307:画廊設置中
「ミーメ嬢。折角ですから、画廊の方を見に行きませんか?」
「はい、行ってみたいです」
王城内の担当者に大量の魔物を渡した後。
今日のワタシたちはこれで業務終了なのだが、ヘルムス様の言葉を受けて、収穫祭に向けて準備が進んでいる場所を見に行くことにした。
さて、今はどんな状況になっているのだろうか?
「此処が収穫祭で展示される美術品が飾られる場所ですね」
やって来た場所は王城の正門を抜けて、城内に入って割と直ぐの広間。
ワタシとヘルムス様は、準備の邪魔にならないように、作業を見学したいのなら此処に立ってくれと指定されている場所に立ち、そこから広間全体を見渡す。
舞踏会の会場として用いられる事のある広間だが、今は沢山の人が行き交い、話し合い、魔術も用いて準備を進めているようだ。
ちなみに、魔術の用いり方としては、光属性魔術で照明の魔道具をどう置くか、水属性魔術で設置予定の彫刻と同じ大きさの水を出す事で大きさを確認するとか、そう言うプレビューの為に用いているようだった。
「画廊に飾られる作品ですが、基本的には今年描かれた、あるいは彫られた作品になります」
「収穫祭、だからですか?」
「ええそうです。今年の実り、と言うわけですね。そして、収穫された以上は、お披露目をされた後に、手にしたいと願う者の手に渡るのが望ましいでしょう。と言うわけで、この画廊に飾られた美術品は、収穫祭終了後に希望者が購入する事が出来るようになっています」
「なるほど」
どうやら、この美術品の展示会は、即売会も兼ねているらしい。
きっと、王城も毎年新作を掻き集めていては、倉庫の容量が幾らあっても足りない、と言う事なのだろう。
でもたぶん、それでいいのだ。
王城なら見る目は確かだろうし、此処で作品が評価されればパトロンの一人や二人くらいは得られるかもしれない。
そうでなくとも、作品が良い値段で売れれば、それで命を繋げる芸術家だって居るはず。
うん、色んな意味で、ちょうどいい場所なのだろう。
「なので、ミーメ嬢も明日見に来た時に気に入った作品があれば、購入されてもいいかもしれません」
「そうですね。ちょっと真面目に考えてみたいと思います」
絵を飾る場所はある。
王城内のワタシの部屋でもいいし、ワタシの自宅に飾ってもいい。
ちなみに、この場での美術品の売買は競売形式で、基本的には一番高い値段を付けた人が買えるらしい。
基本的には、と付く辺りに、貴族だからこそのアレコレがあるんだろうなとも思うけれど。
なお、この話を聞いてまず思ったことは。
「ヘルムス様。ワタシが買いたいと思った作品が他のどなたかと取り合いになった時、トレガレー公爵家やヘルムス様が代わりに買うと言うのは控えてくださいね」
と言う物だった。
ワタシの言葉にヘルムス様は少しだけ目を逸らした辺り、たぶん釘を刺しておいたのは正解だったと思う。
「ミーメ嬢。心配しなくとも、そんな無粋な真似はしませんから、安心してください。ただ、トレガレー公爵家の目に留まった物があれば、その時は仮にミーメ嬢が気に入っていても、出来に相応しい額を付けますので、それは分かってくださいね」
「それは勿論です。トレガレー公爵家やヘルムス様にだって、欲しい作品があるのは当然の事ですから」
まあ、トレガレー公爵家と被ってしまった時は仕方がないと思って素直に諦めよう。
むしろ、その状況になったのなら、トレガレー公爵家の担当者さんの審美眼に敵う品をワタシも選べたと喜ぶべきかもしれない。
「それにしても……」
ワタシは一度会場を見渡す。
まだ作品は一つも会場には入っていない。
だが、何処にどの作品が置かれるのかは、既におおよそ決定しているのだろう。
素人目に見ても、目玉になるんだろうな、と言う扱いを受けている作品の置き場所が幾つかある。
「あそこには、いったいどのような作品が置かれるのでしょうか? 専属の警備の方まで置くつもりですよね?」
「あそこですか……少し待ってください」
その中でも、明らかに格別の扱いを受けているものが一カ所あった。
明らかに話し合っている人の数が多いし、専用の警備の方も付きそうだった。
だが、そんな扱いなのに、そこまで大きな絵でもなさそうだった。
どういう事なのだろうか?
ヘルムス様も気になったのだろう。
近くに居た侍女や文官の方に確認を取っている。
「確認してきました。あちらにはハンドレート・フォン・イアゴの新作が展示されるとの事です」
少し興奮した様子も見せるヘルムス様によれば。
ハンドレート・フォン・イアゴと言う方は、百年ほど前に没した王国の風景画家であるらしい。
当時の王国各地を練り歩いて描かれた彼の絵は、目の前の風景を切り取ったかのような写実的なもので非常に人気が高いのだとか。
ちなみに、特に人気があるのは、開拓予定地や開拓中の村を描いたものとの事。
自然や人々の生命力が、正に生きているかのようなのだとか。
しかし……。
「あの、ヘルムス様。百年前に亡くなった方の新作、なのですか?」
新作とは、新しく作られた作品を示す言葉である。
百年前に亡くなった人の新作となれば、それはつまり、これまで世に出てこなかった、何かしらの事情で埋もれていた作品と言う事になるのだろう。
だが、当時から人気だった画家の絵が、百年も埋没しているなどあり得るのだろうか?
それよりも、贋作、の方があり得るのではないだろうか?
「ミーメ嬢の仰りたい事は分かります。それは抱いて当然の懸念でしょう」
ワタシの懸念はヘルムス様にも伝わったのだろう。
神妙な顔で頷いている。
「当然ですが、王城も慎重に鑑定を行ったそうです。見つかるまでの経緯は勿論の事、筆の使い方、描かれているものの正当性、使われている顔料、ハンドレートの絵には魔力も含まれているので、そちらが一致するかの調査まで行われたそうです」
「流石は王城ですね」
「ええ。そして、そのいずれにおいても、ハンドレートの他の絵と一致したとの事で、それ故に新作と判断されたようです」
「なるほど」
つまり、何処にもおかしな点は無かったと言う事らしい。
うーん、じゃあ、本物なのか。
と言うか、素人であるワタシでもするような懸念を、王城の専門家の方々がしないわけ無かったか。
ちなみに、描かれている場所の特定などは出来ていないらしい。
百年以上前と、今の王国では、色々と違いがあるので、場所を明示するような何かが無ければ、特定する事は難しいのだろう。
「でもそうなると、当日の警備は大変なことになりそうですね」
「そうですね。私とミーメ嬢は三日目が王城内の警備担当になる日ですが、その日は注意しないといけないかもしれません」
ワタシとヘルムス様は苦笑する。
客としては、見て楽しむだけなのだけれど、守る側としては、人気があり過ぎる物は厄介である。
作品自体も、周りの人間も、他の作品も守らなければいけないので。
「そう言えばヘルムス様。宮廷魔術師長様は『アーティスト』の絵を手に入れたと言っていましたが、そちらについて今何処に?」
「そちらはまだ宮廷魔術師長が検査をしていたはずです。軽微ですが、見た者の精神を穏やかにする方向での精神干渉作用があるとかで、この画廊に出てくる事はないかと」
「ああ、それは確かに出せませんね」
「精神干渉ですからね。不特定多数の人間に見せる事は出来ません」
絵繋がりで質問をしつつ、ワタシとヘルムス様は広間を後にする。
収穫祭はもう間もなく。
さて、面倒事は何もなく、楽しいものになってくれると嬉しいのだけれど……どうなるだろうか?
ちなみに、ハンドレートの絵が描かれた当時に流行ったのは、絵と同じ角度で見えるように位置や角度が調整された窓の横に、ハンドレートの絵を飾ると言う物でした。
こんな森しかなかった場所を、こうなるまで開拓したんだぞ、と言うわけです。
開拓を推し進めている国らしい飾り方ですね。




