329:収穫祭を終えて
王国暦516年、秋。
収穫の終わりと共に秋の末も見えてくると共に、冬の始まりも感じられる頃。
我らが偉大なグロリアブレイド王国では、例年通りに各地で収穫祭が行われる運びとなった。
この年の収穫祭は例年にない賑わいを見せた。
王都もそれ以外も、大いに盛り上がり、今年の実りが祝われると共に、これから始まる冬に向けて仲間たちとの絆を確かめ合った。
誰もが喜びを露わにし、嬉しく踊り、歌い、楽しんだのだ。
そして、収穫祭の後。
我らがグロリアブレイド王国が誇る宮廷魔術師の列に、新たに三名の名が連なる事となった。
『燃油の魔術師』ことウコバク・ウインスキー。
『消毒の魔術師』ことヴォヴァル・ウインスキー。
『顔作の魔女』ことロクリエ・フォン・イトメント。
ウコバク、ヴォヴァルの兄弟は、宮廷魔術師長にして『赤顔の魔術師』であるジョーリィ・ウインスキーと『白衣の魔女』ユフィール・フォン・ウインスキーの息子たちである。
両名の叙勲によって、ウインスキー伯爵家の名声はより確固たるものになる事だろう。
ロクリエ・フォン・イトメントはグレンストア公爵領にあるイトメント村を治める少女であり、この時は貴族院に通う十六歳であった。
『闇軍の魔女』に並ぶ歳での叙勲であり、今後の活躍には、グレンストア公爵家とグロリアブレイド王家の双方から、期待を寄せられる事になるだろう。
これでこの年に宮廷魔術師に叙されたのは、春に宮廷魔術師に叙された『闇軍の魔女』ミーメ・アンカーズと合わせて四人。
これは建国以来の吉事であり、グロリアブレイド王国の今後の更なる発展を期待させるものとなる。
叙勲の儀にて、陛下より三人の新たな宮廷魔術師に対して、我らが偉大なるグロリアブレイド王国の発展と守護を如何にして為さんとするかが問われた。
それに対して、三人はそれぞれにこう答えた。
『元より王城の魔術師団の一員として、陛下に仕えていた身にございますが、今後はこれまで以上に心の炎を燃え上がらせ、熱心に仕えさせていただく所存にございます。我が火は陛下の為にございます』
『燃油の魔術師』ウコバクは、堂々としつつも、礼節正しい様子で口を開き、そう答えた。
『兄と同じく、元より王城の医療部隊の一員として仕えていた身ですが、今後も一人でも多くの人間を怪我と病から救えるように尽力させていただく所存にございます。そうすることで、国を守り、育てる事にも繋がる事でしょう』
『消毒の魔術師』ヴォヴァルは、兄を立てるためか、多少控えめでありつつも、しっかりとした口調で応じた。
『私は未だ学徒の身であり、何が為せるか分からない状態にございます。しかし、だからこそ、よく学び、知る事で、貴族院を巣立った後に陛下に、王国に、我が故郷に、これまで受けた多大な恩を返したいと存じ上げております。明言は叶いませんが、必ずや、お役に立ちたいと思います』
『顔作の魔女』ロクリエは、緊張のあまりに声を震わせ、小声での返答となったが、それでもなお、陛下と王国に恩を返す事を明言した。
三者三様の答え。
しかし、いずれも我らがグロリアブレイド王国の発展と守護を望む事に変わりはないと言う答え。
その事に陛下は笑みを浮かべると共に、新たな宮廷魔術師の誕生を言祝ぎされた。
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「分かり易いくらいにロクリエさんが緊張していますね」
「当然でしょう。彼女は男爵令嬢で、貴族院の生徒で、出身も考えれば、これまでに謁見の間に来たことも、陛下のご尊顔を目にしたことも無いはずです。むしろよく耐えている方かと」
ロクリエさん、ウコバクさん、ヴォヴァルさんが宮廷魔術師に叙される儀式を、ワタシとヘルムス様は無数の貴族たちに交じって見学していた。
ワタシの時は一人しかいなかったので、あっという間に終わってしまった感じもあったが、今回は三人も居て、一人一人の属性も明らかにしているためなのか、だいぶ時間がかかっているように思える。
「耐えている方ですか……。ワタシは特に何も思う事が無かったのですが……」
「それはミーメ嬢だからでしょう。ミーメ嬢の実力を考えれば、この程度の場は脅威にもならないはずですよ」
「それは……そうですね」
まあ、ワタシの時と色々と違うのは当然なのだろう。
人数も、地位も、実力も、季節も、状況も、何もかもが違うのだし。
一番の差は……やはり立場か。
いざとなれば、幾らでも逃げられると言う当時の立場は極めて楽なものだった。
今の色々と背負っていたり、絆されたりしている状態も悪くはないのだけど、精神的な意味での無敵さに限っては、当時の方が敵無しだったかもしれない。
「ところでヘルムス様。ロクリエさんの後ろ盾はどなたが? イトメント男爵は元より論外ですが、既に捕まりましたよね。そうなると、後ろ盾のない未成年の女性宮廷魔術師と言う事で、ワタシの時のように手を考えないといけないと思うのですが」
「ご安心を、ミーメ嬢。例の賠償問題を王城とグレンストア公爵家が肩代わりした時点で、その二家がロクリエ嬢の実質的な後ろ盾になっています」
「ああ、言われてみれば……」
先日の収穫祭の一件は、表向きにはロクリエさんがちょっと騒動を起こし、それに伴って生じた混乱で多少の怪我人が出た事になったため、その治療費や賠償金をロクリエさんが払う事になった。
当然ながら、一学生に過ぎないロクリエさんでは、それを全額自分で賄う事は出来ず、王城とグレンストア公爵家が肩代わり。
二家としては、今後、宮廷魔術師としてロクリエさんに働いてもらう事で、賠償金を返済してもらう事にしたのだった。
この状況でロクリエさんに手を出せば……そりゃあ、王城もグレンストア公爵家も黙っていない。
だって、肩代わりした賠償金が戻ってこない事になってしまうのだから。
確かに、実質的な後ろ盾になっている。
「とは言え、それほど大した額でもありませんし、ロクリエ嬢の能力なら、そう時間をかけることも無く返済してしまう事も可能なのでしょうが……。まあ、この辺りの話は、当人たちが、自分で調整をする事ですね」
「なるほど」
ヘルムス様の言う返済方法については、確かに心当たりがある。
と言うのも、今現在、ロクリエさんは自分の作品のリストを制作すると共に、彼女の両親が売り払ってしまった作品が何処に行ってしまったのかを探っているらしい。
今、このタイミングなら、何も知らずにロクリエさんの作品を買ってしまった人も、彼女が宮廷魔術師になる前に作った作品の価値を見抜いて購入したと言える状態。
つまり、誰も恥をかかず、むしろ自慢できる状態と言う事だ。
そして、それだけの価値が付くのがロクリエさんの作品なので、『模倣』をきちんと制御できるようになってから新作を発表すれば……まあ、今回の件の弁済くらいなら、簡単に済む事だろう。
「何事もなく終わると良いですね。ヘルムス様」
「そうですね。その点については、私も同意見です。ミーメ嬢」
ただ、直ぐに弁済するのが良い事なのか。
これまで『模倣』のせいで発揮できなかった本当の実力を明らかにするのが良い事なのか。
この辺りについては、ヘルムス様の言う通り、よく考えて、調整するべき事だろう。
同時に、ワタシたちが関わる必要のない件でもある。
此処から先については、ロクリエさん自身が、どう考えるかだ。
「「「ーーーーー~~~~~!」」」
ワタシたちがそんな会話をしている事を知ってか知らずか、ロクリエさんたちは三人揃って謁見の間から退出していき、就任の儀は無事に終わったのだった。
10/21誤字訂正




