331:ロクリエの倉庫
さて、収穫祭が終わり、日常が帰ってきたからこそ目を向けなければいけない問題と言うのもある。
具体的には、ロクリエさんの今までの作品についてだ。
「諸君、今日は良く集まってくれた」
と言うわけで、そちらについて、色々と通達するために、王城内に居る全ての宮廷魔術師が一堂に会していた。
だいたいの宮廷魔術師は顔を知っているのだけれど、初めて見る顔もある。
そして、先日宮廷魔術師になったばかりであるウコバクさん……様と、ヴォヴァルさん……様も居る。
「わ、私の為にお忙しい中、時間を割いていただきありがとうございます」
「「「……」」」
勿論、当事者であるロクリエさんも居て、非常に申し訳なさそうにしている。
この場に居る宮廷魔術師たちは、収穫祭でロクリエさんが起こした事件を把握している。
だがそれでも、ロクリエさんに対する視線がそこまで悪いものではない。
これは、ロクリエさんが未成年である事だけでなく、事件を起こすに至った経緯に情状酌量の余地が十分にあるからと言う認識故にだろう。
後、事件の大きさと質の悪さについて述べるならば、『石抱きの魔術師』様の方がもっとアレなので、そちらが許されているなら、ロクリエさんにそこまで厳しい視線を向ける必要は無いと言う判断もあると思う。
「先に断っておこうか。これから出す話の中には、この部屋の外には持ち出して欲しくないもの、極めて衝撃的な物もあるので、全員、気を付けるように。では、資料を配ろう」
宮廷魔術師長様の指示で、ワタシの闇人間が宮廷魔術師たちに資料を配っていく。
今回は侍従の類も入れずに、本当に宮廷魔術師しか居ないし、資料の一番衝撃的な部分を知っているワタシは動揺しないと言う事で、闇人間が小間使い代わりになっているのだ。
そうして、無事に資料は配られて……。
「「「……!?」」」
内容を読んだ殆どの人が絶句し、本当に? と言う顔を宮廷魔術師長様に向けている。
うん、そうなる。初めて知った時は、誰だってそうなる。
当人から聞かされたワタシも絶句した。
と言うわけで、資料の中身だが、ロクリエさんの倉庫に眠っていないといけないものの一覧である。
そして、その中には、天竜の鱗から作られた魔道具と言う、とんでもない代物も混ざっているのである。
これが衝撃的でない訳がない。
なにせ、トリニティアイであり、正確な大きさは不明だが王城よりも大きいとされているドラゴンで、国内最高峰の山の名に冠されている存在なのだから。
「え、えーと、俺っちから質問なんですが、どうして天竜の鱗が『顔作の魔女』の手元にあったんで?」
「その、数年前にクレンビク・フォン・アイアマイン様を助けた事がございまして、その際に代金を求めたところ、渡されました」
「「「……」」」
ロクリエさんの言葉に対する反応はおおよそ二分された。
一つは、なんだその事故は、と言わんばかりの、哀れみの感情がこもったもの。
もう一つは、何をやっているんだクレンビクは、と言わんばかりの、憤りの感情が込められたもの。
後者の人が三十代であろう宮廷魔術師の方に固まっているように見える辺り、クレンビク様が周囲からどのような人間なのかが窺える。
「コホン。クレンビク君についてはさておいて。吾輩から現状を説明しよう。まず、ロクリエ君の倉庫が現状どうなっているかについては、収穫祭の翌日時点で急使をグレンストア公爵領へと向かわせて、現在確認中になっている。確認が終わり、情報が得られるまで、後数日は掛かる事だろう」
なお、天竜の鱗製の魔道具にばかり目が行きがちだが、他の美術品たちも『模倣』を利用して作られた品なので、専門家でも見抜けない贋作であったり、魔道具としての効果を持つ美術品だったりと、明らかになった以上は田舎の村で保管しておくわけにはいかない品ばかりである。
なので、倉庫の確認は必須だった。
「美術品については、ロクリエ君の作ってくれたリストと照らし合わせて、倉庫の中になかった物はイトメント男爵に盗まれた物として扱い、公表。作者の名を改める機会を設ける事になるだろう」
「……。そう言えば、我が家にも、このリストに載っている物に似た物があったような覚えがございますね……」
グレイシア様の呟きが聞こえた。
どうやら、イーリィ男爵家は気づかずに買ってしまった事があるかもしれないようだ。
「問題は天竜製の魔道具についてだが……ロクリエ君」
「はい。当時の私は天竜様の鱗を12個の魔道具に加工し、削りカスについては絵の具として絵に使用いたしましたの。効果については記されている通りで、幾つかは既に破壊済みと聞いています。ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」
ロクリエさんが改めて頭を下げる。
それはさておき、リストによれば、ロクリエさんは人間が目覚めえる第一属性に合わせて、12個の魔道具を作ったようだった。
その内、『闇』の隠蔽はウェルフの件で、『風』の滞留……匂い漏れ防止は死竜の件で破壊されている。
『肉体』の身体強化と『光』の守護についてはロクリエさんが持ち歩いていたので、今回の件で回収、今後は絶対に成功させなければいけない状況などで、王城から貸し出される予定である。
幸いにして、破壊に直結するような魔道具は無く、どれも日常生活に活用するか、防御面で有用か、自身の存在に繋がる何かを隠蔽するような魔道具になっている。
これについては、ロクリエさんが天竜の鱗と言う危険物をどうにかして無力化しようと試みた結果だろう。
「今更ですが、イトメント男爵はどうやって隠蔽の魔道具たちの効果をすり抜けて、これらの品を見つけ出したのでしょうか?」
ヘルムス様が小声で疑問を口にしたので、ワタシはその疑問に答える事にした。
「天竜の鱗は陽の光を浴びる事で、内包する魔力を回復する性質を持っています。なので、日が当たらない倉庫の中にロクリエさんは納めました。その状態で魔道具が効果を発揮し続ければ、何処かで内包する魔力の量が足りなくなるはずなので、効果が弱まるか、なくなるかと言う現象が、壊れる前に起きるはずです。なので……」
「そこで偶然であっても見つけてしまえば、見つけてしまえるわけですか」
「そう言う事です。とは言え、安易に地面の中に埋めてしまえるような物でもなかったわけですし、難しい話ですね」
「確かに。海の底や川の底に沈めても問題が起きるでしょうし、削って粉にしたところで、内包する魔力が散逸するわけでもありませんからね……」
要するに、当時のロクリエさんではどうしようもなかった。
と言う事である。
なんだったら、今のロクリエさん……いや、ワタシだって扱いには困る事だろう。
天竜の鱗とはそう言う素材だ。
「最後にイトメント男爵夫妻からの聞き取りだが……。あー、こちらはあまり上手くいっていない」
「喋らないのかしら~?」
「いや、よく喋りはするんだ、あの夫婦。でもねぇ……一年前であっても、どこの領地のどの街に行ったかくらいまでしか覚えていなくて、何処の店で売り買いしたと言う情報はまるで出てこないんだ。三年も前になると、街の名前すらちょっと怪しいくらいだね」
「「「……」」」
なお、本日一番の絶句ポイントは此処だった。
ワタシも含めて全員が絶句し、ロクリエさんに哀れみの目を向け、ロクリエさんは本当に申し訳なさそうにしている。
いやうん、天竜の鱗製魔道具について、何も考えずに売った時点でヤバい両親だとは思っていたけれどさぁ……此処まで酷い両親だとは流石に思ってもいなかった。
まさか、こんな所で手がかりが途絶える事になるとは……。
「そう言うわけで、死竜関係の情報と同じように、天竜の鱗製魔道具についても、地道に探っていくしかない状況になっている。全員、何か気が付いたら、王城に情報を入れてもらいたい」
とりあえず、地道に探すしかないらしい。
ワタシたちは宮廷魔術師長様の言葉に、困り果てた表情を浮かべつつも、静かに頷いた。
十二の魔道具が今後出てくるかは不明です。
なお、現状明らかになっている物。
闇:隠蔽。透明化と言っていいレベルの超性能。
風:滞留(+消臭)。効果範囲外に一切の匂いを漏らさないと同時に、効果範囲内の臭いがきつくなり過ぎないようにもしている。完全消臭であったり、空気のせき止めでないのがミソです。
肉体:身体強化。人の頭より二回りほど大きい岩の塊を誰でも投げられるレベルの膂力を与える。
光:守護。光の渦による防御。三属性魔術でも傷つくことはないレベル。
?:触感の誤魔化し。触れても、触れたと気づけないらしい。
他、日常生活に有用な物、防御面で有用な物、豊穣をもたらす物、存在隠蔽系統がまだある模様。




