208:怒れるペスティア
「「「……」」」
「うむ。どうぞ」
王城へやって来たワタシたちは直ぐに目的地へと向かう。
そして、ディム様が待つ部屋の前にやってきたところで、ワタシが扉をノックし、ヘルムス様が扉を開けて、ペスティア様が顔を出す。
ところで、今回ディム様を呼び出すに当たっては諜報部隊の方々も協力したらしく、ペスティア様の名前は何処にもなかったのだとか。
なので……。
「やぁ。久しぶりだねぇ。ディム」
「っ!?」
ペスティア様の顔を見た瞬間にディム様の顔が明らかに引き攣る。
そして、自身体内の闇へ干渉する事による身体強化魔術を無詠唱で行使しつつ、窓の方向に向かって遁走を開始しようとする。
だが、その前にペスティア様の求め通りにワタシが周辺一帯の闇を支配して、ワタシ以外に使えないようにする。
「ぬおっ!? 儂の魔術が!? これはミーメの嬢ちゃんの仕業か!?」
結果。ディム様の魔術は不発。
想定と現実がズレたためか、ディム様はその場でコケる。
「逃がしやしないよ!」
そんなディム様目掛けて、ペスティア様が駆ける。
こちらも魔術……恐らくは『魔力』と自身の第二属性だけで作り上げた身体強化魔術を用いて、身体能力を上げると、一瞬にしてディム様の眼前へと詰め寄って、首根っこを掴んで拘束する。
うん、勝負ありだ。
「三十年と幾らぶりかねぇ。アタシの後釜として呪いに対処してくれていた事には感謝してやる。だがねぇ……そもそもアンタがあの時に婚約者であるアタシをきちんと守っていれば、アタシは王城を去る必要なんて無かったんだよ! その後も含めれば王城を去って正解ではあったけれど、アンタは何なんだい! 諜報部隊の後輩共から聞いたよ! 第二属性に敢えてならないようにしていたんだってねぇ!?」
「ぐ、ぐええぇぇっ……」
ペスティア様がディム様を捲くし立てる。
ディム様は助けを求めるようにワタシとヘルムス様へと視線を向けてくるが……。うん。こうするべきだろう。
「ヘルムス様。ワタシたちは部屋の外で待っていましょうか」
「そうですね。怪我人死人が出なければ、私たちは妙な横入が入らないように注意する以上の事は求められていませんし」
「ま、待ってくれええぇぇ……」
「敢えてならないようにして居られるだなんて、随分と甘ったれた環境に居たもんだね。その振る舞いは陛下たちの安全を守れていても、腕を磨く事を怠った背信行為以外の何者でも無いじゃないか。忙しいだ何だと言い訳しようが関係ない! 折角の機会だから、その甘ったれた根性、アタシが叩き直してやるよ! 覚悟しな!」
「ぎえええぇぇぇっ……!?」
はい、と言うわけでワタシとヘルムス様は通路の部屋の中が窺えない位置に逃げた。
助けなくていいのかって?
いやだって、話を聞いている限り、どう考えてもディム様が悪い案件なので。
黙って怒られてくださいとしか言いようがない。
ちなみに、漏れ聞こえてくる話をまとめた限り。
かつてペスティア様とディム様は婚約者と言う間柄だった。
しかし、ペスティア様が第二属性に目覚めた事で関係が悪化、貴族たちの批判もあってペスティア様は王城を去る。
それから三十年と数年、ディム様は当時の事を後悔してか、第二属性に敢えてならず、新たな婚約を結ばず、他の闇属性魔術師が辞めても王城に留まり続け、あの時守れなかったからとワタシの義父として名前を貸してくれた。と言った行為をしたわけだが……。
「アタシの件を悪く思っているなら、第二属性に目覚めてとっとと追いかけてくるくらいの事をしな! アタシが辺境を一人旅して、どれだけ大変だったと思っているんだい! アンタが王城でぬくぬくぬくぬくぬくぬくやっている間に辺境の住民がどれだけ苦しんだか! そもそもアンタの立場でアタシの生存を知らなかっただなんて言わせないよ! つまり、アンタがアタシと会うのをワザと拒否していた事は明白で……」
「ぬおおおおおぉぉっ……」
うんまあ、その殆どがペスティア様の逆鱗に触れる行いである事は否定できない。
これで別の人と新たな婚約を結んだりしていたら、それこそ刃傷沙汰になっていたのかもしれない。
まあ、今でも室内からはディム様の情けない声と殴打音と言うか衝突音のような物は聞こえてきているのだけど。
ちなみに、ペスティア様の辺境での活動だが。
魔境を発生源とする未知の病気の原因が、その魔境特有のキノコである事に気づいて対処したとか。
スタンピード一歩手前の魔物の群れに襲われた村に一人で救援しに行き救ったとか。
魔術がマトモに知られていない辺境の開拓村に正しい魔術知識を広めた上で、怪しげな新興宗教と繋がった悪徳村長を逮捕したとか。
グレンストア公爵領の領都に根を張ろうとした犯罪組織を一網打尽にしたとか。
スデニルイン辺境伯領壊滅の際には難民の保護と移送に尽力したとか。
年数と活動範囲が合わさった結果として、かなりの実績が積み上がっているらしい。
「ペ、ペスティア……」
「安心しな。アタシの諜報部隊の仕事の頻度は下がるそうだ。イストフィフス侯爵が倒れたのもそうだが、方向性は違えどイキのいい新人が入ったそうでね。そっちに任せられそうなのさ。まあ代わりに王城の闇属性魔術師を統括する役目を任せられたわけだが……。統括をするなら、まずは一番舐めている奴をシメないとねぇ」
「ぎ、ぎえええぇぇっ……」
今更な話だが。
現在王城に勤めている人間で闇属性の魔術を日常的に扱うのは諜報部隊の人たちくらいであり、呪いの取り扱いはディム様くらいなものである。
ただ、これではいけないと言う事でワタシは王城に招かれたし、今も呪いの取り扱いを専門とする闇属性魔術師は求められている。
ストリンさんによる陛下への献上が終われば、今後は素材の形を変えるのを専門とした下処理部門とでも言うべき闇属性の使い手が求められる事になるだろう。
うん、闇属性の中でこれだけ分野が分かれ、それぞれが専門性と秘匿性を求められそうな事を考えると、確かに闇属性の統括をする人は欲しそうだ。
ワタシ? ワタシにその手の統括は無理です。
才能が有りません。
後、ワタシはトリニティアイなので、王城としてはそっちを生かす方法で動いて欲しいと言う事なのだろう。
「ぐえぇぇ……」
「ふん。ようやく大人しくなったね。ま、呪いについては次善策も用意しておいたようで何よりだ。コイツは評価してやるよ」
どうやら話し合いと言う名の分からせは終わったらしく、部屋の中は静かになった。
「ミーメ、ヘルムス。迷惑をかけたね。助かったよ」
「いえいえ」
「お構いなく」
「さて、アタシはコレを連れて、他の連中の所にも顔を出してくるとしよう。じゃあね」
「ぎゅうぅ……」
そうしてペスティア様はディム様を引きずる形で去って行った。
二人の実力差がとてもよく伺える光景であった。
「ところでヘルムス様。宮廷魔術師の最年長就任記録って何歳ですか?」
ペスティア様たちの姿が見えなくなったところで、ワタシはヘルムス様に質問をする。
「正確な数字は調べてみなければ分かりませんが……50ちょっとだと思います」
「なるほど。もしかしたら更新されるかもしれませんね」
「可能性はありますね」
ディム様が以前言っていた、ワザと第二属性に目覚めないようにしていた。という言葉が本当ならば、だけど。
とりあえずペスティア様たちについてはこれくらいにしておくとして。
「それとヘルムス様。今日の午前中にトレガレー公爵家の王都屋敷に仕掛ける警備用の魔道具を作りますので、午後になりましたら設置に向かっても良いでしょうか?」
「勿論です。ミーメ嬢、折角ですし、夕食は我が家で如何でしょうか?」
「良いのですか?」
「良いに決まってます」
ワタシたちはワタシたちのやるべき事をこなしていくとしよう。
ペスティアの方が年上です。
06/15文章改稿




