315:収穫祭二日目の始まり
「ヘルムス様。今日もよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。ミーメ嬢」
収穫祭二日目。
今日のワタシとヘルムス様の役目は、王都内を巡回し、トラブルに遭遇あるいは要請を貰ったら、トラブルの解決に尽力する事である。
とは言え、収穫祭の期間中に大きな問題が発生する事は滅多にないと言うのが、ヘルムス様の言葉であり、その言葉が正しい事はワタシも肌感覚として分かっている。
よって、体感的には、昨日よりもむしろ暇になるのではないかと言うのが、ヘルムス様の予想であった。
だが仕事は仕事。完全に気を抜かず、出来るだけ真面目にやるべき。
と言うわけで、ワタシとヘルムス様は宮廷魔術師の格好で、二人一緒に収穫祭二日目を迎える街中へと繰り出したのだった。
「……。行け、闇人間。強制酔い覚まし付き」
そうして、収穫祭二日目に臨んだワタシたちが最初にする事になったのは、広場や大通り、あるいは、それらから少し離れた場所の路地で酔い潰れていたため、近所の医院に集められた酔っ払いたちの介抱だった。
どうやら、昨日ワタシが言っていたように、朝まで飲み続けていた連中が軒並みダウンしたらしい。
急性アルコール中毒のような症状を呈している人こそ見られないが、急いで処置をする必要があるだろう。
と言うわけで、ワタシは闇人間を介して、倒れている人たちの体内に存在しているアルコールを闇に溶け込ませ、アルコールごと魔力に還元してしまう事で、アルコールを除去していく。
「……。水よ、船乗りの飲み物よ。我が手に生まれて、彼の者を癒せ。『ソバーアップ』」
ヘルムス様も魔術を行使。
飲みやすくした水を生成すると、酔っ払いの口の中へと侵入させて、強制的に水分を補給させていく。
同時に回復効果のある魔術も行使しているようで、うなされている様子がある人の顔が穏やかなものになっていく。
「まったく。自分の限界も分からずに飲むとは……。大人なのですから、もう少ししっかりして欲しいものです。そうは思いませんか? ヘルムス様」
「同感です、ミーメ嬢」
「すみません、宮廷魔術師様。お陰で助かりました」
「いえ、貴方は医者としての責務を果たしていましたので、かしこまらなくても大丈夫です」
と言うわけで、お酒臭い空間の中で、一通りの処置を完了。
ワタシとヘルムス様は、この医院の責任者であろう医者の人にかしこまられながら、溜息を吐く。
そして、酔っ払いたちについては、目が覚めた人から、順番に事情を聞いた上で帰ってもらった。
当然、酒の飲み過ぎには注意するようにと言う釘を刺しておく事も忘れない。
宮廷魔術師の魔術によって助けてもらえるのが当たり前だと思われるのは、色々な意味で良くないので。
「しかしヘルムス様。幾ら収穫祭と言えども、こんなに酔い潰れる人間が多いものなのですか?」
「そうですね……。ああ、報告が来たようです。なるほど。ミーメ嬢、原因はあったようです」
「と言いますと?」
その後、明らかになった事として。
どうやら、今回の収穫祭には、平民が普段飲んでいるお酒よりも濃くて強いお酒を扱っているお店が何件かあったらしい。
普段は飲めないような高級酒と言う事で、誰かが持ち込んだようだ。
そのお酒の正確な度数などは分からないが、前世知識で例えるなら、普段飲んでいるお酒がビールくらいだったのに対して、持ち込まれたお酒は日本酒、場合によってはウィスキーくらいには、度数が違っていたようだ。
加えて、度数が強いお酒を扱っていたお店は、それらを飲みやすくするような工夫も施していたとの事。
それが希釈ならまだしも、味付けで飲みやすくしていたなら、度数自体はほぼ変わらずだったのだろう。
結果、酒量を見誤り、普段の自分ならまだ大丈夫と言う量しか飲んでいなかったにも関わらず倒れる酔っ払いが続出したらしい。
「ヘルムス様。色々なところに報告と警戒の促しが必要な話では?」
「そうですね。知らせを出しておきましょう。後は、酒を売っている者たちにも、ビールよりも強い酒を売り出すのなら、そう言う物だと客に知らせるように要望を出しておきましょう。問題は相手が既に泥酔していたら、そんな言葉など聞きそうにない点ですが」
「そこはもう、ワタシたちの手には負えない点として、諦めるしかないと思います」
ワタシとヘルムス様は急いで書類を書き上げると、近くに居た兵士たちや闇人間を使って、報告を上げるべき場所に手早く上げていく。
既に収穫祭二日目は始まっていて、一日目に比べれば少しだけ大人しいが騒がしくもなっている。
急いで知らせなければ、いけないだろう。
まあ、真っ当な商人なら、この知らせを受けたら、提供方法を考えてくれる事だろう。
「しかし、まさか最初から私たちが動かないといけない事件が起きるとは。世の中、何があるか分かった物ではないと、よく言ったものですね」
「同感です。本来なら解毒用の魔術を、酒呑みの介抱に使う事になるとは思いませんでした」
「ああ、そう言う魔術だったのですね」
「ええ、そう言う魔術でした」
と言うわけで必要な作業は完了。
医院の方に目をやれば、酔っ払い同士の喧嘩を止めに入った男性が治療されているところ……つまりは、通常の業務に移行しているようだったので、もうワタシたちが居なくても大丈夫だろう。
「それではミーメ嬢。改めて収穫祭を回りましょうか」
「そうですね、ヘルムス様。見回りとして、収穫祭を回りましょう」
ヘルムス様とワタシは、医者の方に一声かけてから、医院の外に出る。
収穫祭二日目は、先述の通り、一日目に比べると、少しだけ大人しい。
これは、様々な事情から、昨日は楽しめなかった人も居るだろうが、それと同じくらいに収穫祭一日目で燃え尽きる人と、収穫祭三日目に向けて力を蓄える人が居るからだろう。
だが、それでも普段の王都に比べれば、十分に騒がしく、普段は見ないようなものが沢山並んでいて、催し物も見切れないほどに行われている。
そして、それらの輝きが強ければ強いほどに隙も生まれると言う事で、窃盗の類は増える事になるのだろう。
つまり、ワタシたちの仕事も普通にある事だろう。
「ミーメ嬢。今日の回り方ですが、王城にはこのように知らせてあります」
ヘルムス様が王都の地図を見せてくれる。
そこには赤い線で、ぐるりと王都を一周するルートが記されていた。
中々に距離があるので、一日がかりになるし、一か所をゆっくりと見ている暇もなさそうだ。
「分かりました。では、このままの予定で行きましょう」
「ありがとうございます。ではまずは近くの教会から向かいましょう」
「はい」
ちなみに、ワタシとヘルムス様はこうして王都を周回しているが、今日の王都警備の任に付いている宮廷魔術師の中には、出動要請が無ければ、一か所で待機し続けている人もいる。
例えば『封蝋の魔術師』ことフーカン様などは、一日……いや、収穫祭の三日間はずっと貴族院に居続けて、貴族院内と周囲で起きたトラブルに対処するらしい。
この辺りは、本人の希望と適性を見て、配置を決めるらしい。
まあ、ワタシの適性は考えるまでもないし、ヘルムス様と一緒に回れる時点で嬉しいので、文句などない。
「物取りだー!」
「行け、闇人間」
「ぐあっ!?」
「お見事です、ミーメ嬢」
実際、ワタシの目の前で女性のカバンをひったくった犯罪者が居たので、犯罪者の足元に闇人間を出現させる事によって、ノータイムで取り押さえておいた。
うん、やはり、ワタシの適性はこちら側だろう。間違いない。
簡単に言えば、ビールばかり飲んでいた所に、レディキラーと言われるようなお酒が、いきなり提供された感じです。
普通に危ない(場合によっては急性アルコール中毒などで、命にも関わる)ので、そう言う事は止めましょう。
お酒は二十歳になってから。二十歳になっても程々に。です。
※グロリアブレイド王国では18歳から飲酒が認められています。(191話参照)
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