273:二日目 知らせは急だが……
「おはようございます。ヘルムス様」
「おはようございます。ミーメ嬢」
翌日。夜間に少々のトラブルはあった物の、一人も欠けることなく朝を迎える事が出来た。
と言うわけで、目を覚ましたワタシは水の船の上で見張り役をしていたヘルムス様と挨拶を交わす。
「さてヘルムス様。朝の八時までが適性検査の範囲ですので、後もう少しだけ頑張って下さいね」
「ええ勿論です。必ずやミーメ嬢の期待に応えて見せましょう」
「はい、見守ってます」
季節的には、今は夏が終わるかどうかぐらいの頃。
なので、グロリアブレイド王国の気候も合わさって、朝は非常に涼しく気持ちがいい。
そんな中で婚約者であるヘルムス様と少しだが会話を出来ると言うのは……うん、お互いにやる気が出ると言うものだ。
「いや待て、ヘルムス! 流石にアレにはツッコミを入れろ! ツッコミを!」
「ミーメ様。背後のそれは……」
そんな中ヘルムス様の船に間借りさせてもらっていたジャン様がヘルムス様に対して裏手でツッコミを入れ、グレイシア様がワタシの背後を見て驚いた表情を浮かべる。
「これですか? 巨大蛇の類ですね。夜間に『賭事の魔術師』様に襲い掛かりまして、反応できていなかったようなので、始末させていただきました」
ワタシは自分の背後にあるそれ……全長は20メートルを超えていて、成人男性でも難なく丸呑みできそうな太さを持った蛇を、全体像が見えるよう、闇人間に持たせる。
ちなみに属性は闇で、夜の闇に紛れるような隠蔽の魔術を用いていた。
属性と生態が噛み合ったこの魔物を察知できる人間は、そう多くはない事だろう。
「ジャン。ミーメ嬢とグロリベス森林深層の組み合わせだ。これぐらいの魔物がやってくること自体は想定して然るべきだと思わないか?」
「それは……そうかもだが……」
「だが褒め称えるのなら、私も同調しよう。ミーメ嬢は強力な隠蔽がかかっている巨大蛇を一方的に捕捉し、狩猟者を獲物へと転落させました。これはミーメ嬢でなければ出来ない事で、多大な成果だと私は思います」
「ふふふ。ありがとうございます。ヘルムス様」
まあ、ヘルムス様の言う通り、ワタシならあっさりと破れる程度の隠蔽だったのだけれど。
なお、巨大蛇は境界拠点に送り、それから王城の方へと送る予定である。
流石に一人で食べるには大きすぎる。
「それにしてもヘルムス様。『賭事の魔術師』様の魔術。あれは色々と問題があるのでは? 襲われたのを助けた直後に話をしたところ、隠蔽や感知の魔術の更新に連続で失敗していたとの事ですが」
「ああ、その点ですか。確かに問題だと思います。効果が上がる方向で当たった場合には、間違いなく有用だと思うのですが……。今回のような状況にはそぐわない魔術かと」
ワタシの言葉にヘルムス様も困ったような表情を見せている。
本人曰く、『賭事の魔術師』様の属性は『氷』と『賭博』。
そして、『賭博』と言う属性は、カードやルーレットと言った賭博に使う物の形を持ってくるのにも使えるが、公平性を伴う一人遊びを始めて、その結果に応じて魔術の出力を変化させる使い方もあるらしい。
問題は、後者の使い方をする場合、結果によっては出力が大幅に下がる場合もあるそうで……、下手をすれば一属性魔術師よりも弱くなってしまうのだとか。
昨夜は、その悪い面がモロに出てしまったらしい。
「こう言っては何ですが、今回参加している宮廷魔術師で、最も魔境探索に適していないのが『賭事の魔術師』殿だと思います。街中や街近くと言った場所で、時間稼ぎをしてくれる仲間が居る状況下、そこで大出力の攻撃が必要とされたなら、適任だとは思いますが」
「なるほど。ちなみにワタシが巨大蛇から助けた直後、ワタシの感知にも引っ掛からないような毒の無い小さな虫に齧られて悲鳴を上げていたのですが……」
「そっちは何時もの不幸だと思います。理由は分かりませんが、あの人は何故か運が悪いので」
「あ、はい」
余談だが。
『賭事の魔術師』様の魔術でイカサマは厳禁らしい。
それをしてしまうと、魔術の出力が反転して、術者に襲い掛かるのだとか。
イカサマをしていると言う自認に反応する以上、誤魔化す事も出来ないので、素直に実力勝負に挑む他ないらしい。
大変な事である。
「急報! 『闇軍の魔女』様! 急報でございます!」
「ミーメ嬢」
「はい。行ってきます。此処に居ます! 何かありましたか!?」
ここで、境界拠点の方から、騎士の方が声を張り上げながらやってくる。
どうやら何かがあったらしい。
なので、ワタシも声を上げながら、騎士の方へと近づいていく。
「こちらを。王城からの急報でございます」
「分かりました。貴方は此処で暫く休憩していてください。帰り道は、適性検査を終えた方々と一緒に戻れば安全でしょう」
「分かりました」
ワタシは騎士の方から手紙を受け取る。
えーと、差出人は宮廷魔術師長。
シミヒに何かがあったとみるべきか。
ワタシはそんな事を考えつつ、中身を見て……暫し考えた。
「ミーメ嬢」
「はい、分かってます」
その後、適性検査の時間が終わり、ヘルムス様たちが一カ所に集まってくる。
ワタシは本来の流れの通り、誰が合格したのか……ワタシの闇人間の世話にならなかったのかを告げていく。
ちなみに宮廷魔術師で闇人間の世話になったのは『賭事の魔術師』様のみ、一属性の騎士と魔術師は半数ほどが世話になっていた。
なので、選抜するメンバーについても予定通り。
「連れて行くのはヘルムス様、ジャン様、グレイシア様とさせていただきます。よろしくお願いします。ヘルムス様、ジャン様、グレイシア様」
「ええ、よろしくお願いします。ミーメ嬢」
「おう。頑張らせてもらうな。ミーメ嬢」
「尽力させていただきます。ミーメ様」
ワタシはヘルムス様たちと握手を交わす。
さて、此処からは予定外。
「出発前にこの場に居る全員で情報を共有しておこうと思います。先ほど王城から情報がありまして、シミヒの反応が途絶えたそうです」
「「「……!?」」」
捜索魔術を使っていたディム様曰く。
日付が変わった直後にシミヒを対象に捜索魔術を使ったところ、反応が無かったらしい。
普通ならば、魔物に襲われて死んだと考えるべき状況である。
だが、シミヒと同行しているであろうイアキレミの反応は継続しているらしい。
なので、急報と言う形で情報がもたらされたようだ。
「ただ、ワタシたちがやる事に変わりはありません。イアキレミにシミヒを増殖……と言う表現が正しいかは分かりませんが、増やす能力がある可能性は高いので。これを放置しておく事は出来ませんから」
状況が変化したため、作戦を継続するかの判断はワタシに委ねられている。
しかし、この程度ならやる事に大きな変化はないとワタシは判断した。
なので、作戦は継続。これからイアキレミを追いかけて、森の中へと入る事にした。
ワタシの判断をヘルムス様たちも支持してくれたのだろう。静かに頷いてくれる。
「それでは、準備を整えたら、ワタシたちはイアキレミに向かって、他の方々は境界拠点へと出発しましょう。分かっているとは思いますが、安全第一です。無理をせず、仮に目標を目の前にしても危険なら引き返す事を躊躇う事なく進みましょう」
ワタシ、ヘルムス様、ジャン様、グレイシア様の四人は手早く準備を整える。
そこへニワシガラスのダニーと、そのテイマーであるグレッグも合流。
「では、出発します!」
そうしてワタシたちはイアキレミが居るであろう方向に向けて、移動を始めた。
『トリニティアイⅠ -転生平民魔術師の王城勤務-』
オーバーラップノベルス様より8月20日発売でございます!
書影も既に発表されておりまして、格好良くて可愛いミーメが表紙となっております。
勿論、本文には色々と手を加えておりますし、特典SSも色々と書きましたので、是非手に取っていただければと思います。




