288:ヘルムスたち 対 死竜 ※
今回もまた第三者視点となります。ご注意ください。
「っう!?」
ヘルムスは咄嗟に横へと跳ぶ。
直後、ヘルムスが居た場所に死竜の赤熱した状態の爪が振り下ろされ、爪の軌道上にあった物全てが焼け、溶け、断たれる。
その光景にヘルムスはこの攻撃が防御できるようなものではないと認識する。
「『アクアボートバレット』!」
「『ボルカノジャベリンレイン』!」
「『アイスランス』」
だが、切れ味が良すぎるがために、死竜が爪を振り下ろした姿は隙だらけのものだった。
故に、ヘルムスたちは即座に攻撃を仕掛ける。
水の船が、炎の槍が、氷の槍が死竜に向けて四方八方から襲い掛かり、死竜の身体を抉っていく。
「『肉体』『光』『土』重ねて補修。元通りだ」
だが、骨が見えるほどに肉が抉れたにも関わらず、死竜が魔術を一度使うだけで肉が盛り上がっていき、元通りになってしまう。
それは第二属性までの魔術ではあり得ず、しかし、トリニティアイほどではない。中途半端だが異様な出力の魔術。
「ヘルムス! グレイシア嬢! どうなっている!?」
「恐らくだが、体内の魔道具から属性だけを呼び出して、その細かい内容はきちんと自分で制御しているんだろう。つまり、魔力源はウェルフの時と同じだろうが、中身はウェルフのほぼ完全上位互換だ」
「幸いなのは、再生がノスタの魔道具でない点でございます。アチラと違って自動でなく任意での回復なら、魔道具を抉り出すという方法もあるはずです」
ジャンたちは手早く情報交換を行いつつも、肉体の再生を行っている死竜の手の爪から赤い光が失われているのを目敏く発見する。
それは死竜が二つの魔術を同時に扱えない可能性。
属性供給元が魔道具であるため、そのような制限が掛かっている事は、決してあり得ない事ではなかった。
ただし、現状では、今見えたのが嘘なのか、本当なのかが分からないため、口には出さず、その隙を積極的に突く事もヘルムスたちはしなかった。
「抉る、ね。じゃあ、爆発主体で行くべきだな! 『バーストジャベリン』!」
「はははははっ! 元より半ば屍の肉体よ! その程度の魔術が効くか!」
「っ!?」
ジャンが爆発する槍を投じる。
死竜はそれを左手で受けると、左手が根元から吹き飛ぶのと引き換えにジャンの目の前にまで迫り、単純な膂力と爪の鋭さで以ってジャンの身体を引き裂こうとする。
ジャンは一撃目こそ槍で受け止める事を選んだが、その一撃で重さを理解し、これ以上は受けるべきではないと判断して退く。
そして、ジャンのその判断が正しかったことを示すように、吹き飛んだ死竜の左手は再生されていて、その爪はジャンの身体を掠めた。
「ジャン様! 援護します! 『アイススパイク』!」
「焦るな! ジャン! 『アクアボートバレット』!」
「悪い、助かる!」
「ちいっ!?」
ジャンの後退を助けるように、グレイシアは死竜の足元に氷の棘を生やし、ヘルムスは変幻自在に動く小さな水の船を死竜の体に叩きつけていく。
「あまり、我を苛つかせないで貰おうか! 『肉体』『風』『火』連なりて爆導索!」
「「「!?」」」
死竜の身体から周囲に向けて黄色い縄のようなものが伸びたかと思うと、それに火が灯り……連鎖的に大爆発を起こしていく。
周囲一帯を爆風と爆炎が包み込み、焼き焦がしていく。
「はぁはぁ。いや、中身が闇属性のドラゴンなのに、なんでこんなに魔術を使いこなしているんだよ! おかしいだろ!」
「くははははっ! 知れた事よ! 生き延びるためには、あらゆる知識を得るのは当然の事! 己が如何なる属性を得ても十全に生かし切れるように備えておくなど、やらない方がおかしな事よ!」
炎と熱の還元及び炎の槍衾によって爆発を凌いだジャンの声が響き、その声に死竜が哄笑と共に応える。
「さあ、いい加減に死ぬがいい! 貴様の肉体を我が糧にしなければいけないのでなぁ!」
「お断りだ!」
死竜の爪とジャンの燃え盛る槍がぶつかり合う。
「ジャン! 加勢する!」
「頼んだ!」
「はははっ! 二人がかりならばなんとかなるとでも!?」
そこにヘルムスも水を纏ったオールで割り込んで、死竜との近接戦闘を始める。
二人は死竜の攻撃を紙一重で避けつつ、交互に攻撃を加えて、死竜の何処かに明確な弱点や隙が無いかと探っていく。
対する死竜は魔術による治療を行いつつ、素の膂力と爪だけでヘルムスたちを殺せると言わんばかりに腕を振るい、攻撃が空振った先にある木々をへし折り、大地を砕いていく。
「……」
そんな中、グレイシアは自分もいざとなれば直ぐに死竜との戦いに割り込めるようにしつつも、周囲を警戒する。
周囲を警戒する理由は単純。
死竜が驕り、こちらを甚振るような動きを見せているのは、本人あるいはドラゴンと言う種によるものかもしれない。
しかし、もしそうでないのなら、もっと致命的かつ確実に仕留める手段が他に存在していて、それに目が行かないようにするための目くらましである可能性があったからである。
少なくとも、イアキレミと言うもう一人の敵が居る以上は、不安属性によって早期警戒が出来るグレイシアが警戒しておくのは当然の事だった。
そして、その時は唐突にやってきた。
パンッ!
森の中に拍手のような破裂音が一度だけ鳴り響く。
「何が……」
「起きて……」
「これは……」
その破裂音にヘルムスもジャンもグレイシアも気を取られ、視線がそちらの方を向きそうになる。
「くはははっ! 隙を見せたな!」
死竜は音を気にせず、爪を振り上げる。
「……」
そして、死竜の背後では、紫色の瞳を持つ女が無表情のまま駆けていた。
「っ!」
「やべっ!」
ヘルムスとジャンは緊急脱出用の魔術すら用いて、咄嗟にその場から大きく飛び退き、距離を取る。
「……」
女……イアキレミの手が死竜の後頭部に触れようとする。
「だが、やはり人形は使えんな。この期に及んで、事前にされていた命令に従い続けるとは」
しかし、イアキレミの手が死竜に触れるよりも早く。
まるで知っていたかのように死竜は素早く振り返り、その勢いのままにイアキレミの腹を爪で貫いた。
「何……故……」
「何故だと? むしろ我の方が言いたいくらいの台詞だな、それは。我がこの身体を奪い取ってから、今に至るまで気づきもしなかった分際で、今気づいたから命令を遂行しますなどと。貴様はいったい何故生きているのやら」
イアキレミは未だに無表情であった。
対する死竜は憤りすら感じさせる笑みを浮かべる。
「ミーメ嬢。よくご無事で」
「ヘルムス様。この状況はいったい……」
「分かりません。私たちとの戦闘中、不意に半分腐った獣がイアキレミを攻撃しました」
そんな中、ヘルムスの持っていた鉄製の箱からミーメが姿を現し、状況を確認。困惑する。
「ちっ。まさか、無明の荒野に落としても帰ってくるとは……」
死竜はこと切れたイアキレミの身体を投げ捨てると、ミーメの事を警戒したまま口を開く。
「『闇』『肉体』『水』混ざりて消化。飲み込め」
「「「!?」」」
イアキレミの体内から大量の闇が噴出し、イアキレミとその周囲を覆い尽くす。
噴き出した闇は死竜の体に向かって行き、飲み込まれていく。
そうして闇が収まる頃には、既にイアキレミの身体は髪の毛一本、魔力の残滓すらも残さずに消え去り。代わりに死竜の身体はほんの少しばかり生気を取り戻していた。
イアキレミがどうなったのかは、考えるまでもなかった。
「すみませんヘルムス様。もう少し詳しくお願いします」
「半分腐った獣の中身は例のドラゴンであり、死竜を名乗っています。扱える属性は七つと言っていましたが、今の『闇』で八つ目ですね」
「つまり、ウェルフの上位互換であり、嘘つきで卑怯者である事を前提に立ち回れと言う事ですね。理解しました」
「要点としてはその通りです」
ミーメが杖を構える。
ヘルムス、ジャン、グレイシアも、それぞれの得物を構える。
「三つ目の人間め。これで二度目か。貴様相手にこの体で勝てるとは思わなんだから、不意を打って落としたというのに。まあいい、戻ってきた以上は……喰らってくれる」
死竜も構える。
少し前屈みの、人とも獣ともつかぬ構えを取り、全身から体液をこぼしていく。
両者は暫しの間睨み合い……。
「『闇』『火』『風』重なりて災厄! 貫け! 焼け! 蝕め! 命を奪い取れぇ!!」
先に動いたのは、死竜であり、その口から放たれたのは、黒い炎が竜巻のように鋭く渦巻いた、ドラゴンブレスであった。




