299:閑話-宮廷魔術師長の息子たち
今回は第三者視点となります。
ご注意ください。
「はあぁぁっ……」
宮廷魔術師長の息子、ウコバク・ウインスキーは城内に準備された火属性の還元を訓練するための部屋から出てくると、大きく息を吐く。
『八顕現』を教わったウコバクは、それ以降、一刻でも早く第二属性に目覚められるようにと、通常の訓練とは別に、自分が『八顕現』の中でもしてこなかったと断言できる技術を磨くようにしていた。
今も、体の中に残っている熱を特化と還元を用いて、自身の魔力に変換する事で、体を冷ますと共に研鑽を続けていた。
そして、その時はやって来た。
『油』
「っ!?」
ウコバクは、唐突に自分の頭の中で響いた声を聴いた。
その声にまさかと思いつつも、手近な反射物に顔を近づける。
よく磨かれた石の表面に映る自身の顔は……左右の目の色が異なるものになっていた。
「は……ははっ……そうか……私は……辿り着いたんだな……」
ウコバクはトリニア神に、『闇軍の魔女』ミーメに、家族たちに、心の中で祈りを、感謝を、喜びを捧げていく。
感動の涙と共に。
そうして一人で一通り祈り、気が落ち着いたところで、ウコバクはきちんとした鏡を見て目の変化を確かめ、得た属性で生成できる物を確認。
それから、報告のために宮廷魔術師長の部屋へと向かう。
「父さん、失礼いたします」
「ウコバクか。どうした……その目は!?」
「はい。目覚めました。なのでご報告をしに参りました」
「そうか。頑張ったな、ウコバク。吾輩も父親として鼻が高い……」
宮廷魔術師長はウコバクの変化に感動し、知らせを聞いてやってきたユフィールもまた喜んだ。
二人は、宮廷魔術師の両親を持つのに第二属性に目覚めていないウコバクが、これまでにどのような心無い言葉を聞かされていたかを、よく知っていたからである。
だが、喜びはこれで終わらなかった。
「父上、母上、その……」
「「「ヴォヴァル!?」」」
ウコバクの弟であるヴォヴァルもまた、第二属性……『消毒』に目覚めていた。
この結果に、ウインスキー一家は揃って喜びの声を上げたのだった。
「しかし、三か月程度で第二属性に目覚めるとは。ウコバクとヴォヴァルが元々努力していた分もあるだろうけど、まさかこんなに早く結果が出るとは思わなかったねぇ」
「そうね~私も驚きだわ~」
しかし、ただ喜び続けているわけにもいかなかった。
彼らは王国に仕える魔術師であり、ウコバクとヴォヴァルの第二属性覚醒が成功したのなら、様々な場所に必要な報告をしなければいけないからである。
「それで~二人の属性は何が出来るのかしら~現時点で出来る事を書き出して頂戴~」
「はい、勿論です。母さん」
「分かっています。母上」
具体的に言えば、まずは自身が目覚めた第二属性について、どのような知識を現状で持っているのか。
これは、海を知らない人間は『海』と言う第二属性に目覚める事は無い、と言う論理から、第二属性に目覚めた人間が、目覚めた時点でどの程度の知識を持っているかを確かめる事で、逆説的に、どれだけの知識があれば、その第二属性に目覚める事が出来るのかを知る事を目的とした調査であった。
なので、ウコバクは油について、ヴォヴァルは消毒について、自身が知る限りの事を書き記していく。
そうして並べられていく知識の中には、宮廷魔術師長とユフィールが知らない物も含まれており、二人がその第二属性に目覚めた事に納得が行くものであった。
「なるほど。ウコバク、ヴォヴァル。分かっているとは思うが、第二属性を得たとしても、それで直ぐに強くなれるわけではないし、使いこなせるわけでもない。これからも研鑽は必須だ。分かるね?」
「勿論です。父さん」
「言われなくても分かってます。父上」
続けて何が出来るのか。
これは単純に宮廷魔術師となった後に、どのような役割を持たせるかを考える指針となる情報である。
生産や治療に向いた属性なら、平時はそちらに専念してもらう方が王国の利益になると言う、単純な話でもある。
なお、自身の第一属性と組み合わせたら、何が出来そうなのか、と言う予測も可能ならこの時点で書き出しておく。
それが実現できるかは、当人次第であるが。
「ああそれと。『八顕現』を教わってから、どのような修練をどれぐらい積んでいたのか記録については早急に出すように。国の今後にも関わってくるからね」
「はい。『船の魔術師』にこれ以上の圧を掛けられるのも勘弁願いたいですしね」
「それについては俺も同感……」
「あらあら~ヘルムス君にも困った物ね~」
また、彼ら固有の事情として。
ミーメの『八顕現』についての感想も求められている。
こちらは今後、王国内の才ある魔術師に『八顕現』を広めるか否かの指標として必要なものだった。
ちなみにヘルムスの圧とは、王城内ですれ違った際に、笑顔で無言でただ真っすぐに見つめられる、と言う物であり、周囲の目には何もしていないように見えるが、向けられる当人としては中々にプレッシャーがかかるものであった。
「アナタ~。宮廷魔術師への就任式は何時にしましょうか~?」
「そうだねぇ……。ミーメ君の時のように急ぐ理由も無し。収穫祭も近いし、二人が今している仕事の調整もあるから、正式就任は収穫祭の終わりごろかなぁ。二人とも、それでいいかい?」
「「構いません」」
宮廷魔術師長の言葉に二人は揃って頷く。
宮廷魔術師になるに当たって今の仕事をどうするのかと言う話し合いを抜きにしても、二つ名をどうするかや、宮廷魔術師として恥ずかしくない程度には自身の第二属性についての見識を修めようと思えば、多少の時間が必要なのは明らかだったからである。
「良かった良かった。二人の宮廷魔術師就任は滞りなく行えそうだね。ユフィ」
「本当ね~」
「父さん。その言い方だと、滞りがあった就任があった人もいるように聞こえるけれど」
「あー、まあ、そこはね。色々とあるんだよ」
ちなみに、第二属性に目覚めた者は基本的に宮廷魔術師に就任、その際には王に謁見し、就任の儀を受けると言うのがグロリアブレイド王国の習わしではあるが。
様々な事情から、その習わし通りにいかなかった宮廷魔術師も少なくはない。
具体的には。
属性の危険性を鑑みて、つい最近まで名簿にしか名前が無かったとか。
年齢と役割の性質を鑑みて、名簿に記すだけにしたとか。
重大な犯罪歴と役割を考えて、名簿のみになったとか。
先に第二属性をある程度修めたいと言う理由から一年以上延期したとか。
本当はもっと昔に目覚めていたのに、つい半年前まで隠していたとか。
宮廷魔術師就任で家が調子に乗っても困ると言う理由で渋ったとか。
属性の名称が悪くて婚約破棄を喰らった直後に就任式を迎える事になって、精神面が非常によろしくなかったとか。
などである。
「コホン。まあ、二人は堂々と正面から就任の儀に臨めばいい。そして可能なら、早急に吾輩から宮廷魔術師長の座を奪い取って欲しい」
「父さん。父さんから宮廷魔術師長の座を奪ったら、周りから何を言われるか分かった物じゃないから。宮廷魔術師長の座は、世襲していい物じゃない」
「うんうん。そうでなくとも、父上には当分宮廷魔術師長の椅子に座っておいてもらわないと。俺たちでは、先輩宮廷魔術師の方々を抑える事も生かす事も出来やしない」
「……」
「こればかりは~アナタが諦めるしかないわ~だって~二人の言う事の方が正しいもの~」
息子たちの言葉に宮廷魔術師長は残念そうな顔を浮かべる。
そんな夫のしょぼくれた顔を見て、ユフィールは微笑む。
「そもそも~これから第二属性持ちは~これまでとは比較にならない早さで増えていくわ~。その時に~長が不慣れな人間だったら~どんな手違いが起きるか分かった物じゃないわ~」
「つまり?」
「少なくとも後五年は頑張ってもらいたいわ~」
「……。分かったよ、ユフィ。吾輩は頑張って見せる! 吾輩が宮廷魔術師長の座を譲り渡した後に面倒事が起きないようにするためにも!」
「その意気よ~アナタ~」
「父さん、私に出来る事はしますので、安心してください」
「父上。俺もです」
「うん、二人もよろしく頼むよ。宮廷魔術師とは王国の安寧を守るためにあるのだから」
宮廷魔術師長がやる気を見せ、その姿にウコバクとヴォヴァルが反応する。
こうして、ウインスキー一家は、一家そろって宮廷魔術師になったのであった。
習わし通りにいかなかった宮廷魔術師
ペスティア、ディム、サキ、ヘルムス、ミーメ、グレイシア、『賭事』
半数以上は習わし通りに行けているから、習わしとしては問題ないな。ヨシッ!




