318:善意より瞳は模倣を強要した ※
今回はとあるキャラ視点となります。
ご注意ください。
私は絵を描く事、彫刻を彫る事、魔術を学ぶ事が好きだ。
それこそ物心がついて最初にやった事は絵筆を握る事だったし、魔力に目覚めた次の日には土属性に目覚めていたし、全身粉塗れになっても彫刻を彫る事を止めなかった。
そんな私の姿を両親……はただ放置していただけだったが、村の人たちは止めずに喜んでくれたから、ますますのめり込んでいった。
私は先達の作品を見て、模倣して、自分の物にしていった。
遥か頂にある物も運よく見る機会があって、それも真似した。
今日はあの作品の筆遣いを真似出来た。昨日はあの作品の彫り方を真似出来た。きっと明日はあの作品の魔術を真似出来る。
話が変わったのは10歳の頃。
私の頭の中で、唐突に『模倣』と言う言葉が響き、私は自分が第二属性に目覚めた事を認識した。
創造は模倣から始まると言うから、私に相応しい第二属性だと思った。
けれど、私は自分が第二属性を得た事を隠した。
誰にも話さなかった。
そこには、村の人たちと離れたくなかったと言うのもあるし、あの親を名乗る二人に良い思いをさせたくなかったと言う思いもあった。
左目の色が変わったわけでもないし、それでも問題は無いと思っていた。
だから、私は第二属性を隠したまま、その日も絵筆を握った。
「えっ……」
そして愕然とした。
出来上がったのは、私の作品ではなかった。
私が参考にしていた画家の絵だった。
「なんで……」
彫刻を彫っても同じことだった。
出来上がるのは、私の作品ではなく、頭の中であの人のように仕上げたいと思って思い浮かべた、その人の作品だった。
「どうして……!?」
作品を作り上げるために集中する。
そうなると、私は自然に魔術を使う。
すると、『模倣』は私の意思を排し、参考にした人物の技術と思想を模倣した。
まるで、作品を作り上げるのに、私の拙い技術など不要であると言わんばかりに、完成品を提示してきた。
だがそれは、一般常識において、贋作と称するべき作品たちだった。
『模倣』を制御しようともした。
すると今度は忘れるなと言わんばかりに、誰かの魔術を模倣して、それが込められた、出来損ないの魔道具になってしまった。
私に出来る事は、積み上がっていった贋作たちと出来損ないたちを倉庫にしまう事だけだった。
忘れないために、作品そのものには罪はないのだからと。
天竜の鱗で出来た魔道具も、経緯は多少違うけれど、そうして倉庫の中に収められた。
「……」
私は絵を描く事、彫刻を彫る事、魔術を学ぶ事が好き“だった”。
いや、今でも好きな事に変わりはない。
魔術については、今だって研鑽を続けてはいる。
けれど、絵画と彫刻に関しては、本気で作り上げた作品を表に出す事はもう二度と叶わない。叶えてはいけない。
だって、本気で作って出来上がるのは、私の作品ではなく、過去に居た誰かの作品なのだから。
創造の始まりは模倣である。
けれど、模倣を強要される私の創造は、他ならぬ模倣によって断たれてしまった。
私は自分の創造に辿り着く事が出来なくなってしまった。
目を潰してしまおうかと思ったこともある。
けれど、天竜山を挟んだ先にあるスデニルイン辺境伯領が滅んだ事を考えたら、村の周りに現れる魔物の危険性を知っている身としては、私が嫌だからと言うだけで第二属性魔術を捨ててしまうわけにはいかなかった。
「此処が貴族院……」
やがて私は生まれ故郷の村を離れて、貴族院で学ぶ事になった。
六年間、村はグレンストア公爵様の手の者と代官が守ってくれるので、夏季休暇でも故郷へ戻らずに勉学に励むように命じられた。
だから私は、贋作たちと出来損ないたちを収めた倉庫に、『模倣』で作った魔術の鍵をかけて、私と代官にしか開けられないようにした上で、村を離れた。
誰の目にも触れないように、特にあの放蕩者の男女には知られないようにと祈りながら、倉庫は固く閉ざした。
その筈だったのに……。
「なんで……」
二日前、貴族院の美術好きの生徒たちに誘われて王城にやって来た私が目にしたのは、ハンドレード・フォン・イアゴの新作として紹介される私の絵だった。
見間違えるはずがない。
だって、描かれているのは、私の故郷であるイトメント村だったのだから。
こんな絵をハンドレードが描く訳がなかった。
血の気が引く、周りの皆の顔が見れない、声が聞こえない。
私に出来るのは、顔面蒼白になりつつも、どうにか取り繕って、その場から去る事だけだった。
「何がどうなって……」
それから直ぐに考える。
どうやったら穏便に事を収められるのかと。
だが直ぐに躓いた。
あの絵が私の作品であると証明する事も、ハンドレードの作品ではないのを証明する事も、出来る気がしなかったからだ。
だって、王城の収穫祭で飾られていると言う事は、王城の美術品を鑑定する人の目をすり抜けてしまったと言う事になるのだから。
筆遣いだけでなく、使われている紙も、絵の具にも『模倣』の影響は及んでいたからこそ、彼らの目を誤魔化せてしまった。
仮に私の第二属性が『模倣』であると明かしても駄目だ。
私の『模倣』は魔力すら真似してしまうのだから、出来る事は証明できても、あそこにある絵が私が描いたものであると証明する事は出来ない。
特殊な第二属性を得た小娘が、名誉欲に駆られただけと思われてお終いだ。
「……」
だけど……それでも……放置は出来なかった。
作品そのものに罪はない。
罪があるのは、アレが贋作として通用し得ると分かっておきながら、秘し続け、その癖管理が不行き届きだった私である。
罪は償わなければならない。
アレがこの世に残され続けるのは、絶対に許してはいけない事だった。
ハンドレードの名を穢さないためにも、あらゆる手段を用いて、処分しなければいけないのは、明らかな事だった。
一日かけて覚悟は決めた。
断頭台に架せられる事も、無明の荒野に落とされる事も受け入れた。
代わりに、何としてでも、アレはこの世から消し去って見せる。
あんなものは、この世にあってはいけない。
仮にも芸術を学んだ者、愛する者として、アレの処分だけは成し遂げなくてはいけない。
それが、アレを生み出した私の責務だった。
「あらゆる手を講じるのなら、これだって使わないと」
私はグレンストア公爵家の王都屋敷内にある自分の部屋に密かに戻ると、そこで保管していた二つの魔道具……もしもの時に備えて作ってあった、天竜の鱗で出来た、身体強化の魔道具と防御の魔道具を身に着ける。
ただそれだけで、私は自分の身に尋常ならざるほどの力が漲っていくのを感じる。
同時に、こんな事の為に使うつもりではなかったのだけれど、でも、そうなってしまった以上は仕方がないと、心を納得させていく。
なんだったら、アレの処分が終わった後に、私の命と共に王国へ捧げる品として、この二つの魔道具はちょうどいいくらいかもしれない。
そう思ったら、私の心は幾分か楽になった。
「全ての責任は私にあります」
私は自分の第二属性について、それが何を出来るのか、何を作ってしまったのかを記した手紙を、事が終わった後に見つかるよう残すと、戦うための準備を整えた上で部屋を後にする。
そして、魔術によって誰の目にも留まらないようにしながら、グレンストア公爵家の王都屋敷を離れた。
目指すは王城に特別設置された画廊。
そこに展示された私の絵の破壊。
他の人や作品を巻き込まないように細心の注意は払うけれど、それは絶対ではない。
邪魔をされたのなら……仮にトリニティアイが相手だったとしても、押し通し、壊して見せる。
「すぅ……はぁ……。よし、行きましょう。いえ、行きますわ」
収穫祭三日目は既に始まっていた。
ロクリエ・フォン・イトメント
第一属性『土』:普通の土だけでなく、彫刻用の石や、絵の具に用いるような顔料まで生み出せる。
第二属性『模倣』:他人の行動、表現、技術などをそのまま、あるいは似せて再現する事。性質上、精神と肉体の両方に縁がある。創造も上達も模倣から始まるが故に、所有者の模倣を手伝ってしまう。
ところで、いったい誰が彼女の作品を倉庫から持ち出し、しかも売り払ったんでしょうねー。




