303:『八顕現』レポート
「えーと……」
話に区切りがついたところで、ワタシは宮廷魔術師長様から届けられた資料に目を通し始める。
「へぇ。ウコバクさんとヴォヴァルさんが第二属性に目覚めたんですね」
「ええ、そのようです」
「ん? そうなのか?」
「めでたい事でございますね」
ワタシの言葉にヘルムス様たちが反応を示す中で、ワタシはしっかりと資料を読み込んでいく。
資料の始めの方に書かれていたのは、宮廷魔術師長様の息子であり、『八顕現』を学ぶ対象に選ばれていたウコバクさんとヴォヴァルさんが第二属性に目覚めたと言う連絡と、目覚めた事に対するウインスキー一家全員からの礼の言葉だった。
どうやら、役に立てたようで何よりである。
そして、その後には、どのような第二属性に目覚めたのか、目覚めた時点でどれぐらいの知識を有しているのか、『八顕現』の研鑽ではどのような事をしていたのかと言った、普通ならば絶対に表には出てこない情報が書き記されていた。
「ヘルムス様。こんなに表に出してしまっていいのですか?」
「この部屋の中に限っては構わない。だそうです」
「つまり、取り扱いには細心の注意を払うように。と言う事ですね」
「そうとも言います。ミーメ嬢に感謝しているからこその情報ではありますので、わざわざ言う事ではありませんが、気を付けてください」
「はい」
これらの情報は、どうすれば第二属性を得られるのか、第二属性を得た事で何が出来るのか、と言う話に直結する情報である。
なので、『八顕現』を知らない人間には当然渡せないし、ウインスキー一家と仲が悪い人間には絶対に見せられない物になる。
読み終わったら、この部屋にあるワタシ特製対人間特化の不可視金庫に入れておくか、焼却処分にしてしまうべきだろう。
「ああ、他の人たちの情報もあるんですね」
「はい。三か月ほど経ったので、第一次報告との事です」
次の資料には、見知らぬ人の名前と、どのような人物なのかと、『八顕現』の知識を得た所感、本人の感覚に基づく現在の進捗状況について書かれている。
なお、同じような資料が何枚かあるのだが、王国全体のパワーバランスを考慮したのか、トレガレー公爵領、アイアマイン公爵領、グレンストア公爵領と言う公爵領でも、原則一人にしか『八顕現』は教えていないようだ。
後、海を知らない人間が『海』と言う属性を得る事は無い。と言う目覚める第二属性の選定ルールを考えてか、一番年下でも十六歳になっている。
「あー……」
「そちらについては、冗談のような物なので、流していいと思います」
「ですね。流します」
ちなみに、先日の貴族院での特別講義で話した、魔術に対する考え方や扱い方をまとめた八つの基礎。
アレについても、この資料に載っている人たちは最近になって教えられたのだが、そちらの感想については、『そんな物があるなら、最初に教えて欲しかったです』と言う感じの感想が大部分を占めている。
うんまあ、文句を言いたい気持ちは分かる。
でもアレは、特別講義に合わせて、ワタシの考え方を改めて整理した物なので、『八顕現』について話した時点では完成していなかった。
なので、諦めて下さい。と言う所である。
「うーん、まあ、こっちの人たちが何時目覚めるかは、人それぞれな感じになりそうですね」
「そうですね。個々人のやる気、才能、かけられる時間に差がありますので、目覚めるまでにかかる時間が別になるのは仕方が無い事かと」
とりあえず、誰も彼も道は示されているので、後は地道に進めば何とかなりそうだ、と言う思いは抱いてもらえているようだ。
なら後は、待つしか無いだろう。
魔術の研鑽は一日にして為らずである。
「む……」
「どうかされましたか? ミーメ嬢」
「宮廷魔術師長様から、要望があるなら書いて欲しいと書かれていました」
「なるほど。では、ミーメ嬢の好きなようにすれば良いと思います」
資料の末尾には、今後についての宮廷魔術師長様の予測と、それに対してワタシがどう思うかやどうしたいかについて尋ねる部分があった。
まあ、基本的には王国にお任せします。と言うスタンスをワタシは貫く予定である。
第二属性持ちが増える=宮廷魔術師が増える、からの、では管理をどうするのか、と言う問題で、下手に要望を出そうものならば、王国への反意を疑われる事は無くても、じゃあワタシに管理させよう、ぐらいの面倒事は起きそうな気がするので。
そんな面倒事に巻き込まれるくらいなら、ワタシは自分の魔術の研鑽を進めたいし、ヘルムス様の『魔力』属性の研鑽を監督したいし、その他好きな事をやりたい。
ただ、ワタシの『八顕現』に基づいて研鑽を進め、第二属性に目覚めた人と、自力で第二属性に目覚めた人で取り扱いに差をつけるのであれば、両者間に有意差が認められてからにして欲しい。と言う要望だけは念のために出しておいた。
ワタシの教えが無ければ第二属性に目覚めなかったと蔑まされるのも、理論ではなく感覚で詰めただけだと罵られるのも、過程に差があるからと対立されるのも、面倒でしかないので、これは必要な要望だ。
実際に何か差があるのならばともかく、そうでないなら、こんな事で揉めるなんて、下らないにも程がある。
と言うか、そんな下らない事で研鑽の手を止めて、王国に不利益をもたらす人物が居たら、ペスティア様よろしく、ワタシは殴った上で脅す事だろう。
「書けました。ヘルムス様」
「そうですね。後で侍女か文官に頼み、届けてもらいましょう」
ワタシはヘルムス様に内容が大丈夫か確かめて貰ってから、提出物をまとめてある場所に意見書を置く。
「しかし、ウコバクさんも宮廷魔術師か。うーん、これから一気に宮廷魔術師が増えそうだな。そうは思わないか? ヘルムス、グレイシア嬢、ミーメ嬢」
「そうだな。これは私の勘に近い物だが、五年以内に王国に所属する宮廷魔術師の数が倍になったとしても、おかしくはないと思う」
「そうなると、宮廷魔術師の制度そのものにも手が加わりそうでございますね。人数が倍になっても、予算が倍になるわけではございませんので」
「あー、それはありそうですね……。そうなると、自力で稼ぐ必要もありそうですね」
ジャン様の言葉にワタシたちは返事をする。
いやでも、実際にどうするのだろうか?
ヘルムス様の言う通り、宮廷魔術師の数が一気に倍になったら、個々人に与えられている予算や給料についての見直しは必須だろう。
基本的な部分を減らして、代わりに役職手当のようなものが付くようになるのだろうか?
まあ、いずれにしても、ワタシはいざとなれば自力で素材もお金も確保できてしまうから、ワタシにとっては大きな問題にはならないと思うが。
そして、この問題の解決は国王陛下たちがするべき事なので、ワタシたちは、よほどおかしなことを言われない限りは粛々と従うのみだろう。
「給与も気になる所ではありますが。そうして制度に手が加わった時に、私たちがまず気にする事があるとすれば、ノスタのような、第二属性を生かした犯罪行為が行われる事が増える事、のような気もしますね。第二属性持ちが増え、制度に手が入るならば、そこから零れ落ちた者が出る事は考慮するべきでしょう」
「そっちはまあ、あるだろうな。なんなら、第二属性を得られるまで猫被ってる奴だって居ない訳じゃないだろうし」
「遺憾ながら、同意でございます」
「そうですね。こればかりは、居ると思います。対策でも考えておきましょうか」
第二属性持ちの犯罪者か……。
正式に対峙するとなれば、それこそノスタ以来になるけれど……出力差で押し切るわけにはいかない状況になる事も考えて、何か考えておいてもいいのかもしれない。
こんな会話をしている間にも時間は過ぎて、この日の業務時間は終わりになったのだった。
「ああでも、そうだな。宮廷魔術師が増えて、俺っちたちが今日やったような雑務をしなくて済むようになったら、それはすごくいい事だと思う」
「それには全面的に同意します。ジャン様」
「わたくしも同感でございます」
「まあ、より適性にそって振り分ける事が出来るのは、悪い事ではないか」
なお、本日一番の盛り上がりは、雑務をしなくて済むようになったら嬉しいと言う物であり、ヘルムス様は苦笑していたが、ワタシとグレイシア様は揃って頷いていた。




