279:一方その頃の王城 ※
今回は第三者視点となります。ご注意ください。
「調子はどうだい? ユフィ」
「あら~アナタ~来てくれたの~」
ミーメたちがグロリベス森林の深層にて今晩の寝床を確保していた頃。
王城は深層での訓練を終えて帰投した『剛拳の魔術師』たちの戦利品で大騒ぎになっていた。
その騒ぎの大きさがどれぐらいかと言えば、春にミーメがドラゴンの死体を一頭丸々持ち込んだ時に匹敵するほどであった。
ただ、あの時との違いもある。
「見てみて~この薬草~。浅層でも採れていた薬草なのだけれど~、保有する魔力の量が倍以上違うのよ~。それはつまり薬効もその分強力で~、これまでは丁寧な処理で抽出しないといけなかった成分が取り出しやすくなっているのよ~」
「おー、それは凄いねぇ」
それは、今回持ち込まれた品は多種多様であり、品ごとに求めている人間が異なるために騒ぎが分散している。と言う点である。
現に『白衣の魔女』ユフィールは、『調薬の魔術師』と『白花の魔女』が回収してきた、薬草類に夢中になっていて、大量の魔物の肉や毛皮には目もくれていなかった。
そんな妻の様子に宮廷魔術師長は微笑みつつも、自分の手でも採取された薬草を手に取り、検分。
その違いに納得しつつ、記録も採っていく。
「ユフィ。成分抽出用のアルコールなら、十分な量を作ってあるから安心してくれていいよ」
「助かるわ~。ふふふ~、これ一つで医療の分野に劇的な進歩……とはならないでしょうけど~着実に前に進めているとは思えるわ~。ミーメちゃん様々ね~」
「アポロ君を同行させ、ヴォヴァルに回収を命じていたユフィの手柄でもあるけどね」
「それはただ機会を見逃さなかっただけの事よ~褒められるべきは現場の子たちよ~」
宮廷魔術師長はユフィールと同じように検分をしている、『調薬の魔術師』と自分の息子の片方、それと治療部隊の面々へと目を向ける。
誰も彼もが真剣な顔をして、新たな素材に対する議論をしている。
なんなら、『白花の魔女』や侍女たち、急遽呼ばれたらしい貴族院の教師たちも加わって、それぞれが持つ知見を基に話を進めている。
これを邪魔するべきではない。そう思った宮廷魔術師長は、ユフィールに一度声をかけると、他の面々の下へと向かう。
「タケッケ君」
「おおっ、宮廷魔術師長殿。お待ちしておりました」
次に宮廷魔術師長がやってきたのは、『剛拳の魔術師』を始めとした戦闘を得意とする宮廷魔術師たちに加えて、騎士や職人が特に集まっている場所。
集団の中心に居たのは、全身を硬い甲殻に覆われた四足獣……『狩人払い』の死体だった。
「これがミーメ君の言う所の『狩人払い』と言う魔物だね」
「ええそうです。貴族院の魔物学の専門家にも御足労いただき、調べてもらっていますが、まず間違いなく新種の魔物。素材が出回った事もほぼないのではないか。との事です」
「ふむふむ」
宮廷魔術師長は『狩人払い』の死体をよく見ていくと共に、ミーメのメモ書きに示されていた概要も確認。
もしも自分が相対したならばどうするかを考えると共に、何に使えそうかも考えていく。
「一番の特徴はやはり甲殻かな?」
「そうですね。とにかく硬い。あまりにも硬くて、死んだ事で魔術による一時的な強化がなくなったはずなのに、甲殻を切り出すには魔術による強化と質のいい鉄製の道具が必要です。生きて居る頃なら、第一属性の魔術程度は難なく跳ね返していた事でしょう」
「厄介だねぇ。第二属性を含んだ魔術でも、半端な物なら難なく防がれそうだ」
「防がれるでしょうな。流石にドラゴンほどではありませんが、一般的な魔物とは明らかに一線を画した強度です」
宮廷魔術師長は『剛拳の魔術師』と話しつつも、切り離された甲殻の中でも端材に当たるものを手に取ると、自分の魔術で火を点けてみる。
その火の感覚として、時間はかかるものの燃やす事は出来るし、内側の水分を急激に蒸発させて爆発させる事も出来そうだった。だが、爆発させた場合の破片の威力は大変危険な物になるだろう。
そう認識したところで、宮廷魔術師長は火を止めて、端材内部の圧力を下げていく。
「タケッケ君。危険度はどの程度だと判断する?」
「挑むか、逃げるかでだいぶ変わります。ミーメ嬢の情報通りなら、程々の大きさの獲物を一つ捨てて囮にすれば、それで逃げ切れるでしょう。しかし、挑むのであれば……相応の策を練るべきだと考えます。真正面から挑める者は宮廷魔術師の中でも一握りかと」
「なるほどねぇ」
宮廷魔術師長はこの魔物を積極的に狩るか否かを少しだけ考えて、否の方向で結論を出す。
積極的に狩るほど危険な魔物とは思えなかったし、それよりも狩り過ぎて数が減った時に周りに及ぼす影響を懸念した。
だが、襲われた時の対処法については考えなければいけないと言う事で、後で一部の者に考えておくように命じておく事を心の中でメモしておく。
「ちなみにミーメ君がこれまでに『狩人払い』について情報を出さなかった理由は?」
「メモによれば、滅多に出会わず、素材の使い道も特に思いつかない。なので、遭遇するまで、その存在を忘れていたとの事です」
「ミーメ君らしいねぇ。でも、その理由なら仕方がないかな。吾輩も解析に使う薬剤を入れてある棚の一番奥に入っている物は何かと、前振りも無しに問われたら直ぐには分からないし」
「分かります。私もノスタやイストフィフス侯爵のような印象深い悪党ならともかく、十数年前に捕まえた盗人の名前を尋ねられても答えられませんので」
「グロリベス森林の深層にどれだけの魔物が居るかなんて、誰にも分からないしねぇ」
「同感です」
最後に宮廷魔術師長はミーメが狩った『狩人払い』の死因を確認する。
一応は甲殻の隙間を通すように、頭に向かって鋭利な刃物が振り下ろされた傷口が見つかった。
傷は脳にまで達しており、一撃で仕留められたことは誰の目にも明らかであると同時に、容易には真似できない狩人の業も感じさせるものになっていた。
「では吾輩はこれで。他にも見て回らないといけないからね」
「検分、ありがとうございました。宮廷魔術師長」
その後も宮廷魔術師長はこの場を見て回っていき、その場その場で話をしていく。
大量に積まれた狼型の魔物の毛皮とその他の素材をどう処理するかを話し合う。
食堂と調薬、それぞれの担当者で揉めそうになったのを仲裁する。
危険な素材を燃やし尽くして処分するのを手伝う。
と言った具合である。
「おや?」
そうして活動していると、いつの間にか宮廷魔術師長の手元にヘルムスのメモ帳が現れていた。
「何故、いやそれよりも、吾輩は何時これを?」
宮廷魔術師長は疑問を覚えつつも、メモ帳の中身を確認し……無言で天を仰ぐ。
書き出しも内容も問題ばかりだったからである。
「何をしているのかなぁ、ヘルムス君は……。いや、彼の事だから、必死になって最適な行動を考えた末の事なんだろうけども……」
宮廷魔術師長は足早にその場を去ると、グロリアブレイド王国国王の下へと急ぐ。
ヘルムスが天竜を利用した事、『アーティスト』の話について天竜が妙な反応を示していた事については宮廷魔術師長の胸に収めておく事も出来たが、残り二つの話はそうも言っていられなかったからである。
「陛下、宰相、既に夜ではありますが、申し訳ありません。至急お話したい事がございます」
「……。分かった、聞こう」
そう、建国神話に語られるドラゴンが復活を目論んでいると言う話と、王国の北に未知なる国があるかもしれないと言う話は、捨て置くにはあまりにも大きな話だったのである。
「……。また胃が痛くなる話を……」
「……。吾輩も痛くなったので諦めてください。陛下」
「……。内容もそうだが、情報源があまりにも酷いとは思わないか? ジョーリィ」
なお、国王、宮廷魔術師長、宰相の服用する胃薬の量は増えなかった。
しかしそれは、持ち帰った薬草を元に、新たに効きの良い胃薬が作られたためであるので……彼らの胃の状況は察するに余りあるものである。
今更ですが、『剛拳の魔術師』のフルネーム。
『剛拳の魔術師』タケッケ・フォン・アイアナクル
ちなみに45歳、アイアマイン公爵家所縁の家、アイアナクル男爵家の出身。




