281:異常な魔物たち
「ーーーーー~~~~~……」
ワタシたちの前でクラウンベアが絶命、倒れる。
「行け、闇人間」
「じゃあ、こっちは燃やしておくなー」
そして直ぐに解体。
食べる分の肉は回収し、ニワシガラスたちに報酬代わりとして渡す内臓は外に出し、他はジャン様の魔術によって燃やしてしまう。
「これで本日四戦目ですか。やはりグロリベス森林の深層は魔物が多いですね」
「多いだけではございません。単純に強いものも、悪質なものも居るようで、どの魔物も油断なりません」
さて現状だが。
スライムたちの群れを切り抜けたワタシたちは、食事や小休憩を挟みつつ、イアキレミと半分腐った獣を追って移動を続けている。
スライムの群れ以降に、此処までに遭遇した魔物は、ハイギョのような魔物、各種虫型の魔物の群れ、今のクラウンベアとなるが……、うん、この様子だと、誰も気づいていなさそうだ。
移動をしつつ話をしておこう。
「魔物たちの出現の仕方が妙ですね」
「妙とはどういうことですか? ミーメ嬢」
「普通、森の中で魔物に遭遇するのなら、真正面からバッタリではなく、背後、横、上空や地中からの急襲です。少なくとも、斜め前くらいにはなります。なのに、今日会っている魔物は、スライムたちも含めて、誰も彼も真正面からの接敵になっています」
ワタシの言葉にヘルムス様たちがハッとした様子を見せる。
そう、魔物と言えども、食べるため、生きるために襲うのだ。
ならば、少しでも自分の生存率と狩りの成功率を上げるために、疲れない程度には位置取りの調整をしてくるのが普通である。
しかし、今日遭遇した魔物たちは、いずれも真正面から……より正確に言えば、何かから逃げてきた結果として、ワタシたちに正面から遭遇する事になったような動きをしていた。
これが普通であるわけがない。
「なるほど。例の半分腐った獣を恐れた魔物が逃げ出し、とにかく距離を取ろうとしているために、それを追って最短距離で移動している私たちと真正面から遭遇する結果になってしまっているわけですか」
「はい。たぶん、そう言う事だと思います」
「半分腐った獣の実力が窺える話でございますね。魔物たちが半ば恐慌状態のようになって逃げるとは」
「だな。此処まで来たら、中身がドラゴンに置き換わっている前提で動いた方が安全そうだ」
ただまあ、そうと分かったところで、ワタシたちのやる事に変わりが生じる事は無いのだけれど。
だから、ヘルムス様も、ワタシも、グレイシア様も、ジャン様も、気合いを入れる事はあっても歩みを止める事は無いのだけれど。
「むっ、あれは……」
そうして移動をしていると、森の中に『狩人払い』の死体が転がっているのを見つけた。
それもただの死体ではない。
上半身部分が欠けている死体だ。
「これはまた、色々な意味でおかしい物が出てきましたね」
「そうなのですか? 私の目には何かが上半身だけ食い荒らして、去っていったようにしか見えませんが」
「はい。その時点でもうおかしいんです」
ワタシは『狩人払い』の死体を検分する。
傷口には、牙や爪の痕跡があるので、仕留めた後に食べた事は間違いない。
だが、普通の魔物なら、頭なんて食いづらい場所は後回しで、まずは内臓と言う柔らかい部分を食べるはずなのだ。
間違っても、胸の半ばくらいから上の部分だけ食べて去っていくなんて振る舞いはしない。
「ついでに、放置されていたはずの死体に他の魔物が近寄ろうとしないのもおかしいです。『狩人払い』自体もそうですが、グロリベス森林には自分以外が仕留めた魔物の肉を食べる魔物も、スライムのように他の魔物の残飯を狙う魔物も沢山居ます。それらが悉く手を出す事を拒否している死体なんて、そうあるものではないです」
「なるほど。流石はミーメ嬢ですね」
「このくらいは、ただの狩人としての知識ですけどね」
ヘルムス様は褒め称えてくれるが、今起きているこれは本当に、異常事態である。
ニワシガラスのダニー……が手を出さないのは、よく躾けられているからでいいが、他の魔物たちがまるで近寄ろうとして来ない。
死んでから丸一日は経っているであろうに、ハエのような小さな虫すら寄ってきていないのだ。
こんな反応は、この魔物の死体を作り出したものが、よほど恐れられていて、機嫌を損ねるような振る舞いは絶対にしたくないと本能レベルで刷り込まれていなければ、起きない事である。
「ミーメ嬢。そんな死体を弄っていて大丈夫なのか? もしかしたら近くで、それを作った奴が見ていたりするんじゃ……」
「むしろ、それなら好都合ですね。その監視している奴を仕留めればお終いなので。ただ、属性感知の範囲を限界まで広げても、妙な闇はなく、ワタシたち以外の人間も感じないので、本当にただ殺して捨て置いただけなのかもしれません」
ジャン様が周囲を警戒しながら告げた言葉に応えつつ、ワタシは『狩人払い』の死体を更に検分していく。
うん、欠けてしまった部分との境目にある痕跡以外に、傷は一切なさそうだ。
そうなると、牽制や弱らせを目的とした攻撃を行わずに、『狩人払い』の甲殻を貫く威力の攻撃を最低限だけ行って仕留めた可能性が高そうだ。
ついでに闇属性の気配もない。
確かなのは、今の半分腐った獣は並大抵の存在ではない事くらいだろうか?
後、こう言うと、馬鹿にしているように思われるかもしれないが、中身がシミヒだったら、絶対にこれほどの力は発揮していないし、恐れられてもいないと思う。
「カアカァカカァ」
「カーカー」
「カアカァカ」
「カッカカァ」
「えーと……」
なんか気が付けばニワシガラスの数が増えていて、グレッグさんのアフロ頭の中でダニーと、ニワシガラス同士で何か話し合っていた。
やがて、やり取りが終わったのか、ダニーでは無い方のニワシガラスが飛び去って行く。
「ダニー、グレッグさん」
「カァ」
「えーと、今のはニワシガラスたちからの連絡だったみたいです。なんでも、俺たちではない人間と半分腐った獣は、森の中を進み続けていて、このまま進めば禁忌の森に踏み込むのではないか、との事です」
どうやら情報の更新が行われたらしい。
本当にニワシガラスは頼りになる。
それはそれとして、気になる事については訊ねておくべきだろう。
「禁忌の森と言うのは?」
「カッカァ」
「入ったら誰も帰ってこない森。だそうです。明らかにおかしな場所なので、踏み込む前に分かりますが、ダニーは中へは絶対に入らないとも言っています」
「なるほど。ニワシガラスたちがそう言うのなら、入らない方が良さそうですね」
たぶんだが、禁忌の森と言うのは一方通行の空間であり、だから、境界線を越えてしまうと、どうやっても帰ってこれなくなってしまう場所、なのだろう。
うん、入ってしまった時点で、死んだものと扱わざるを得ない空間と認識しておこう。
「……。ミーメ嬢、もしもその禁忌の森とやらにイアキレミたちが入ってしまっていたら……」
「当然、捜索断念ですね。ワタシたちの手に負える状況ではないと判断します」
「分かりました」
気になるのは、何でそんな場所をイアキレミたちが目指しているかだが……。
その空間の奥に『開拓王』の遺産でもあると言うのだろうか?
まあ、もしそうだとしても、入らない一択なのだけれど。
なお、その後の追加情報として。
半分腐った獣はニワシガラスにも襲い掛かってくるため、仕留められるなら仕留めて欲しい対象になった事。
半分腐った獣は、光、火、水、風など複数の属性を操る事。
イアキレミと思しき人間に見つめられると、魔物でも気が抜けたように棒立ちしてしまう事。
と言った情報がもたらされた。
本当に、ほんっとうに、ニワシガラスたちは頼りになる。
後で、追加のご褒美でもあげるべきではなかろうか?
「ヘルムス様、ジャン様、グレイシア様、ダニー、グレッグさん。一先ず、今晩の寝床になる場所を探しましょう。探している相手に近づいていると言うのなら、出来る限り万全の状態で挑むべきです」
「そうですね。ミーメ嬢の言う通りだと思います」
とりあえず、今日の捜索はこの辺りで切り上げる事とした。




