325:『模倣』の魔術
「それじゃあ~まずはパパパっと体を診ちゃいましょうね~。あ、私は『白衣の魔女』ユフィールよ~よろしくね~ロクリエちゃ~ん」
「分かりましたわ。お願いいたします」
ロクリエさんが落ち着いたところで、改めてユフィール様が診察を始める。
その間にワタシは部屋の周囲や王城全体の様子を確認。
特に騒ぎのような物は起きていないので、ロクリエさんによる襲撃の被害を受けたお客さんと騎士たちが騒いでいるような事にはなっていないようだ。
ただ、画廊は現場検証のために閉鎖中。
ハンドレードの絵……とされていた、ロクリエさんの絵は既に回収されて、奥に引っ込められたようだ。
「やっぱり~過度な精神的負荷による一時的な過労と言う所ね~。追い詰められたからそうなってしまうのは仕方がないけれど~眠らない~食べない~考えすぎると言うのは~若い子でも毒よ~」
「はい……」
「と言うわけで~医者としては~温かいお粥でも食べて~ゆっくりと眠る事を推奨するわ~」
「分かりましたわ……」
ユフィール様の診察が終わったらしい。
どうやら、詳しく調べても、判断が変わるような事は無かったらしい。
そして、ユフィール様は、人を呼んで、指示を出していく。
「後はそうね~。どんな内容でもいいから~人と話をするのもいいわ~気が紛れると思うから~」
「では、ロクリエさんの魔術……特に第二属性についての話でもしますか?」
「!?」
ワタシの言葉にロクリエさんがギョッとしたような表情を浮かべる。
まあ、ロクリエさんの第二属性は、今回の件の、そもそもの原因の一つとも言えるし、これまでに垣間見えている事情から察すると、ロクリエさんは自分の第二属性を好ましく思っていない可能性もある。
だがそれでも、この場で話した方が良いと、ワタシは思う。
なにせだ。
「ロクリエさん。自分から第二属性を明かし、何が出来るかを話してもらえた方が、貴方に対する心象は間違いなく良くなります」
「それはそうかもしれませんが……」
「ついでに、この場には宮廷魔術師が二人も居ます。ロクリエさんが今まで悩んでいた事に対する解決策だって示せるかもしれませんよ」
「その点については~、私もミーメちゃんに同意するわ~」
実益は間違いなくあるのだから。
「最後に、説明に紛れ込ませる形でロクリエさんが暴れたところで、ワタシなら見てから対応できます。なので、外野が何かを言う事など出来ませんので、安心してください。説明を分かり易くするためなら、簡単な魔術くらいなら使っても構いませんよ」
「私も許可するわ~。若い子の新しい魔術がどんな物か気になるもの~。あ、魔術の行使をしても大丈夫な状態である事は保証するわ~」
「……」
なお、ワタシとしてはこの場で魔術を使っても大丈夫だと言う話を伝えたつもりだったのだが、それに乗じたユフィール様の説明まで聞いたロクリエさんの顔は、何処か引き攣ったものだった。
はて? ワタシは何か変な事でも言っただろうか?
まあ、そんな事はさておいてだ。
「……。で、では、説明させていただきますわ。私の第二属性は『模倣』と言いますの」
ロクリエさん曰く。
『模倣』はそれ単体だと、自分が思い浮かべた物や、目の前にある物を真似た幻を作り出す。
自分の動きを模倣した相手に似せる。
と言った事しか出来ないらしい。
そして、ロクリエさんは自分が第二属性持ちである事を隠していた。
その為、普段は自分の第一属性である『土』と混ぜ合わせて利用していたらしい。
つまり……。
「こうして、望んだ色の顔料を出す。彫刻に向いた石材を出す。と言った具合ですわ」
「なるほど。ワタシの目にそっくりな、綺麗な赤紫色ですね」
「中々、質が良い石膏ね~お薬にも使えそうだわ~」
ロクリエさんが望んだ物体を、二属性魔術の効率で生み出していたようだ。
もしかしたら、こうして美術に関わる品を生み出す事で、自分は絵が描けない、像が彫れないと言うフラストレーションを晴らしていたのかもしれない。
あるいは、自分が生み出した物で喜びつつ、己の作品を作っていく他の生徒たちの様子を見て、ストレスを溜めていた可能性もあるけれど。
ちなみに、石膏は本当に薬としても使えるらしい。
なんなら、幾つかの鉱石、鉱物は薬としての用途もあるのだとか。
何となくだが、ユフィール様のロクリエさんを見る目が、これまでよりも好意的なものになった気がする。
「ちなみに宝石の類は作れますか?」
「現物を前にして、普通の宝石を少量作るくらいなら、たぶん出来ますわ。ただ……『闇軍の魔女』様が身に着けていらっしゃるような、よく分からない力が込められた宝石は真似できる気がしません」
「ふむふむ。限界もちゃんとあるわけですね」
ロクリエさんの魔術では、『泳蟹瑠璃』は作り出せないらしい。
この分だと、ワタシが宝石化の魔術で作り出した、他の宝石についても同様だろう。
たぶん、アレの原料に土ではない生物部分が含まれている為だろう。
「戦闘の際に模倣していたのは、可燃性の顔料、自分の魔術、自然現象と言ったところですか?」
「その通りです。鉄鉱石を砂状にした物や、私に理解できる仕組みの魔術を模倣したりしていましたの。これでも私、十歳で第二属性に目覚めましたので、イトメント村を守るためにもこっそりと研鑽を積んでいましたから」
ロクリエさんの十歳で第二属性に目覚めたと言う言葉に、ユフィール様は何とも言えない顔を浮かべ、ワタシは無表情である。
うん、ワタシが居ない場で、他の人たちに言ったのなら、凄いと褒め称えるところだと思うのだけれど、ワタシは八歳で第二属性に目覚めている物でしてね、はい。
いやまあ、ワタシには前世知識と、それがあったが故に見出せた『八顕現』があったから、そもそも比べるべきではないのかもしれないけど。
「それとその……」
不意にロクリエさんが何か申し訳なさそうな表情を浮かべ、ワタシの方を向く。
何かあったのだろうか?
「その、このような場で言う事でもなく、更には恩を仇で返す振る舞いになってしまいましたが、夏季休暇中の貴族院で『闇軍の魔女』様がしてくださった特別講義は大変参考になりました。アレがあったおかげで、その、私の光の矢の魔術は透明な鉱石で作ったレンズを通すと言う発想を思いつき、威力を格段に上げられるようになりましたので……」
「そ、そうですか……」
「あら~……」
考えてみれば当然の事だった。
ロクリエさんは貴族院の生徒で、しかも学業成績優秀で、そこには魔術の成績も含まれている。
となれば、あの特別講義に参加していないなどあり得なかった。
えーと、うん、ロクリエさんはしおらしくなっている。
このままだと良くない気がするので、何かは言うべきだろう。
「ロクリエさん」
「はい」
「ワタシは考え方を教えただけです。あの講義のお陰で身についた力があったと言うのなら、それはロクリエさんの努力の賜物です」
「はい」
「ですが、だからこそ反省をしてください。向けるべきではない相手に向けさせるために、ワタシはあの講義をしたわけではありません。そして、相談もしてください。あの講義は、魔術以外にも応用できる考え方として、出させてもらった面もありますので」
「はい。分かりましたわ……」
よし、たぶんだけど、良い感じにまとまった気がする。
ユフィール様が背後で微笑んでいるのは気にしてはいけない。
「……。この先については話したくないなら、今は話さなくても構いませんと、先に断っておきます」
「?」
「ロクリエさん。何故、『模倣』によって、誰かの作品を模した作品が出来てしまったのですか? それと、魔道具としての性質を持つ芸術品についてもです」
「!? それは……」
ワタシの質問に、ロクリエさんは口ごもる。
その様子は、とてもつらい事を思い出し、口にするかのようで。
ユフィール様も油断なく見守り始める。
だから、ワタシは改めて、話したくないなら話さなくてもいいと告げようとして……。
「話させていただきますわ。多くの問題の原因になった事ですもの」
けれど、その前にロクリエさんは踏み込んだ。
誰かの真似ではない、自分自身の話だからと。
ちなみにですが、模倣属性を混ぜ込んだ二属性魔術の出力は、4倍ではなく3倍弱くらいに収まってしまいます。(土が主体でない場合、光の矢など)
これはロクリエの知識や技術の不足、無理やり真似ている事などが原因です。
代わりに、ロクリエが原理などを理解できるなら、かなりの幅の魔術を使える事になるので、汎用性は桁違いとも言えます。
まあ、ロクリエはまだそこまで、『模倣』を理解していないのですが。




