271:魔物の処理方法について
本日は三話更新になります。
こちらは三話目です。
「皆さんお疲れ様です」
日が暮れて、グロリベス森林の深層が暗闇に包まれる。
明かりとなるのは、ジャン様やウコバクさんが点けた焚火のみ。
音はその焚火の薪が爆ぜる音を筆頭に色々とあるが、基本的には静かなもの。
そして匂いは……狩られたばかりの魔物が鍋で煮られて、中々にいい匂いが漂っている。
きちんと火を通しているようなので、変な物が混ざっていない限りは、むしろ普段より栄養は豊富かもしれない。
「ミーメ嬢、どうかされましたか?」
ワタシの声を聞きつけたのか、ヘルムス様が簡易拠点として準備した水の船から降りて近づいてくる。
水の船は内部に設置された魔道具によってヘルムス様の意識が無くても維持されるらしく、五人ほどの人間が内部で寝られるようにもなった、立派なものである。
他の拠点も中々のもので、『石抱きの魔術師』様は整地と圧縮によって安全を確保しているし、『白花の魔女』テンサ様は近くの木を寝床として加工しつつ、魔物の忌避剤となる植物を巻き付けている。
これならば、一夜くらいならば大丈夫だろう。
勿論、見張りを立てる事は必要だけど。
「皆さんが寝る前に魔物の死体の処理について話しておこうと思いまして」
それはそれとして本題。
ワタシは積み上げられた魔物の死体を見る。
この死体たちは、今日一日この場に集まって来て、返り討ちに遭った魔物たちである。
種類は多種多様で、処理方法はグループごとに異なるものだった。
「魔物の処理ですか。私はミーメ嬢の許可を得た上で、拠点へと送ってしまいましたが」
「はい。それはそれで正解だと思います。鮮度を保てるように冷水に漬けられた状態でもありましたし」
ヘルムス様については今述べた通り。
『鉄弓の魔術師』様などは、組んでいた『石抱きの魔術師』様と『調薬の魔術師』様と協力して、必要な素材を回収した上で土葬していて、これが最も一般的で確実な方法だろう。
あるいはジャン様やウコバクさんのように、必要以上の素材は焼いて灰にしてしまうのも有りだろう。
少し変わったところでは、テンサ様のように特殊な植物を生やして、腐敗臭を抑えつつ早急に土に還してしまうと言う手もある。
「「「……」」」
だが、処理をしていない……いや、出来ていないグループもあった。
ウコバクさんたちとは別の騎士たちと魔術師だ。
彼らは、ワタシの言葉に申し訳なさそうな顔をしている。
「安心してください。怒る気はないです。この件はどちらかと言えば、死体の処理要員を考えない組み合わせにした宮廷魔術師長様の問題なので」
「そ、そうですか……」
彼らは魔物との戦闘でいっぱいいっぱいだった。
火属性の魔術師一人と肉体属性の騎士四人、火の魔術が攻め手の中心となっている以上、経験や実力の不足以前に、死体の処理をしている余裕などなかった。
なので、この件で彼らを怒る気は無い。
しかし、伝えるべき事は伝えるべきである。
そんなわけで、死体の処理についての話である。
「魔物の死体を処理する事は必須です。血の臭いが他の魔物を引き寄せる事になってしまいますから。グロリベス森林深層での有名どころは……これですね」
「ーーーーー!?」
「「「!?」」」
ワタシは夜の闇に紛れて近づいてきていたそれを闇人間で仕留めると、焚火の明かりがある所にまで引きずり出す。
「ミーメ嬢、その魔物は?」
「『狩人払い』とワタシは呼んでいます」
現れたのは、全身を硬い甲殻で覆われた四足獣。
前世知識で似た動物を挙げるなら……体形的にはカバが近いだろうか?
ただ、カバと違って前足の爪は鋭く太く、牙は肉食性のそれ。
生態としては、鈍重ではある代わりに圧倒的なパワーと防御力を誇り、クラウンベアすら一方的に追い払ってみせるが、鈍重なので他の魔物が狩った獲物を奪うしかない横取り専門の魔物である。
なお、正式名称は知らないし、積極的に狩る事もない。
ワタシは早々に解体を終えて去ってしまうので出会わず、狩ったとしても素材の使い道が特に思いつかず、その割にガタイが良くて嵩張るので。
「血の臭いは、他にも様々な魔物を引き寄せます。中には夜の闇に紛れて拠点の中にまで入り込んでくる魔物も居るでしょうから、注意を払うべきですね」
「なるほど。気を付けましょう」
『狩人払い』の姿に、第一属性しか持っていない人たちは息を呑んでいる。
ヘルムス様以外の宮廷魔術師は……興味深そうに観察している。
ちなみに、特に興味深そうにしているのは『鉄弓の魔術師』様と『調薬の魔術師』様で、お二人曰く固有種の可能性が高いとの事。
可能なら、このまま買い取って王城に持ち込みたいそうだ。
と言うわけで、この個体については境界拠点の方へとメモ書きと共に闇人間に運ばせておく。
「そんなわけで、逆に魔物側が逃げる事を選ぶような血の臭いでも出せない限りは、魔物の死体はどうにかして処理すると共に、体に付いた臭いについても払うべきである。と言う話をしておきます。魔物側からしてみれば、これ以上なく追いやすい相手になっている状態ですからね」
「ふむふむ。ちなみにミーメ嬢。ミーメ嬢ならば魔物の死体はどのように処理しますか?」
「ワタシなら闇の魔術で分解してしまいますね。こんな感じです」
ワタシは積み上がっていた魔物の死体の一つ……虫系のそれを闇で包み込むと、闇の中で肉体を分子原子のレベルで分解。
見た目には跡形もなく消し去ってしまう。
その光景に魔術師は青褪めているが、これぐらいならトリニティアイでなくとも、第二属性持ちなら属性の使い方によっては可能な範疇なので、ビビらないで欲しい。
「と言うわけで、一頭はワタシの夕飯に貰いますが、他は処理してしまいますね。この数の死体が積み上がっていると、ワタシも知らない魔物を招いてしまう可能性すらありますので」
「よ、よろしくお願いします!」
「そして、今後も魔境に立ち入る事を考えるのなら、効率のいい魔物の死体処理手段を何かしら考えておくべきだと言う助言もしておきます。持ち帰れない量の魔物を狩った時に死体を放置しておくと、思いもよらぬことが起きる事もありますので」
と言うわけで、ランファンボア一頭を除いて、サクッと処理。
これで後は、宮廷魔術師の人が作った拠点の中で大人しくしていれば、明日の朝までは大丈夫だろう。
「ところでミーメ嬢。そのランファンボアは夕飯にするとの事ですが、見たところミーメ嬢は調理道具どころか、水すらも持っていないように思えるのですが……」
「何も問題はありませんよ。調理道具がないのなら作ればいいだけですし、水がないなら搾り取るだけですから」
「と言いますと?」
ワタシはランファンボアを抱えた闇人間に目を向けて、その場での処理を始める。
その光景は、傍目には巨大な闇人間がランファンボアを丸ごと飲み込むと共に、体内から色々と音がし始めて、黒炎と同じ要領で腹の辺りに火を灯したようにしか見えないだろう。
だが、闇人間の体内では解体作業が素早く進められていて、部位ごとにバラバラにし、食べない・食べれない固形部分については魔術で分解。血液から純粋な水を精製。骨を圧縮融合成形して鍋などを作る。
そうして出来上がった鍋に水、ランファンボアの肉、その辺で見繕った食べられる野草・香草を投入して、鍋で圧力を掛けつつ十分に煮る。
「こんな感じです」
やがて、闇人間のお腹部分から出てきたのは、真っ白な器に盛られた肉入りスープ(スプーン付き)。
良い匂いが周囲に漂う、温かな食事である。
では、折角なので味見かつ毒見。
うん、肉のうま味と香草の香りが良い感じに混ざり合っていて、とても美味しい。
有毒成分も感じられないし、今回のスープは当たりと言っていいだろう。
「流石ですミーメ嬢。工具魔術の応用ですね」
「その通りです、ヘルムス様。作れるのは簡単な料理に限られますが、普通の生物だったら、だいたい何でも食べれるように出来ますよ」
ヘルムス様が望んでいるように見えたので、ヘルムス様にもスープをプレゼントする。
飲んだ後の表情からして、喜んでもらえたようだ。
ちなみに、今回のスープが当たりと言ったのは、ワタシの常駐防御魔術の中には飲食物に混ざる有毒物質に対処するものもあるため、いざとなれば血の滴る生肉だって食べれてしまうからである。
それだけの魔術があるから、ちょっと作りが雑になると言うか、ハズレになってしまう場合もあるのだ。
「これが『闇軍の魔女』……」
「魔術は何だって出来るとは言うけれど……」
「本当に何でもありだな……」
「え、あれ。お前出来る? メテル」
「無茶言わないでくれ……」
なお、ドン引きした様子の騎士たちの小声は聞こえなかった事にする。
「それでは皆さん。明日の朝まで頑張ってくださいね」
「分かりました。頑張らせていただきますね。ミーメ嬢」
これでやるべき事は終わった。
と言うわけで、ワタシはヘルムス様に手を振りつつ、元の待機場所に戻っていった。
さて、ヘルムス様たちは問題なく今晩を超えられるだろうか?
ワタシは少しだけ不安を覚えつつも、ヘルムス様たちを信じて、待つことにした。
『トリニティアイⅠ -転生平民魔術師の王城勤務-』
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格好良くて可愛いミーメが表紙となっております。
勿論、本文には色々と手を加えておりますし、特典SSも色々と書きましたので、是非手に取っていただければと思います。




