328:二人での晩餐会
「お待ちしておりました。『船の魔術師』様、『闇軍の魔女』様。早速ですが、始めさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「よろしくお願いします」
「ああ、頼んだ」
ワタシとヘルムス様が控え室へ赴くと、そこには既に準備万端と言った様子の給仕の方が居た。
晩餐会まで時間が無いのも確かなので、ワタシたちは直ぐに席に着く。
「ミーメ嬢。本来ならば、コース料理と言う形で順番に供されるのですが、時間もありませんので、一度に全てを出してもらってもよろしいでしょうか?」
「勿論構いません。ただそうなると、まずは一通り手を付ける事で毒見を済ませてから、残りをゆっくりと、と言う形でしょうか?」
「そうなりますね。では、そのように」
「かしこまりました」
ヘルムス様とワタシが向かい合って座る机の上に、料理が並べられていく。
ワタシの知識が足りない上に、料理人の方々頑張ったからなのか、見た目からではどんな食材を使ったのかも分からない品も多い。
だが、全部を会話しながらゆっくりと食べれば、お腹が十分に満たされるのは間違いないくらいには、量はたっぷりである。
なお、毒見の都合なのか、食材の都合なのか、客の好き嫌いの都合なのかは分からないが、ワタシとヘルムス様、それぞれの前に並べられている料理で共通しているのは、ランファンボアのお肉をローストした物と思しき料理くらいである。
ワタシとヘルムス様にはそこまでの苦手はないはずなので、これは晩餐会の方に合わせた結果だろう。
「では、ミーメ嬢。今年一年の実りに感謝をして」
「はい。ヘルムス様。今年一年の実りに感謝をしつつ、いただきましょう」
ちなみにお酒はヘルムス様もワタシも飲まない。
警備の職務中に飲めるわけがないとも言う。
なので、乾杯は果実水である。
そうして、給仕の方々が侍女の方一人残して去る中で、ヘルムスさんとワタシは、食事を始めた。
「この前菜は……美味しいですね。一体何をどうすれば、こんな味に? グロリベス森林深層の香草? ああなるほど……じゃあ、あれかな?」
「このスープは素晴らしいですね。様々な野菜の美味しい部分だけをすくい上げているようです」
「海の魚を今日の為に生かして運んできたとは、流石は王城ですね」
「こちらの肉料理はトリカーノ侯爵領で丹精込めて育てられた牛ですか。ソース含めて素晴らしいですね」
「サッパリとしたシャーベット。幾らでも食べられそうな、でも他の料理も食べたくなるような……」
「こちらのサラダも良いですね。幾らでも食べられそうです。ああ、こちらにもやはりグロリベス森林深層の植物を使っているのですか」
「ランファンボアのロースト。ランファンボア以外にも、グロリベス森林深層産の物を色々と使っていそうですね。魔力の味の濃さが段違いです」
「果物はグロリベストレントの果実ですか。運よく回収出来たようですね。なるほど、女性陣が魅了されるのも納得の美味しさですね」
美味しい。
一言でまとめてしまうのなら、もはやそう言うしかない美味しさだった。
勿論、もっと細かく感想を述べる事も出来るだろう。
だが、そんな細かい感想が無粋に思えてしまって仕方がないぐらいには美味しかった。
素材、料理人、道具、なんなら給仕の方々の質も伴っているからこその美味しさなのだろう。
なお、職務は職務と言う事で。
ワタシはちゃんと口の中に毒見用の魔術を改めて展開した上で、先に一通り食べてから、改めて味わっている。
問題? あるわけがない。
ちなみに、侍女の方はワタシたちへの説明のために一通りのメモを持たせられていて、ワタシたちの疑問に淀みなく答えてくれた。
それと同時に、飲み物が足りなくなれば、都度足してくれるなど、色々としてくれた。
「ふう。満足でした。こんなに良い料理が食べられるなんて、宮廷魔術師の……いえ、収穫祭三日目の王城警備をした甲斐があったと言うものですね」
「ご満足いただけたようで何よりです。ミーメ嬢」
そうして何事もなく食べ終わったところで。
侍女の方が食後のお茶を出してくださったので、食後のティータイムと相成った。
窓の方を見れば、既に空は黒く染まり、王都の街中から上げられる花火によって彩られる時間帯になっていた。
「そろそろ晩餐会が始まる頃でしょうか? ヘルムス様」
「ええ。ただ、私たちの出番はないでしょう。晩餐会には警備の騎士たちも大勢居ますし、あの場で愚かな振る舞いをする者はまず居ません。そう言う人間しか招待されていないはずですから」
ヘルムス様によれば。
今日の晩餐会は本当に重要な物で、ヘルムス様の兄上にしてトレガレー公爵家の王都駐在官であるボースン様も、此処だけはご自身で出る他なかったらしい。
なんでも、此処に呼ばれて出席しているかどうかで、これから一年間、王都王城周りで優先して繋ぎを取っておくべき人間が分かるのだとか。
「なら、ワタシたちはワタシたちで、好きに話をしていて大丈夫そうですね」
「そうですね。万が一に備えて、直ぐに連絡が届き、即応できるようにさえしておけば、問題はないでしょう」
ワタシたちの言葉を聞いて、侍女の方が部屋から退出してくれる。
その上で、ワタシは隠蔽の魔術を展開して、情報を取られないようにする。
「ヘルムス様。良い機会だからと、ロクリエさんを相手に魔力属性を用いた魔術を使う機会を設けてみたのですが、どうでしたか?」
そこまでして聞くのは、もちろん魔力属性周りの話だ。
こればかりは、余人には聞かせられないので。
「やはりそう言う事でしたか」
「そうですとも。でなければ、天竜の鱗製の魔道具で身を守っていようと、『ひとのまのもの』で打ち上げて、滅多打ちにしていれば、その内に魔力切れで落とせていたはずですから。それで、ヘルムス様の感想としてはどうでしたか?」
「そうですね……」
ワタシの言葉にヘルムス様は少し悩んでから口を開く。
「やはり、人相手に三属性魔術を用いる場合は、精度や効率の面を重視した魔術を用いるべきであり、火力と言う意味では過剰としか言いようがありませんでしたね」
「やっぱり過剰でしたか」
「ええ。今回はロクリエ嬢が身を守るための魔道具として規格外の物を持っていたので、遠慮なく全力で撃ち込ませていただきましたが、あの時の手応えからして、普通の宮廷魔術師に同じ物を撃っていたら、確実に相手を殺していたでしょう。そのような威力でした」
「なるほど」
ヘルムス様の言葉に対して、ワタシとしては、それはそうだろうな。としか思えないところである。
なにせ、ヘルムス様の魔力量は、ワタシなど比べ物にならないくらいに多い。
そんな人物が使う三属性魔術ともなれば、ワタシだってちゃんと防御しなければ危ない次元の威力になる。
そう考えたら、ヘルムス様の抱いた感想は、当然としか言いようがない。
「止めますか?」
「いいえ。続けます。あの威力を自分の物としなければならない相手は、死竜と言う名でもって、既にいる事が確定しているのですから。そうでなくとも、魔術を学ぶ事を止めるなど、私にとってはあり得ませんよ。ミーメ嬢」
「それでこそのヘルムス様だとワタシも思います」
ヘルムス様は力強く言い切る。
その顔は、ワタシの事を真正面から見つめると共に、その力を向けることになるであろう相手にも向いているようで、思わず見惚れそうなものだった。
いや、婚約者だし、今は二人きりなのだから。見惚れてもいいのかもしれないけれど。
うん、少しくらいなら見惚れていても……。
「ただ、先に述べた通り、人を相手にするのにこれ以上の火力を求めても困るだけなので、今後の為にも精度と効率を良くする方向でまずは努力しようとは思いました。制御できていない力など、邪魔でしかありませんので。ミーメ嬢?」
「い、いえ。コホン。何でもないです。分かりました。では、ワタシもその方向でヘルムス様を手助けさせていただきますね」
「ええ、よろしくお願いします。ミーメ嬢」
ヘルムス様が首を傾げたところで、はっと正気に戻り、ワタシは一度咳払いをしてから、ヘルムス様の言葉に応える。
その後、何かが起きる事もなく、収穫祭は無事に終わるのだった。




