304:収穫祭の振り分け
秋に入って数週間ほど経った。
王都では、直に収穫祭と言う事で、平民も貴族も何処かソワソワとしている。
楽しみで楽しみで仕方がないと言う雰囲気だ。
身近な変化としては、食事が普段より少しだけ美味しくなっている。
きっと色んな物が旬を迎えたり、収穫祭で出す料理の試作として創意工夫が凝らされているからだろう。
「さて、ミーメ嬢、ジャン、グレイシア嬢。宮廷魔術師長から連絡がありました。本決定だそうです」
「はい」
「ようやくか」
「どうなりましたかね?」
勿論、ワタシたちも何もせず過ごしていたわけではない。
この数週間、ワタシはヘルムス様と一緒に書類を提出したり、話し合いに参加したり、準備するべき物を準備したりと、まあ、色々とやっていたのだ。
それはジャン様とグレイシア様も同じことだろう。
そして、その中には収穫祭で宮廷魔術師が何をするのかの調整もあった。
どうやら、その調整がようやく終わったらしい。
「では、宮廷魔術師として収穫祭に参加するのは初めてであるミーメ嬢の為にも、全体の説明もしつつ発表していきましょう」
「お願いします。ヘルムス様」
ワタシたちはヘルムス様に視線を向ける。
なお、此処は何時ものようにワタシの部屋で、侍女の方によるお茶と茶菓子は万全の状態である。
なので、水分と甘い物をしっかりと摂りつつ、話を聞く事にしよう。
「収穫祭における宮廷魔術師の役目ですが、基本的には自分の研究成果や制作物を発表するか、戦力として警備任務にあたるかのどちらかになります。ただし、発表については、行うかは任意です」
「はい」
これは少し前にも聞いた覚えがある。
宮廷魔術師長様の許可が必要で、ワタシの魔術周りの諸々はまだ表に出せない物なので、これから先数年は見るだけの側になる事だろう。
「この場に居る中では……グレイシア嬢は研究成果を出す。そうでしたね」
「その通りでございます。ただ、わたくしの研究成果については、実物を展示するだけで、細かい部分の説明は魔道具職人または文官の方が行いますので、収穫祭当日にわたくしが研究周りでする事はございません」
「なるほど。当日は見に行きたいですね」
「気に入っていただければ幸いでございます」
ちなみに、研究成果や制作物、なので、美術品の類を出す宮廷魔術師の方も少なくないらしい。
と言うか、『硝子の魔術師』様などは、ガラスの彫像を毎年出していて、人気を博しているとの事。
「続けて警備任務についてですが。王都で行われる収穫祭を警備する者と、同時期に王都周辺の村や街で行われる収穫祭に赴き、そこで警備と言う名の協力をする者に分かれて動く事になります」
話は変わって警備について。
王都周辺の村や街と言うのは、グロリアブレイド王家の領地内に存在している村や街の事である。
当たり前の話だが、王都の食糧生産能力では王都に住む人間の胃を満たし続ける事は出来ないため、郊外に麦や野菜、乳牛や鶏を育てる村が存在しているのだ。
何なら、これらの村があってもなお足りないからこそ、グレンストア公爵領などの領地から食料を輸入しているのが、王都と言う都市である。
そして、村が存在しているなら……何なら、収穫祭が実りを祈る祭りである事を考えれば、これらの村々でも収穫祭を行うのは当然の事と言えた。
「確か、王都周辺の村や街に宮廷魔術師を派遣する事で、いざと言う時でも大丈夫だと安心してもらう。その為の派遣。でしたよね。ヘルムス様」
「その通りですミーメ嬢」
と言うわけで、祭り中、どうしても緩む村の警備を担うために、宮廷魔術師あるいは騎士や魔術師を何組か派遣するらしい。
何なら、敢えて魔物を招き寄せて、宮廷魔術師の力を借りて狩ってしまう村もあるようだ。
なお、収穫祭の時期は魔物も活発化するし、幾つもの村や街を回る都合上、一週間ちょっとかかるとの事で、結構大変な仕事になるそうだ。
「そしてジャン、グレイシア嬢。二人には、一緒に村々を回って欲しいらしい。これが行程表だ」
「分かった」
「了解でございます」
「頑張って。そして気を付けてくださいね。二人とも」
「おう。ついでに楽しんでくる」
「はい、勿論でございます。楽しむのは……まあ、程々でございますね」
その大変な仕事に、ジャン様とグレイシア様はペアで向かう事になるようだ。
とは言え、二人が一緒に収穫祭を回るのは、しばらく前にジャン様がグレイシア様に対してした告白まがいのそれが叶ったとも言える事なので、望むところと言う物だろう。
ワタシとしては、これを機に二人が仲良くなってくれれば嬉しいな、と言う所だろうか。
勿論、安全第一、怪我無く戻ってくる事が大前提だけれど。
「私とミーメ嬢については、王都内の警備です。具体的には、一日目は休み、二日目は王都の警備、三日目は王城内の警備を担当する事になります」
「はい。頑張らせていただきます」
王都内の警備は、収穫祭が三日三晩に渡って行われると言う事で、日にちごとに担当の場所が決められる形になっているらしい。
収穫祭では、外からの人がたくさん入ってくるし、お酒も入って、様々な犯罪が起きやすい、ジャン様たちほどではなくとも、警戒は必要だろう。
そう思って、ワタシは元気よく返事をした。
のだけれど……。
「あー、ミーメ嬢。そこまで気合いを入れなくても大丈夫だぞ」
「そうなんですか? ジャン様」
「ああ。収穫祭の間に、宮廷魔術師が出ないといけないような事件が起きる事なんて滅多にないから、安心していい」
ジャン様に落ち着けと言われてしまった。
ワタシは念のためにヘルムス様とグレイシア様にも視線を向けるが、二人もジャン様に同意するように頷く。
詳しく窺ってみれば。
収穫祭の最中は、確かに犯罪の発生率が上がる。
だが、増えるのは窃盗や喧嘩が殆どであって、宮廷魔術師が出ないといけないような大規模、厄介、危険な事件……具体的には、殺人や集団強盗の類は逆に減る傾向にあるのだとか。
考えてみれば当然のことで、祭りが近づいて警戒心が高まっている中で、その手の計画的に行うべき犯罪を行うのは、失敗のリスクがむやみに高まる中での行為になる。
そして、仮に本当にその手の犯罪が行われたとなれば、それは警備を担当する兵士、騎士、魔術師、引いては国王の面目を潰す行為となるため、全力の捜査が行われる事となり、色々と容赦が無いものになる。
相手を何処かの貴族の家に限ったとしても、揉め事を起こされた家の面目が潰された事に変わりはなく、やはり対処は苛烈極まるものになる。
なので、真っ当……と言うのもおかしいが、リスク管理が多少なりとも出来る犯罪者なら、収穫祭での犯罪行為、もっと言えば、揉め事は出来る限り避けるのだとか。
「そう言うわけですのでミーメ嬢。もしかしたら、私とミーメ嬢は、私がトレガレー公爵家の王都駐在官代理として動く時間がある一日目こそが、一番忙しくなるかもしれません」
「なるほど……」
ワタシはヘルムス様の言葉に頷きつつも、これまでに参加した収穫祭を思い出す。
うん、言われてみれば、酒を沢山飲んだ大人同士の殴り合いとか、屋台から物やお金が盗まれたとか、誰それが迷子になったとか、そう言うトラブルは聞いた事があっても、殺し云々や十数人集まっての強盗とかは聞いた事も見た事もないかもしれない。
「もしかして、案外暇になりそうな感じですか?」
「そうなる可能性もあります。油断は出来ませんが」
「まあ、仕事に支障を来さない程度に収穫祭を楽しめばいいんじゃないか? 俺っちは例年そうしてきた」
「わたくしも同様でございますので、余力を残しつつ楽しんでください。ミーメ様」
もしかしたら、ワタシが宮廷魔術師一年目と言う事で、色々と気を使ってもらったのかもしれない。
かもしれないが……まあ、そう言う事なら、気を抜かない程度に楽しむのが、周りにとっても、一番いいのかもしれない。
「さて、収穫祭までもう少しです。それぞれにするべき準備をして、万全の態勢で迎えられるように頑張りましょうか」
「分かりました。ヘルムス様」
「だな」
「了解でございます」
ヘルムス様のまとめる声に、ワタシたちは元気よく返事をした。




