302:収穫祭で何してる?
「そう言えばミーメ嬢。去年までのミーメ嬢は収穫祭の頃は何をしていたんだ?」
「収穫祭の頃ですか?」
不意にジャン様が話を振ってきた。
ヘルムス様とグレイシア様も気になっているようだし、隠すような事でもないので、ワタシは去年までの自分の行動を思い返し、話す事にする。
「そうですね……。個人的には準備期間が美味しかった覚えがありますね」
「準備期間が?」
「はい。肉、骨、毛皮、内臓、この時期は普段ならば買い手が付かないような魔物素材も良く売れて、稼ぎ処ではありました。おまけに魔物自体が活発に動くので、他の季節よりも獲れる量がそもそも多いと言うおまけつきです」
「なるほどな。でも、ミーメ嬢が狩ってくる魔物なら、元からだいたい何でも売れるような気がするんだが……」
「案外そうでもないですよ。極稀ではありますが、貴重な魔物だと、売買の価格が高くなり過ぎて、逆に売れない場合もありますので。安定して売れるのは、やっぱりランファンボアやモスディアと言った魔物です」
「ふうん。狩人も大変なんだな」
収穫祭では、三日三晩に渡って、王都全体がお祭り騒ぎになる。
必然、この期間に消費される食べ物の量も大量になるため、準備期間には大量の食糧をかき集める必要がある。
しかし、冬備えも並行して進む時期であるために、食料全体の需要が大幅に増加するのが、収穫祭の時期でもある。
となれば、少しでも集めようと、より多くのお金を出す人間も居て……結果として、ワタシのように優れた狩人にとっては、正に稼ぎ時になるのだ。
まあ、今年はグロリベス森林の境界拠点があるので、狩猟の成果物については、去年まで程の稼ぎ時にはならないだろうけど。
「それで当日の方は?」
「当日は収穫祭でしか食べられない物を取り扱っている屋台を中心に見て回っていましたね」
平民視点、収穫祭は一部の商人にとっては稼ぎ処だが、楽しむ側の平民にとっては、今年一年の収穫を祝い、疲れを労い、日々の鬱憤をお祭り騒ぎで晴らす場である。
当日は大きな通りや広場、場合によってはスラム街にかなり近い位置まで屋台が並び、お祭り価格になった品々が並ぶことになる。
なおこれは余談となるが、平民の中でも中層でも下よりの人間からは、収穫祭の数日前には、収穫祭中に食べる物は基本的に家の中に備えておく。
普通のパンまで値上がりしてしまうので、そうしてお金を節約しておくのだ。
「……。そう言えば、収穫祭の時期にしか出てこない、秘伝のタレを使った焼肉串の屋台とか、地方から運ばれてきた果実の果汁を垂らした珍しい果実水とか、珍しい薬草が練り込まれたパンとか、大道芸人による魔術も使った芸とか、色々と覚えがありますね……」
「へー、ミーメ嬢が美味しいと言う焼肉串か……ちょっと気になるな」
「果実水は地方特産の果実でございますね。恐らくは」
「魔術による大道芸ですか……なるほど」
ワタシは懐かしの味を思い出しつつも、粗悪な品を割高で扱っている悪徳商人の店を見極めるのが大変だったのも思い出す。
当たり前と言えば当たり前だが、誰もが善人なわけはないので、色々と怪しいお店も出てくるのが、祭りと言うものの常である。
ワタシも狩人なり立ての頃、腐りかけの肉を食わされたことがある。
闇属性魔術による体内分解で解毒化してやったけど。
ちなみに、腐りかけの肉のような本当にヤバい品を出そうとする奴は、王城か、裏社会か、どちらかから睨まれて、早々に姿を消す事になる。
あの時は……次の日には屋台ごと消えていたはずだ。
「ミーメ様。ミーメ様が収穫祭で何かを売る事はございましたか?」
今度はグレイシア様が質問をしてくる。
なお、ヘルムス様は、質問を聞いた時点で答えが分かっているのか、笑顔である。
「無かったですね。ワタシが取り扱っている品の内容的に、収穫祭でお出しするようなものではなかったので。後、収穫祭の期間中は露店の場所取りにかかるお金も結構な額になりますし、折角の収穫祭ですから、ワタシも楽しみたかったんですよね……」
「なるほど」
まあ、これは当然と言えば当然の話で。
当時のワタシが取り扱っていた品と言うと、主に休息の香になるが、これは日常的に使う物で、収穫祭で使うような物じゃない。
後、これは口にする事ではないので黙っているのだが、収穫祭と言うハレの日で闇属性が物を売るなと言うやっかみを目撃したこともある。と言うのもある。
ワタシ自身は何を言われても、所詮は口だけの小物と言う事で気にはしないのだが、ワタシが気にしないのと、売り上げが落ちる事は全く別の話なので……まあ、わざわざ収穫祭に出すメリットが無かった。これもまた事実ではある。
「とりあえず、ワタシなりに収穫祭を楽しんでいたのは確かですね」
「ミーメ嬢が楽しそうで何よりです」
ワタシはお茶を飲んで、話に区切りをつける。
うーん、今年も探せるのなら、秘伝のタレを使った焼肉串の屋台については探してみても良いかもしれない。
そんな時間の余裕があればだけれど。
「それで、平民の中層くらいまではこんな感じですけど。貴族の方はどんなことをしているんですか? ヘルムス様、グレイシア様、ジャン様」
「そうですね……」
では逆にこちらから質問。
今年からワタシが参加する収穫祭はどのような物になるのだろうか?
「では代表として私が答えます」
「お願いします」
「王都在住の貴族や、平民の中でも裕福な者については、本人の役職、家格、情勢、その他様々な物が関わってくるため、簡単にまとめることは難しいです。ですが、全体的な方針としては、陛下との謁見、研究や芸術の発表あるいは観覧、晩餐会の催しあるいは参加と言うところですね」
「割とお堅い感じですか?」
ヘルムス様の言葉に、ワタシは遊んでいる時間は無さそうだなと感じてしまう。
少なくとも、平民のように通りでお酒を飲み、見知らぬ相手と肩を組み合って、歌い踊るような事にはならなさそうだ。
「いいえ、そうでもありませんよ。どの研究や芸術を見に行くかは自由ですし、そこでどのような感想を持つかも自由。近しい意見を持った者同士で集まって騒ぐ事もありますし、お忍びで通りの屋台に出てくる者も少なくないですから」
「ふむふむ」
「私は知りませんが、晩餐会も開催者と参加者によっては、平民の酒場のような空気になる事もあるようですし、普段よりタガが緩んでいるのは間違いないかと」
「あー、収穫祭に何処かの家で開かれた舞踏会を切っ掛けに、若い貴族の男女が付き合い始めたとか、普通にあるとは、俺っちは聞いた事がある」
「演劇鑑賞で隣の席になり、話が盛り上がって……と言うのなら、わたくしも聞いた事がございます」
「なるほど。それは確かに堅くないですね」
前言撤回。
方向性やあり方が違うだけで、貴族も結構緩んではいる。
ワタシが楽しめるのかは体験してみないと分からないが、色々とあるようだ。
特に研究発表とやらは気になるが……。
「ところでヘルムス様、研究発表と言うのは?」
「そのままの意味です。魔術を含む各種研究についての発表を王城または貴族院で行っています。貴族院の方は主に学生で、王城は成人した魔術師が行うものですね」
「それってワタシたち宮廷魔術師に参加する義務があったりは……」
「しませんね。発表するかは任意です。ミーメ嬢はジャンと同じく、宮廷魔術師の中でも実務の側に偏った魔術師でもありますので、参加を勧められる事もないでしょう」
「あ、はい」
これは余談だが。
王城での研究発表では、責任者の認可が下りる事が必須である。
ワタシたちの場合、それは宮廷魔術師長様からの許可と言う事になるが、現状でワタシが研究発表として出せるようなものは、どれも見た人間に与える衝撃が強すぎるので、認可が下りる事はまずないだろうと言うのが、ヘルムス様の判断でもあった。
まあ、表に出せる物と言ったら、『八顕現』、宝石化の魔術、グロリベス森林深層について、この辺りになるのだろうが……うん、確かに。どれも現状では一般には出せなさそうな物ばかりである。
「それで見る方は……」
「ご安心を、ミーメ嬢。研究発表が見たいのでしたら、私の方で調整して見せますので」
「えーと、ワタシが見たい研究があったら、その時はお願いします」
「分かりました」
とりあえず、見たいものがあった時にはヘルムス様に連れて行ってもらおう。
他の魔術師が何をしているのかは気になるので。




