305:収穫祭準備 森の中にて
「ーーーーー~~~~~!?」
「これで良し」
ワタシの前で闇人間によって仕留められたランファンボアが倒れる。
これで本日三頭目である。
うん、秋の実りをよく食べていて、冬に備えて丸々と太りつつも筋肉も増した、良いランファンボアである。
「ヘルムス様。また一頭仕留めましたので、収納お願いします」
「分かりましたミーメ嬢。船倉にどうぞ」
「はい」
ワタシはヘルムス様が出している、水で出来たガレオン船の船倉へ、最低限の処理を終えたランファンボアを抱えた闇人間を向かわせる。
これで、今からもう一つの用事を果たし、王城に持ち帰るまで肉が傷む事は無いだろう。
「……」
「すぅ……ふぅ……」
さて、収穫祭における宮廷魔術師の振り分けが決まってから、更にまた数日ほど経った。
収穫祭はもう間近と言ってもいい頃合いであり、準備も本格化、大型の設置物の土台も組まれ始めたくらいである。
そんな中、ワタシとヘルムス様はグロリベス森林の深層を二人で訪れていた。
王城の料理を管理している人からの依頼で、どんな魔物でもいいから、グロリベス森林の深層の魔物を大量に確保してほしいとの事だった。
なんでも、収穫祭の期間中に王城で開かれる晩餐会の類で、グロリベス森林深層の魔物肉を使いたいそうなのだ。
ワタシはこれを快諾。
荷物の運搬要員としてヘルムス様を連れてやって来て、既に大量の魔物を狩り、目的を達成したのが現状となる。
ちなみに、境界拠点で様々な魔物が狩られ、王城に送られたおかげか、王城の料理人たちは、よほどのハズレでない限りは、どの魔物でも美味しく調理できるようになったらしい。
狩った人間かつ宮廷魔術師の特権として、三日目の王城内警備の時は朝から晩まで魔物料理を食べられるとの事で、今から楽しみではある。
「ヘルムス様。調子はどうですか?」
さて、此処までは表向きの話である。
依頼があったのは事実であり、ヘルムス様を運搬要員として連れ出したのも事実だが、今日この場にヘルムス様と共に来たのは、他にも理由がある。
「やはり魔力属性の扱いは難しいですね。生成、操作、変形、強化、付与まではそれなりに出来るようにはなりましたが」
そう、ヘルムス様の魔力属性の研鑽のためである。
ワタシは現状、魔力属性については、自力で気づいたヘルムス様以外には隠していて、これにはヘルムス様も賛同している。
だが、秘匿している以上は、どうしても研鑽できる場所や時間が限られてしまうし、証拠を残さないように気を付けないといけないし、周囲の安全にも気を使う必要があった。
そして、それが研鑽の進みを遅らせる事は間違いなかった。
だから、今日の依頼は非常に都合が良かった。
なにせ、グロリベス森林の深層には滅多に人が立ち入らず、多少加減を間違えても問題が無い環境なので。
なんなら、出来上がった魔術を合法的に撃ち込む相手と目的まで用意されているぐらいである。
と言うわけで、狩猟についてはワタシ一人で早々に終えてしまい、ヘルムス様には魔力属性の研鑽を優先させていたのが、正しい現状となる。
「ただ……」
「ただ?」
「周囲に存在している魔力が濃いからでしょうか? 森の外よりも、魔力属性の扱いがしやすいように感じますね」
「なるほど」
ヘルムス様はそう言うと、純粋な魔力の球を浮かべて、手のひら大の船の形に変形。自分の体の周りを周回させるように飛ばして見せる。
その動きは、確かに森の外よりも若干だがいいように思える。
「そう言う事ならば、今後は定期的にヘルムス様を連れてグロリベス森林深層に来るのも手かもしれませんね」
「それは私としては嬉しい事ですが……グレイシア嬢が嫌がったりはしませんか?」
「そこはジャン様がどうにかしてくれると信じましょう。理想で言えば、グレイシア様もジャン様も魔力属性に気づいてくれて、四人揃って来れるようになる事ですが」
「それはそれで、過剰戦力と言われて、来るのが難しくなりそうな気もしますが……。まあ、こう言う話は、本当にそうなってから考えればいい話ですね」
ヘルムス様はワタシと会話しつつ、更に数個、魔力の球と水の球を出現させて、それぞれ別に動かす。
だが、流石に集中が途切れたのか、魔力属性の扱いがまだ不慣れであるためか、幾つかの球が空中衝突して弾けてしまう。
その光景にヘルムス様は少しだけ悔しそうな顔をするが……ワタシとしては、流石のヘルムス様と言えども、やはりまだまだ時間はかかりそうだ。と言う具合で、ちょっと安心したくらいである。
「と、そうでした。ミーメ嬢、見ての通り、私の魔力属性の扱いはまだまだです。しかし、常駐防御魔術の一つに魔力属性を組み込む事には成功しました」
「!? 早いですね」
前言撤回。
やはりヘルムス様は優秀だった。
いやうん、元々の研鑽もあったとは言え、ワタシが一週間教えただけで宮廷魔術師になれてしまうだけの才能と実力があるのがヘルムス様だから、これくらいは出来て当然と本人は思うのかもしれないが……ワタシとしては、驚かされる範疇である。
ただまあ、それなら……。
「自身の安全に直結しますし、特別な理由がなくともグロリベス森林の深層に連れて行ってもらうためには必要な事でしたから。それに、組み込んだと言っても、だいぶ簡易的な組み込み方です。いずれはきちんと構築し直す必要があるでしょ……っ!?」
ヘルムス様の背後に突如現れた無手の闇人間が、ヘルムス様の腰の辺りを全力で殴打する。
その衝撃にヘルムス様は一瞬息を詰まらせるが、それだけだ。傷は一切ない。
むしろ、殴った闇人間の方が、想定以上に堅いものを殴った事で、肘から先が砕けてしまっているくらいである。
なるほど、詳しい理論までは分からないが、確かに『水』『船』『魔力』の三属性で常駐防御が出来ているようだ。
ワタシが今使ったのは、『闇』『人間』『魔力』の三属性魔術なので。
「ミーメ嬢。やるなら、一言欲しかったのですが」
「常駐防御魔術の強度を調べるのに、先に一言述べてしまったら、備える事が出来てしまい、ちゃんと調べられないですよ」
「まあ、それはそうなのですが」
不意打ちだったこともあり、流石にヘルムス様が不満そうな顔をしている。
不満そうなだけで、嫌がっていたり、怒っていたりは一切していないのだけど。
「それでどうでしたか?」
「大丈夫です。ちゃんと三属性の常駐防御魔術になっています。これならば、クラウンベアに不意を突かれて、頭に全力の一撃を受けても無傷で耐えられると思いますよ」
「そうですか。ならば、油断し過ぎたり、ドラゴンのような規格外が相手でなければ、グロリベス森林深層でも大丈夫そうですね」
ヘルムス様が安心しつつも嬉しがる様子を見せる。
たぶんだが、ヘルムス様が常駐防御魔術の強化を優先し、クラウンベアの一撃でも大丈夫な強度を求めたのは、以前……春のお披露目会でワタシが見せた、防御を受けての事であろう。
それが実現できたので、ヘルムス様としては嬉しいのだろう。
うん、ワタシとしても、ヘルムス様が今までより安全になったのは嬉しい事である。
それはそれとして。
「物理的な防御だけでは足りないのが、グロリベス森林の深層と言う魔境でもありますけどね」
ワタシは手近な木の根元に生えていたキノコを闇人間に採らせて、ヘルムス様に見せる。
真っ赤な傘を持つ、明らかに危険な見た目のキノコだ。
「ミーメ嬢。そのキノコは?」
「毒キノコですね。キノコ本体または胞子に触れただけでも、触れた部位の皮膚が爛れるようなヤバいものです。しかも、胞子の拡散や根付きに魔術を用いているらしく、弱った魔物が時々苗床になっているくらいには凶暴な魔物ですね」
「……。なるほど。体の内側も防御できるように。と言う事ですか」
「はい。いずれは、ですが」
「覚えておきます」
ヘルムス様の顔が引き攣っている。
うん、どうやら体内の防御はまだまだであるらしい。
ワタシはそれを確信すると、闇人間に干渉してキノコを原子レベルで分解、無害化してしまう。
このキノコは何かに使うには、ちょっと凶暴過ぎるのだ。
それと、常駐防御魔術の改良については、毒物は物理的な物も魔術的な物もあるし、呪いの対処もあるので、ヘルムス様には是非頑張ってほしい所である。
強固な守りを常時張れるようになっておいて、損になる事はないはずなので。
「ーーーーー~~~~~!」
「何か来ますね」
「そのようですね。ミーメ嬢、折角なので、私が相手をしても? 攻撃に魔力属性を混ぜる事も試してみたいので」
「分かりました。見守ってます」
何かの鳴き声が聞こえ、ワタシもヘルムス様も、音がした方を向くと共に、ヘルムス様が一歩前に出て、杖を構える。
うん、今のヘルムス様なら、常駐防御魔術だけでも大抵の魔物の攻撃を受け付けないはずなので、ゆっくりと試してみればいいと思う。
ワタシは腕を組んで、ヘルムス様の戦いを見守る事にした。
Q:ヘルムスの常駐防御魔術ってどんな物?
A:自分の体を『船』と定義し、体内の『水』と『魔力』に干渉。混ぜ合わせて、外部から船体を傷つけようとしても水と魔力が瞬間硬化して防御と受け流しをします。
なお、船なので、衝撃波のような、体に対して範囲が大きい攻撃に対しては、波に乗るような形となり、受ける衝撃を大幅に軽減する模様。
ヘルムスの魔力量もあって、かなり堅いです。
さて少し宣伝も。
トリニティアイⅡ -転生平民魔術師の王城勤務-
オーバーラップノベルス様より、11月に発売でございます。
第二巻でございます。




