334:天才なれど
第十一章開始でございます。
それと後書きにてお知らせもございます。
ワタシことミーメ・アンカーズは客観的に捉えるのであれば、天才に分類される魔術師である。
それは、普通の宮廷魔術師が二十代後半で第二属性に目覚めている中で、ワタシが八歳で第二属性に目覚めたという点。
王国が観測できる範囲では、ワタシ以外に生きている人間が居ないトリニティアイに十二歳で辿り着いている事。
闇人間と言う汎用性の高い魔術も、『ひとのまのもの』『いのれるならいのれ』『わたしだけのみち』『宝石化』と言った、他の人が真似出来ないような魔術も扱える事。
ノスタの事件、イストフィフス侯爵討伐作戦、ウェルフの事件、グロリベス森林深層の探索と言った成果。
これらの事実によって、証明されている。
ワタシ個人としては、これほどまでに早く成長し、成果を上げる事が出来たのは、前世と呼ぶべき異世界の知識があるからなので、大きな顔は出来ないのだけれど。
それでも客観的には、ワタシは天才に分類される存在である。
だが、そんなワタシでも魔力属性については分かっていない事が多い。
トリニティアイになれたくらいなので、通り一遍程度には扱えると言う自認はあるが、分かっていない事も多い。
そして、天竜からもたらされた情報によって、分かっていないから、他の仕事や私生活が忙しいから、手札は十分に揃っているから、と言った理由で後回しにし続けるわけにもいかなくなってしまった。
なにせ、建国神話に登場する闇属性のドラゴン、死竜の脅威が王国に迫っているのが明らかになったからである。
とは言えだ。
分からないからと焦って調べても、情報が出てくるわけでもないのが魔力属性。
加えて、トリニティアイになる手段に関わる都合上、その存在に自力で辿り着いたヘルムス様以外には魔力属性の事は秘匿しているので、そちらの調査に専念して日常業務を疎かにすることも出来ない。
つまり、中々に厳しいのが現状であった。
「これでよし」
そんな状況の中、今は収穫祭が終わってから二週間ほど経った頃。
空気もすっかり冬となって、室内には暖房の魔道具による加温も行われるようになっている。
夏とは逆に、火属性魔術師が好かれ、氷属性魔術師が遠ざけられる時期になったとも言う。
そんな中、ワタシは王城の自分の部屋で闇人間を操り、収穫祭で得た二枚の絵を飾っていた。
うん、春頃に貰ったワタシの部屋だが、色々と小物も置かれるようになって、随分とワタシらしい部屋になって来ているのだが、今飾った絵で、ますますワタシらしくなってきたように思える。
「ふむ。どちらの絵も良い出来ですね。ミーメ嬢が選んだのは、こちらの絵でしたか」
「その通りです、ヘルムス様。もう一つの絵はロクリエさんが『模倣』制御の練習と言う事で描いて、贈ってくれたものですね」
ワタシの飾った絵を見たヘルムス様が褒めてくれる。
二枚の絵の内、ワタシが収穫祭で選び、入札した方の絵は果物の盛り合わせを描いた静物画である。
とても普通の絵なのだけれど、だからこそ、この部屋に飾っていても違和感がないし、困らない。そんな絵でもある。
もう一つの絵はロクリエさん作、ワタシの杖を描いたものだ。
出来は……良いと思う。
ワタシの絵画に対する審美眼はまるで磨かれていないので、何処が良いのかを問われても困るのだけれど。
「それでヘルムス様。今日は何かありましたか?」
「これから暫くの予定について、確認をしておこうと思いまして」
「なるほど」
ワタシは椅子に座って、ヘルムス様の話をしっかりと聞く姿勢を取る。
これから……これからか……そう言えば、収穫祭も終わったのだから、もう直ぐ年末か。
市井に居た頃もそれなりに面倒が多かった季節ではあるけれど、王城でも色々とやるべき事がある季節のようだ。
「まず、大きな催し事として、王城が主催する舞踏会が開かれます。これが本年最後の催しですね」
「ふむふむ」
冬の舞踏会、と言う物らしい。
本当に大きな催しなので、これについては、関係する物も含めて、説明は後回しにするとの事。
「また、収穫祭が終わったという事は、各地の収穫作業が終わったという話でもあります。そして、収穫作業が終わったのなら、納税作業と言う、別の収穫事業も行う必要があります」
「うっ……」
「ミーメ嬢? どうかされましたか?」
「いえ、何でもないです……」
納税……ああうん、それは確かに面倒な奴だ。
とは言え、ワタシは宮廷魔術師なので、所属先である王城側がパパパッと済ませてくれるそうだけど。
ちなみに、宮廷魔術師になる以前は、ただの個人狩人兼魔道具職人だったので、獲物を売ったり、魔道具を売るための場所を確保したりする際に、手数料と一緒に税金は取られていたらしい。
別に支払っていたものと言うと……地区の整備費用的なものと一緒に払っていた覚えはある。
うん、ちょっと嫌な気分になったのは、今のワタシではなく、前世知識の中に含まれているアレコレのせいだろう、たぶん。
やっぱり、前世知識はあまり表には出せないと思う。
「では話を続けますが。この納税作業の中には、地方から王家に納められるお金もあります」
これは確かに必要な事である。
王城側が地方の人間を助けるのだって、タダで出来る事ではないので。
と言うより、国中からお金を集めて、国全体にとって必要な事業を回すからこその王である。
「もしかして忙しくなりそうな感じですか?」
「いいえ。今年はイストフィフス侯爵が討伐されたためなのか、普段よりも大人しいくらいですね」
ただ、そうして多額のお金が動くなら、良からぬ事を考える者も出るのではないかと思ったのだが……そうでは無いらしい。
ヘルムス様は落ち着いた様子で否定してくれる。
後、イストフィフス侯爵はそこでも問題を起こしていたのか……、本当に碌でもない人間である。
「そもそも、この王城の金庫……国庫に納めるお金を狙う者はまず居ませんよ。狙う事自体が王国全体に喧嘩を売るような行為である事もそうですが、このお金を運ぶ者と同道する形で領主たちが王都にやってくるのが例年の流れですので」
「なるほど。それは確かに人間は襲えませんね」
ヘルムス様曰く、納税の為に、そして冬の舞踏会の為に、例年、王国中から領主かそれに準ずる立場の人たちが集まってくるのが、この時期の王都であるらしい。
言われてみれば、この時期は昔から少しトラブルが多かったというか、見慣れない馬車を王都の中で見かける事が増えていたような気もする。
「そして、王都にやってくる領主の中には、私の両親も含まれています」
「!? 先日、ヘルムス様が仰っていた事ですね」
「その通りです。ミーメ嬢」
ヘルムス様の両親……つまりはトレガレー公爵夫妻がやってくると聞いて、ワタシは思わず背筋を伸ばしてしまう。
いや、そこまで緊張する必要がない人であるとは思っているのだけれど、婚約者であるヘルムス様の両親と言うだけで、正したい心の部分はあるので、これは仕方がない反応でもある。
「ミーメ嬢。両親が到着しましたら、私と一緒に挨拶に赴いてもらってもよろしいでしょうか?」
「勿論です、ヘルムス様。なんなら、挨拶を嫌がる方がおかしいくらいです」
「ふふふっ、そうですか。そこまで思って貰えるのなら、両親も嬉しい事でしょう。ありがとうございます」
と言うわけで、ワタシはヘルムス様と共に、トレガレー公爵家の王都屋敷に赴き、挨拶をする事が決定した。
「さてミーメ嬢。出来れば此処で話を終わらせたいとも思っていましたが、死竜についてはどうですか?」
「……。正直、分からない事ばかりですね」
「分かりました。では、協力……少なくとも相談を持ち掛けましょう。事はグロリアブレイド王国全体に関わる問題です。ミーメ嬢一人が全てをこなさなければいけない理由などありませんので」
「ヘルムス様……。そうですね。その通りでした」
そして、死竜について現状分かっている事を共有するべく、宮廷魔術師長様たちと話をする事も決まったのだった。
宣伝でございます。
『トリニティアイⅡ -転生平民魔術師の王城勤務-』
オーバーラップノベルス様より、11月20日に発売でございます!
既に書影も公開されていまして、おめかししたミーメでございますよ。
勿論、今回も色々と書き足しましたので、良ければ、手に取っていただければと思います。




