としては、悪霊系の魔物のように魔力で肉体を構築して、そこに精神と魂を宿らせる他ないだろう。
あるいは、特殊な闇の魔術かもしれないが……それでも、仮の体を構築していることに大差は無いはずだ。
「そして、たぶんですが、この状態こそが復活できる理由でもあるのだと思います」
「ああなるほどのう。生霊や怨霊に生きている人間の体を乗っ取られる事例があるんじゃが、それと同じようなものじゃな」
「あるいは辺境で見かけた寄生型の魔物だね。他の生物の体の中に入り込んで、内側から食い潰した後に残った死体を手足のように操るんだ。闇で身体が出来ているなら、そう難しい事じゃない」
「「「……」」」
ディム様とペスティア様の言葉に、他の宮廷魔術師たちから、そんな事が出来るのか闇属性と言う顔が向けられる。
いやまあ、確かに。ワタシでも、暗黒支配で体内の闇を支配した後、それを無理やりに動かせば、他人を人形の様に操る事は出来るけど。
「ただですね。無明の荒野に居る状態から、現世の生物に干渉する為には、何かしらのマーカー……狙いを付けるための目印のような物が必要になるはずです。これは経験上、間違いありません。死竜が何をマーカーにしているかは……」
「一番怪しいのは死竜の身体かな? 自分の一部だったものだ。狙いは付けやすいはずだ」
「そうなると怪しいのは……宝物庫か!? あそこには死竜の角から作られた宝剣などがあったはずだ!」
誰かの言葉に、場に動揺が走る。
だが、それを遮るように二人分……ヘルムス様と『鉄弓の魔術師』様の手が上がる。
二人は目を合わせた後、『鉄弓の魔術師』様がヘルムス様に先を譲る。
「では私から。その点については気になったので、我が家で普通に保管されていた当時の勲章……死竜の鱗から作られたらしい物を確認するように父に連絡しました。結果は反応なしでした」
「なるほど。後でミーメ君たちを連れて王城の宝物庫の確認をする必要はありそうだけれど、外部からの特別な干渉を防ぐ措置も無しの状態で何も起きていないのなら、死竜の身体は目印にされていなさそうだ」
ヘルムス様の家はトレガレー公爵家。
グロリアブレイド王国建国前から存在している家であり、建国当時にも活躍していただろうから、その家に死竜の鱗から出来た勲章があるのは、不思議でも何でもない。
なのに反応が何も無いのなら、宮廷魔術師長様の言う通り、確かにマーカーではなさそうだ。
では何がマーカーになっているのだろうか?
「死竜の目印ですが、俺には心当たりがあります」
そんな中で『鉄弓の魔術師』様が改めて手を挙げ、声を上げる。
そして、懐から取り出した物を、目の前の机に置いた。
置かれたのは……黒い鏃だった。




