306:三属性魔術
「ーーーーー~~~~~!」
森の木々の間を縫うように姿を現したのは、水の塊に腰かけた水鳥の魔物だった。
目の色は藍色……水属性。
ワタシが見た事が無い魔物でもある。
水鳥が翼を広げて飛ばず、宙に浮かぶ水の塊に腰かけて移動しているのは、翼を広げたら2メートルを超える大きさとなり、森の中を自由に飛び回れないからだろう。
ただ、その姿は水のボートに乗って飛び回るヘルムス様のパクリでは? と思ってしまうぐらいには、ヘルムス様そっくりなものだった。
「ーーー~~~!」
「『アクアガレオン』」
そんな事はさておいて。
水鳥は水の弾を幾つも飛ばしてくる。
触れた木々の枝が折れているので、威力はそれなりにあると言っていい。
だが所詮は一属性魔術。
ヘルムス様が出した巨大な水の船は傷つける事も出来ない。
「ああ、これは必要ありませんね」
そして、その結果を見て、これならば常駐防御魔術だけでも足りると判断したのだろう。
ヘルムス様は折角出した水の船を消してしまうと、次の魔術に移行し始める。
「ーーーーー~~~~~!」
対する水鳥の方は馬鹿にされたと感じたのか、ヘルムス様に向かってさらに水の弾を飛ばすが……ヘルムス様の予測通り、常駐防御魔術だけで全て弾かれている。
だから、ヘルムス様は水鳥の攻撃を気にせず、杖を構え、魔術の構築を定め、それをより明確にするために詠唱を始める。
「水よ。魔力よ。混ざりて船を為せ。船よ。矢が如く空を駆けて、我が敵を射抜け。『アクアボートバレット』」
ヘルムス様の杖の周りに、水の球と魔力の球が現れる。
二つの球は空中でかき混ぜられると、ヘルムス様が普段使う物よりも明らかに威圧感や存在感とでも言うべきものが濃い、手のひら大の小舟に変形。
それは弓に番えられた矢のように力を貯めると、ヘルムス様の意に応じて飛び出す。
「ー~!?」
「っ!?」
水鳥の魔物はヘルムス様の攻撃を咄嗟に飛び立つ事で避けようとした。
だが、それよりも早く、船が着弾。水鳥の頭は貫かれ、それでも船は止まらず、背後にあった木を幹の中でカーブしつつ貫通したところで停止、霧散した。
うん、戦闘終了だ。
「お見事です。ヘルムス様」
「ありがとうございます。ミーメ嬢」
ワタシは闇人間に命じて、水鳥の死体を回収させる。
うん、首から上が完全に吹っ飛んでいる。
とりあえず、この場でしておくべき処理はしておこう。
そして、ヘルムス様の表情だが、嬉しそうではあるものの、困ったと言う感情も入り混じった、何とも言い難いものだった。
まあ、そんな表情になる理由は分かる。
「想定以上でしたか?」
「想定以上でしたね。途中で軌道を上手く調整して、水鳥の首だけを折るつもりだったのですが……私の想定以上に速く、曲がらず、曲がったと思ったら曲がり過ぎて、何より威力が桁違いでした」
ヘルムス様は今放った『アクアボートバレット』を制御しきれなかったのだ。
これは、優れた魔術師であると言う自認があるほど、恥ずかしさを感じる物だろう。
だが、ワタシに言わせてもらうのならば。
「三属性魔術ですからね。二属性魔術のおおよそ七倍の出力は伊達でも何でもないと言う事です」
一属性魔術と比較した場合、二属性魔術の出力は4倍、三属性魔術の出力は27倍になる。
この出力が上がると言う現象は、防御用の魔術ならば単純に堅くなるだけで大した問題にならないのだけど、攻撃用の魔術の場合、硬度だけでなく速度などまで強化されてしまう。
そして、この強化は制御周りにも及び、加速、減速、曲がりも七倍利いてしまうようになるのだ。
結果、これまでと同じように制御しようとすると、まるで制御できていないような挙動になってしまうのである。
この辺りは、知識としては知っていても、実際に経験してみないと分かりづらい部分だろう。
「ええ、身に沁みました。ですが、今ここで知れてよかったとも思います。もしも、この出力上昇の感覚を知らずに、人間の犯罪者を捕らえるような場面で、これまでと同じように魔術を使っていたらと思うと……ぞっとしますね」
「そうですね。知らずに使っていたら、酷い事になっていたと思います」
ヘルムス様の対人捕縛魔術と言うと、水の網……『アクアネット』か、水の縄……『アクアホーサー』か、水飴の水夫……『スターチセーラー』あたりか。
うん、『スターチセーラー』はまだしも、『アクアネット』や『アクアホーサー』の速さや硬さがおおよそ七倍になったら、相手の力量が十分でなければ、大惨事待ったなしだろう。
特に『アクアホーサー』は元のイメージ的にも、大惨事になり易い気配がある。
船の係留索にはかなりの力が掛かっていて、破断した際にはとんでもない力が放たれると、前世知識にあった気がするので。
「同時に、ミーメ嬢がどれだけ偉大なのかも改めて理解しました。四属性魔術になれば、これどころではないのでしょう? なのにミーメ嬢は日常生活に用いる事が出来るほどに四属性魔術を使いこなしている。これは本当に凄い事だと思うのです」
「お褒めの言葉ありがとうございます、ヘルムス様。気づいてもらえると嬉しいですね」
実際、ワタシはかなりを気を使っている。
非戦闘時に運用する闇人間とか、実はああ見えて安全対策の塊になっているし、最高速を考えると、普段はかなりゆっくりと動かしている感覚になるのだ。
まあ、今となっては、だいぶ慣れてしまったので、半分無意識に出来る事だけれど。
ちなみに、これは恥ずかしいので言わない事だが。
トリニティアイになった直後の一時期は、魔術の威力が高くなり過ぎて、普段の狩猟が大変になった事がある。
首を刎ねるつもりで、上半身を消し飛ばしてしまったら、売り物にも食べる物にもならなくなってしまうので、あの頃はちょっと大変だった。
「それでミーメ嬢。参考までにお聞きしたいのですが、一体どのようにして、それほどの制御を?」
「基本は慣れですね。地道に研鑽を積むしかありません。早急かつ分かり易い対処をするならば、魔術に込める魔力をおおよそ七分の一にする事ですが……七分の一は正直に言って分かりづらいので、八分の一か六分の一くらいにするのがオススメですね」
「なるほど。そうして制御を覚え。それから、少しずつ込める魔力を増やしていくことで、慣らしていくわけですか」
「そう言う事です」
とりあえず、求められたからには、直ぐに出来る制御策をヘルムス様に教えておく。
制御不能状態にならないに越したことはないので。
「やはり先は長そうですね」
「そうですね。長いと思います。そして、制御をしくじった時の為にも、やはり最初は常駐防御魔術を修めるべきです」
「……。そうですね。常駐防御をしっかりと張っておけば、少なくとも自分に魔術が向かってきた時に耐える事は出来るようになるはず。そう考えたら、必須ですね」
そして、優先するべきは攻撃よりも防御であるとも教えておく。
実際、相手がドラゴンでもなければ、二属性魔術でも攻撃面は十分な場合が殆どなのだ。
だったら、まずは制御不能になる可能性が低く、なっても困らず、他の魔術が制御不能になった時の命綱を優先した方が良い。
自分の魔術に巻き込まれて死ぬなんて、恥ずかしいどころではないので。
「それではヘルムス様。獲物は十分ですし、魔力属性の研鑽も出来ましたから、王城に戻りましょうか」
「そうですね。今日の所は此処までにしておきましょうか。また時間があれば、よろしくお願いします。ミーメ嬢」
「はい、喜んで」
グロリベス森林深層でやるべき事を終えたワタシとヘルムス様は王城へと移動。
王城の担当者に、歓声を以って迎えられたのだった。
Q:実際、ミーメの魔術精度ってどれぐらい凄いの?
A:少なくとも、普通の魔術師の300倍くらいの精度で制御できてる。
普通の魔術師が30ミリ単位で制御しているところで、0.1ミリ単位で動かしてくるような感じ。3話とか、それが地味に出てます。
09/28誤字訂正




