↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリニティアイ -転生平民魔術師の王城勤務-  作者: 栗木下
10:収穫祭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

332/345

332:脅威は迫っている

「まさかのでしたねぇ。ヘルムス様」

「ええ、まさかのでした。ミーメ嬢」

 会議終了後、ワタシとヘルムス様は自室に戻り、一服していた。

 王城から申し付けられている今日の予定はもうないので、後は自主的な勉強、研鑽、交流の時間である。

 だがまずは、気持ちを落ち着かせたかったのだ。


「しかし、こうなると、イトメント男爵の足取りから、ロクリエさんの作品を回収するのは難しそうですね」

「そうですね。そして、そうなったのなら、後はもう地道に探すか、何かの機会に表へ出てくる事を待つか……いずれにしても、直ぐにとはいかないでしょう」

 言うまでもなく、イトメント男爵のあまりの行動に呆れ、怒り、嘆き、そう言った様々な感情を抱いたため、それを落ち着かせたかったのだ。


「分かるぞ。ワガハイも流石に呆れ果てて、痴れ者と言う判断以外を下せないのに、踏み潰そうとは思えなくなった」

「「!?」」

 と思っていたら、天竜の襲来である。

 気が付いたら、テーブルの上に座っていて、ワタシとヘルムス様にだけ自身の存在を認識させていた。


「天竜殿。イトメント男爵夫妻の事情聴取を見ていたのですか?」

「うむ。偶々時間があったので見に行った。そして、話すのを渋りそうな気配があったので、ワガハイの魔術で少しだけ話を進みやすくしてやったのだ。だが、その内容が貴様らも知ってのものでなぁ……。本当に呆れた物よ。これが刹那的快楽主義者と言う物かと……」

「なるほど。お疲れ様です。天竜殿」

 イトメント男爵夫妻はある意味では偉業を為したのかもしれない。

 天竜を呆れさせると言う偉業を。


「天竜様。一応聞きますが、心を壊したりはしていないですよね?」

「勿論しておらんぞ。そんな価値もないからな。身心魂のいずれにも、治らないような傷は与えておらん」

「なるほど……ん?」

 今の天竜の言葉、それが事実なら……逆に言えば、その気になった天竜は魂にも干渉出来ると言う事だろうか?

 天竜の属性は『光』『雲』『脅威』だったはず。

 その三属性と……一応『魔力』も加えておくが、それだけで、魂に干渉できる物なのだろうか?

 天竜の言葉に疑問を覚えたワタシが思索を重ねていると、天竜が口を開く。


「ああ。娘の方は素晴らしいものだった。ワガハイに脅威を覚え、手持ちの手段でどうにか対抗しようとし、『模倣』の力を以って実現してみせたのは、称賛に値する。出来上がったマドーグも役割を考えれば、ほぼ満点と言っても良いだろう。ふふふ、成長の仕方によっては、将来的にはワガハイも脅威を覚えられるかもしれない」

 それは天竜がロクリエさんに興味を抱いていると言う言葉で、止めておかないと拙いと感じる言葉だった。


「あの天竜様。ロクリエさんの精神力はそこまで強くないと思いますので、出来れば干渉するのは控えていただけると……」

「ん? そうか?」

「そうですって。少なくともワタシよりは弱いと思います」

「私が言うのもなんですが、ミーメ嬢より精神力が強い方はそう多くはないかと」

「ヘルムス様。ワタシが強そうに見えるのは、実力があって、余裕があるからなだけですよ」

「ふうむ。まあ、貴様がそう言うのなら、控えておくか。潰れてしまっては元も子もない。だが人間の寿命も考えるとなぁ……ふうむ。まあ、別によいか」

 天竜が少し残念そうな響きを伴いつつ呟く。

 とりあえず、ロクリエさんの周りに白い猫がうろつくと言う、真実を知る者にとっては実に心臓に悪い光景が広がる事は防げたようだ。

 ならそれで十分だろう。


「しかし、そう言う事ならば、貴様が頑張る他ないな」

「と言いますと?」

 そう思っていたら、今度はワタシの方に天竜が視線を向けてくる。

 脅威を感じないのは天竜の魔術故にだろうが、何かを期待しているような気配は感じた。


「ふふふ、気づかぬか。まあ、人間であるならば、それも仕方がない事か。だがな、脅威を知るワガハイには分かるぞ。この国には脅威が迫っている。あの闇属性のドラゴン……今は死竜と名乗っている奴の脅威がな。ワガハイには手も足も出ぬが、貴様ら人間にとってはそうではなかろう?」

「「!?」」

 死竜の脅威が迫っている。

 それは衝撃的な言葉だった。

 しかも、天竜の物言いから察するに、何時か来るとか、数年後に来るとかでもない。

 それこそ数週間から数か月以内に現れてもおかしくないような言い分だった。

 となれば……死竜は既に何かしらの手段を講じて、またこちらへと戻ってこようとしているに違いなかった。


「では頑張るといい。どうせ殺せはせぬと高を括り、調子に乗っている者を見るのは不快なのでな。奴を舞台の上へと引き摺り上げろ。その方が、ワガハイは見ていて楽しい」

 そう言い残すと、当然のように壁をすり抜けて天竜は去っていった。


「ミーメ嬢。天竜殿の今の言葉は……」

「……。きっと助言なのだと思います。見ていて楽しくない。自分が戦っても楽しくない。だから、楽しくなるように、ワタシにどうにかして見せろ。そう言う助言です」

「そうですか。ならば、不味い状況ではありますが、間に合う可能性はありそうですね」

「はい、そう考えていいと思います」

 ヘルムス様とワタシは直ぐに考え始める。

 天竜がデタラメを口にしている可能性は……たぶん考えなくていい。

 その上で、『模倣』を持つロクリエさんでなく、第三属性にまだ目覚めていない……選ぶ余地があるヘルムス様でもなく、既に第三属性を得ているワタシに出来ると言うのなら……きっと何かあるのだろう。

 ワタシの持つ属性でも、死んでも無明の荒野に逃げ帰るだけでいい死竜に対して、恒久的な対処をできる可能性が。

 一番あり得るのは……。


「ヘルムス様。ワタシも久しぶりに研鑽と言いますか、研究と言いますか、魔術に対してきちんと考え、向き合う必要があるのかもしれません」

 きっと、魔力属性だ。

 ワタシも天竜も扱えて、ワタシが一番知らない属性は『魔力』なのだから、何かあるとしたら、そこにある可能性が一番高い。


「そうですか。ではミーメ嬢、その向き合い、私にも助けさせていただきますか?」

「いいのですか? ヘルムス様。その、きちんと向き合うとなれば、暫くはヘルムス様の手助けが出来なくなってしまうと思うのですが……」

「問題ありません。死竜の問題は私にとっても、グロリアブレイド王国にとっても優先するべき事柄ですから。それに、ミーメ嬢が魔術に向き合う姿を見せていただけるだけでも、私にとっては嬉しいと同時に学びになるでしょうから」

「ありがとうございます。ヘルムス様」

 ワタシはヘルムス様に向かって頭を下げる。

 ヘルムス様が手助けをしてくれるのなら、ワタシ一人では気づかない事でも気づけるかもしれない。


「それではヘルムス様。死竜対策のためにも頑張っていきましょう」

「ええそうですね。ミーメ嬢」

 そうしてワタシは気合いを入れた。

 目標は、死竜を撃退ではなく、きちんと仕留める事が出来る力を得る事。

 その力が『魔力』に秘められていると考えて、探っていくとしよう。

 グロリアブレイド王国に迫る脅威を払うためには、それが必要だろうから。




「それはそれとしてミーメ嬢。収穫祭が終わった事で、父が舞踏会の為に王都へ来るはずなので、出来れば挨拶をしていただきたいと思っているのですが……」

「あ、はい。それは是非行かせていただきます。ヘルムス様」

 同時に、ワタシ自身の幸せの為にも色々とやるべき事はあるようだったので、上手くこなしていこう。

 何処に気づきがあるか分からないし、これもまた必要な事だろうから。

これにて第十章完でございます。


10/24誤字訂正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
『ロクリエさんの周りに白い猫がうろつくと言う、真実を知る者にとっては実に心臓に悪い光景が広がる事は防げたようだ。』 →天竜様って猫生を楽しんでいた気がするので、『天竜』ではなく『ただの猫』としてロクリ…
復活早かったな。
死竜が戻ってくるって、現状依代になりそうものといえばグロリベスで発見された死竜の生前の鱗ぐらいでしょうか。 魔力量的には天竜の鱗の魔道具もあるけど、ロクリエ嬢がそんなヤバい加工してるとも思えないし。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。