323:後始末の前に ※
今回も第三者視点となります。ご注意ください。
かくして、ロクリエ・フォン・イトメントは捕らえられた。
捕縛されたロクリエは直ぐに王城内の特別な部屋へと移送されて、『白衣の魔女』ユフィールが診る事になり、万が一の際の制圧役としてミーメもそれに同行する事になる。
だが、ロクリエが王城を襲撃し、捕らえられても王都の収穫祭は何事もなく続いている。
死人が出ていない以上、王城が襲撃されようとも、この程度、と言う事で、襲撃に巻き込まれた客の介抱や補償は必要であっても、収穫祭の全てを止めるような出来事ではないと言う、王城側の判断によるものである。
そして、収穫祭が何事もなく……それこそ、王城の外には一切の情報が漏れていない現状だからこそ、急いで話し合うべき事があった。
「失礼します」
「うん、どうぞ。入ってくれ」
昼食の時間を過ぎた頃。
ヘルムスは宮廷魔術師長の部屋を訪れた。
部屋の中に居たのは、部屋の主である宮廷魔術師長ジョーリィ・ウインスキー、『風鳩の魔術師』ドバート・レーデン、騎士団長、グレンストア公爵家の王都駐在官。
ヘルムス以外の顔色は様々であるが、自身の管理下にあるロクリエが問題を起こした事もあって、グレンストア公爵家の王都駐在官の顔色は特に悪いものであった。
「では、ヘルムス君。集まるべき人間は全員集まったから、報告をしてくれ」
「かしこまりました。宮廷魔術師長」
ヘルムスは宮廷魔術師長たちに、今回の事件の推移……突然の襲撃、警備の騎士たちの奮戦、画廊の状況、ロクリエの第二属性と言ったものについて、分かっている範囲で説明していく。
また、ロクリエが『アーティスト』である事や、犯行の動機についても、推測と前置きしつつも話しておく。
「こ、この度は誠に申し訳なく……!」
「……」
これらの説明に耐え切れなくなったのか、王都駐在官が宮廷魔術師長たちに向かって土下座する。
もはや、言い訳のしようのない失態、そう判断しての事だった。
そんな王都駐在官の姿を騎士団長は強く睨みつける。
こちらはこちらで、部下である騎士、そして魔術師団所属の友人たちを傷つけられた以上、当然の反応と言えた。
「宮廷魔術師長。直接ロクリエ嬢に対峙した者と言わせていただくのであれば、彼女には情状酌量の余地が十分に存在する可能性があります。少なくとも軽率な処分を下すべきではないとは断言させていただきます」
そして、そんな二人を尻目に、ヘルムスは話を進める。
その態度には、むしろ宮廷魔術師長とドバートの方が面食らうぐらいであった。
「あー、ヘルムス君。それはロクリエ君が第二属性持ちであるからかな?」
「それもありますが。より大きいのは、先ほど事件について説明した通り、ロクリエ嬢が死者を出さず、他の美術品を傷つけようともしなかった。こちらですね」
「ふむ……」
「ロクリエ嬢は、あの状況でもなお、人を殺せない程度には善性の持ち主と言う事です。多くの目撃者がいる以上、全くの無処分と言うわけにはいかないでしょうが、寛大な処分は行えるかと」
「うーん……」
ヘルムスの言葉に宮廷魔術師長は悩みの声を上げつつも、王都駐在官と騎士団長の様子を窺う。
寛大な処置で済ませる場合、王都駐在官は喜ぶだろうし、新たな宮廷魔術師を迎え入れる事も出来るだろう。
だが代わりに、被害に遭った騎士や魔術師、客への補償に尽力する必要がある事だろう。
逆に厳しい処分を下す場合は……正直なところ、何もメリットはない。
補償はどの道必要で、厳しい処分を下したところで、必要な補償が軽くなるわけでもない。
「もっと言えば、ロクリエ嬢もどちらかと言えば被害者に近い立ち位置です」
そんな宮廷魔術師長の態度を知ってか知らずか、ヘルムスは言葉を重ねる。
彼女もまた救われるべき相手であると。
「ヘルムス君。詳しく」
「はい。先述した通り、ロクリエ嬢の目的はハンドレート・フォン・イアゴの新作として発表されてしまった自分の絵を破壊する事でした。しかし、ロクリエ嬢が自分の絵が王城で出されてしまったのを知ったのは、恐らく収穫祭の一日目。展示された絵を見たその時です。つまり、ロクリエ嬢の絵は、彼女の与り知らぬ内に、何者か……恐らくは両親によって売却されているのです」
「……」
「ロクリエ嬢はまだ子供です。思いもよらぬ状況に直面すれば、視野が狭まり、とんでもない行動をしでかす事もあるでしょう。そもそも、絵は王城の専門家でも見抜けないほどによく出来た物でした。この状況で、全ての責任をロクリエ嬢に押し付ける事が正しい事であるとは、私としては、とてもではありませんが言えません」
「だから、寛大な処分を、と言う事なんだね」
「そう言う事です。他にも理由はありますが」
ついでと言わんばかりに、ヘルムスは昨日の間に調べられ、挙げられたロクリエについての情報を述べていく。
つまり、学業成績は優秀であるが、卒業後はグレンストア公爵領へと戻るために自主的に交流を抑えていた事。
そして、王都に居る時間を少しでも長くするために、夏季休暇などの長期休暇期間中でも村に戻らず、貴族院で勉学に励んでいた事。
そうであるが故に、『アーティスト』や自分が描いた絵が出回っている事を知れる機会が無かった事。
これらの言葉が並べられる度に、宮廷魔術師長は勿論の事、王都駐在官と騎士団長も何とかしてあげたいと言う思いが湧き上がってくる。
「……。騎士団長、大丈夫かな?」
「騎士団としては、宮廷魔術師長の言葉なら受け入れましょう。ただ、傷の治療、装備の修復、評価への口添え、やっていただきたい事は多くありますが」
「うん、分かった。それぐらいで済むのなら、吾輩たち大人は寛容な対応をするべきだろう」
宮廷魔術師長と騎士団長のやり取りを見ながら、ヘルムスは思う。
もしもの話として。
ロクリエが人を殺してしまっていたら、王城の外にも知れ渡るほどに王城を破壊してしまっていたら、画廊に飾られていた他人の作品を平然と巻き込んでいたら、自分が知らない事実を指摘された時に動揺した姿を見せていなかったら、もっと悪態の類を吐いていたのなら。
こうはならなかっただろう。
少なくとも自分は、ミーメ嬢に頼まれてもなお、救う方向で動く事は無かったに違いないと。
「ところで宮廷魔術師長、騎士団長、そしてグレンストア公爵領の王都駐在官殿。ロクリエ嬢についてはこれまでに述べた通りなのですが、だからこそ思いませんか? 本当の意味で元凶である人間は許し難いと」
「それは……そうだね」
「まあ、そうだな」
「イトメント男爵ですか。彼らについては、こちらで直ぐにでも……」
「そこでですね。我が家の手の者が、イトメント男爵が王都の何処に滞在しているのかを把握している。そう言ったらどう思いますか? ああ、知ったのは半ば偶然です。昨日、少し怪しい動きをしている人間をミーメ嬢が見かけたので、調べたら、と言う具合ですね」
「「「……」」」
ヘルムスの言葉に全員が視線を絡ませる。
その視線には、此処までのやり取りで薄れていた、暴力的な気配が少なからず含まれていた。
「宮廷魔術師長としては、『アーティスト』の作品を古物商に流していた誰かは抑えなければいけない相手だと判断させてもらおう」
「騎士団長としては、王都の治安を乱す可能性が高い者を見逃す事は出来ない。贋作売りにせよ、違法な魔道具売りにせよ、だ」
「グレンストア公爵家の王都駐在官として述べさせていただくならば。彼の者たちをグレンストア公爵家が庇う事はございません。むしろ、あのような恥知らず共を放置していて、誠に申し訳ない。主に代わって詫びさせていただきます」
「ありがとうございます。ああ、希望的観測として、彼らが贋作を保有し、その贋作にサインの類が消された痕跡などが見つかれば、最良ですね。ロクリエ嬢がするべき事をしていた事が証明されますので」
四人の意見は一致した。
子供がしでかした責任は、親に取ってもらう事で。
親の方が悪い事にして、子供の罪は出来るだけ軽くする事で。
親と子供、どちらがより優秀……否、マトモな人材であるかも相まって、彼らに躊躇いなど無かった。
「そう言うわけですので、ドバート殿」
「はいはい。騎士何人かと兵士を率いて、捕まえて来いって事な。折角だから、出し物みたいにしちまうか。犯罪者を収穫ってノリだな」
「よいですね、その方向でお願いします。祭りの空気を邪魔するのも良くないですし」
「同行しましょう」
その後、王都でイトメント男爵とその妻は捕縛された。
飾り付けられた上で、王城まで引きずられていく彼らの姿は、収穫祭の出し物としか思われず、本当の捕縛であったことが知られるのは、当分先の事になるのであった。
ロクリエ
・学業成績優秀
・第二属性持ち
・今後の捜査のために生かしておいた方が得が多い
・少なくとも根の性格は悪くない
・まだ子供
イトメント男爵
・領地を放り出して、旅行三昧、放蕩三昧
・有名作者の贋作や天竜の鱗製魔道具を売った疑惑あり
・今後の捜査のためにも、どの道捕縛は必要
・性格が明らかに悪い
・ロクリエ卒業後に処分される事が確定している
此処まで揃ってたら、そりゃあ男爵の方を切るよね。と言う話です。
勿論、ロクリエも完全な処罰なしとはなりませんが。




