314:村の収穫祭 ※
今回は第三者視点となります。ご注意ください。
ミーメとヘルムスが王都で収穫祭を楽しんでいた頃。
「おおっ、よくぞお越しくださいました。『焔槍の魔術師』様、『凍えの魔女』様」
「歓迎ありがとうな。世話になる」
「よろしくお願いします」
ジャンとグレイシアの二人は、王都の周りに存在している農村の一つを訪れていた。
人口百人前後、住居を一カ所にまとめ、壁で囲い、その周囲に刈り入れの終わった畑が広がる、普通の農村である。
だが、二人の訪れに合わせて、今日は祭りであると、飾り付けがされ、祝いの日の為の料理が並べられていた。
「しかし、宮廷魔術師の方がお二人も来てくださるとは。それも、『村潰し』のドラゴンを狩った勇名を持たれる『焔槍の魔術師』様とは……王城には感謝してもしきれません」
「王都の民の胃を満たされているのは、お前たちの働きがあってこその物。だから、無下にする事なんてあり得ないってことだ。ただ……あー、『村潰し』の件は俺っちだけの功績じゃない。他の者たちも頑張ってくれたからだ。だから、村の者たちにも出来る事は頑張ってほしい」
「勿論です。村人一同、協力させていただきます。そもそも、これは我々の為にしていただく事なのですから。手を抜くなどあり得ません。準備も整っておりますので、ご安心を」
「そうか、ならよかった」
村での収穫祭が始まる。
女子供は特別な食事を楽しむと共に、歌や踊り、演奏を披露して、場を盛り上げる。
そんな女子供たちを前に、男たちは何処か緊張した様子を見せつつも、微笑む。
改めて述べるが、この村は普通の農村である。
普通の農村なので、当然ながら、畑よりさらに遠くには、魔物が生息する森が狩場として残されていた。
そして、秋と言う季節は、人にとっては収穫の季節であるが、魔物にとっても冬に備えて肥え太るための大切な時期である。
では、祭りのためと気を抜いている獲物が見えた時、魔物たちはどうするのだろうか?
当然、襲い掛かってくるのである。
それこそ、村を滅ぼさんとするかのような勢いで。
「さてグレイシア嬢。大丈夫か?」
「勿論、大丈夫でございます」
挨拶を終えたジャンとグレイシアは、村を囲う壁の上に立ち、刈り入れの終わった畑を見下ろす。
特別な食事の匂いか、陽気な演奏か、人間の魔力か、とにかく村の持つ何かに釣られて、次から次へと魔物が森から畑の中へと出てくる。
その姿はウサギ、猪、鹿、鳥、歩く花、歩くキノコ、狼、ネズミなど、実に様々であり、どれも森の恵みを口にして程よく肥えつつも、まだ食えると飢えてもいた。
魔物の総数は、百をはるかに超えていて、この村が保有する戦力だけで対処しようと思えば、村の総力を挙げて対処する必要があった事は間違いない。
「むしろ、グロリベス森林の深層を知っている為か、気を付けないと危機感を持てなくなりそうなぐらいでございます」
「あー、分かる。去年までなら、それなりに気張ってた覚えがあるんだが、今年はまるで怖くない」
だが、グレイシアもジャンも、村を囲う魔物たちを前にしても気負い一つなかった。
現れた魔物たちは数だけで、強いとは思えなかったからである。
奇襲が叶わないと判断した魔物たちが、一直線に村へと駆け始めても、その感想は変わらなかった。
そして、二人の感想は正しかった。
「ま、さっくり狩って、飯を楽しもうぜ。グレイシア嬢」
「同感でございます」
「「「ーーーーー~~~~~!?」」」
ジャンとグレイシアの手から、魔術による攻撃が放たれる。
火の槍の雨が降り注ぎ、逃げ惑う魔物の行く手を遮るように氷の逆茂木が生えてくる。
この攻撃に魔物たちが出来るのは、ただ逃げ惑う事だけだった。
「お前らぁ! 気合いを入れろぉ!!」
「「「ーーーーー~~~~~!」」」
「「「ーーーーー~~~~~!?」」」
そして、二人の攻撃が止むのに合わせるように、村の男たちが武器を手にして出陣。
弱った魔物たちを一匹一匹確実に仕留めていく。
また、ジャンとグレイシアの二人も、トドメを刺していく作業に参加して、狼や猪のように弱っていてもなお難敵である魔物や、最初の攻撃を運よくやり過ごした魔物を優先的に仕留めていく。
そうして、戦いは終わり、村の男たちは狩りの成果と共に村へと戻った。
仕留められたものの中でも特に大きな獲物はその場ですぐに解体され、焼かれ、食されて、村の収穫祭の賑わいは一層増すのであった。
「当たり前なんだが、グロリベス森林深層と比べて魔物が弱すぎるな。気を付けないと、折角の収穫祭なのに、素材としての価値まで無くしちまいそうだ」
「同意でございます。この場で狩った魔物たちは冬に向けて重要な食料であり、収入源でもあります。注意が必要でございますね」
なお、三度述べるが、この村は普通の農村である。
故に、収穫を終えた後に、敢えて隙を晒す事で魔物を釣り出して、逆に狩ってしまうと言う戦術もまた、普通の事であった。
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「グレイシア嬢。調子はどうだ?」
「問題ございません」
日が暮れた頃。
挨拶と歓待を一通り受けたジャンは、同じように一通り受けて疲れたからと喧騒から距離を取っていたグレイシアに近づく。
「しかし、よかったのですか?」
「よかったって何がだ?」
「今年の収穫祭は、わたくしと共に村を巡る事を選んだ事です。お邪魔になったりはしなかったでしょうか?」
「その事か」
ジャンはグレイシアの横に腰かけると、暗くなり、星が瞬き始めている空を見上げる。
対してグレイシアは祭りの中心をぼんやりと眺めている。
「良かったに決まっている。こんな簡単に仕事が終わった上に、俺っちは楽しく過ごせているんだから」
「ジャン様……」
「そう言うグレイシア嬢はどうなんだ?」
二人の視線が合う。
「わたくしは……誘って貰えて嬉しかったです。彼らの不安を解消できたのは嬉しかったですし、ジャン様もわたくしが出来る限り不安を感じないように動いてくださったのも感じていましたので」
「それは良かった。俺っちも頑張った甲斐があるってもんだ」
そして微笑み合う。
不安を感じる事もなく。
「ところで、ミーメ様とヘルムス様は今頃どうしているのでございましょうか……」
「どうしているだろうなぁ。まあ、王都で何か大事件が起きたなら、俺っちたちの所にも知らせが来るはずだから、普通に収穫祭を楽しんでいるとは思うが……」
「わたくしたちのように、でございますか?」
「そうだな。俺っちたちのように、だ」
二人は視線を村の中心の方へと向ける。
そこでは若い男女でペアになって、奏でられる音楽に合わせて踊っている姿が見えた。
貴族が行うような、洗練された社交ダンスではなく、決まりなど手を繋ぎ合う事と相手の足を踏まない事くらいしかない、素朴で、感情をそのまま発露したかのような踊りだった。
だが、とても嬉しそうで、楽しそうで、これ以上なく収穫祭と言う場に相応しい踊りだった。
「グレイシア嬢。折角だから、一曲お願いできるか?」
「勿論でございます」
そんな踊りを見て、ジャンとグレイシアも踊りたくなった。
だから二人は、村の者の目に留まらないように、二人だけでこっそりと楽しく踊った。
決まったステップなどない、即興の踊りであるのに、どうしてか動きが噛み合って、その事実に二人は思わず笑い合う。
「あー、グレイシア嬢。農村周りはもう何日かあるわけだが……」
「勿論、同行させていただきます」
「おう、ありがとうな」
その後、楽しい気分のままに二人は食事と酒を楽しみ、翌日には次の農村へと向かうのであった。
Q:農村です。スタンピードが怖いです。どうすればいいですか?
A:王城です。収穫祭に合わせて小規模スタンピードをワザと起こして、狩ってしまえばよいでしょう。戦力は貸してあげますので、安心してください。
と言うわけで、農村の収穫祭では、穀物も魔物も収穫します。
殺伐としていますが、開拓を是としている国らしくもありますね。




