202:陛下との謁見
「よくぞ帰って来た。『船の魔術師』ヘルムス・フォン・トレガレー。『闇軍の魔女』ミーメ・アンカーズ。イストフィフス侯爵領及びトレガレー公爵領での活躍は余の耳にも届いておったぞ。誠に大儀であった」
「陛下の御耳にまで届いているとは、ありがたき幸せにございます」
「お褒めの言葉。ありがとうございます」
王都に帰って来た翌日。
まずはと言わんばかりに、ヘルムス様とワタシは国王陛下……ケルウス・フォン・グロリアブレイド陛下との謁見に臨んだ。
陛下の周りには親衛隊隊長、宮廷魔術師長、宰相閣下、その他騎士と文官が多数並んでいて、揃って歓迎の様子を見せている。
そして、ヘルムス様とワタシは陛下の前で跪き、これまでの活躍を形式通りに称えられた。
「さて、『船の魔術師』よ。公爵からの言伝を預かっていると聞いている。聞かせてもらえるか?」
「はっ、かしこまりました」
そうして形式的に済ませる事が終わったところで、次の話と言うか……ある意味では本題に移る。
それなりに長い話になるためか、陛下の従者の方が椅子を用意してくれているし、ワタシは断りを入れてから着席させてもらう。
「トレガレー公爵はイストフィフス侯爵領が正常化される事について、とても喜ぶと共に安心もされておりました。これで長年の問題が一つ片付いたと」
「そうか。公爵の助力にも感謝している。おかげで侯爵の手の者を逃さずに済んだ」
「しかしながら、今後についての懸念も覚えていました。聡明なりし陛下たちであれば、既に考え及んでいるところであるとは思いますが、公爵の為にも伝えさせていただきたいところにございます」
「うむ。聞こう」
ヘルムス様がトレガレー公爵様が抱いている懸念とやらについて、陛下たちに話していく。
その話をまとめるならば……。
一つは今回の聖アンザンシのレリックのような代物が、王国の把握していない場所に眠っている事に対する懸念。
これは聖アンザンシのレリックがあった以上は……と言う事で、抱いて当然の懸念だろう。
聖アンザンシがどういう経緯や経路で入ってきたのかも不明なわけだし。
また、イストフィフス侯爵の意味不明な自信の根拠には、レリックによって得られる戦力があった事は確かなので。
もう一つはイストフィフス侯爵の残党が上手く逃げ出している可能性について。
こちらについては、実際にトレガレー公爵領に侯爵家と後ろ暗い取引している連中が居たらしいので、確実に存在している。
残党が何をするかは分からない。
だが、素直に足を洗って真っ当に生きるのではなく、侯爵の制御を失ったことで活動が凶暴化、凶悪化する可能性は当然あった。
なので、注意は間違いなく必要だろう。
そして最後に、ワタシの作ったレリック『ぜったいあんせい』の現状について。
トリニティアイやレリックと言った単語は言わなかった物の、ワタシの作った魔法薬の事なので、『ぜったいあんせい』の事で合っているはずだ。
それで内容については、紛失していないかを危惧しているとの事だった。
ユフィール様とその部下たちまでは大丈夫でも、その下まで大丈夫とは限らないよね? と言う、言われてみれば当然の懸念だった。
「うむ。公爵の懸念も尤もな物よな」
さて、以上の話を聞いた陛下の返答は?
ちなみに周囲に居る人たちの大半は、ヘルムス様の話に怒りも関心も示していない無表情である。
それは貴族特有の表情に出さない技術であるかもしれないし、事前に何処かからか情報を得ていたのかもしれないし、当然の事と言う意見なのかもしれない。
何なら、一部怪訝そうな表情を浮かべている人たちも、周囲のガス抜きやそう言う役割として、敢えてそう言う表情を浮かべている可能性すらありそうだった。
うーん、久しぶりだけど、貴族恐い。
「だが安心せよ。既に手は打ってある。例えばレリックについてだが、王国中にそのような話が無いかと尋ねている最中だ。500年見つからなかった物であるため、霞を掴むような物でもあるが……しかし見つかった時には、そちらに助力を求める事もあるであろう。その時はよろしく頼むぞ」
「承知いたしました。陛下」
レリックについては調べているらしい。
まあ、見つかるかは陛下も仰っている通り、運次第だろう。
そもそもあるかどうかも分からない物であるし、ワタシの自宅のように、強力な魔術によって秘匿されている可能性も高いから。
ただ……もしも誰かが先に見つけ出していたなら、ほぼ間違いなく、騒ぎにはなる事だろう。
レリックと言うのは、それだけの出力を持った魔道具なのだから。
「残党については侯爵領に残って調査を続けてくれている『渦潮の魔術師』からも同様の報告が上がっている。侯爵領に居なかったために上手く逃げている者もそうだが、かつて侯爵の下で働いていたが、何かしらの理由で逃げ出した者が、侯爵の死と共に活動を再開する懸念もあるそうだ」
「そうでございましたか」
「うむ。詳しくは宮廷魔術師長に聞くといい」
「かしこまりました。陛下」
残党は本当に居るらしい。
つまり、まだまだ忙しくなる可能性もあるようだ。
「最後にミーメ嬢の作った魔法薬だが……」
陛下の目が一度ワタシの方へと向けられたので、ワタシは椅子から立ち上がり、一礼する。
「かの魔法薬については、イストフィフス侯爵討伐作戦の折、多くの将兵の命を救う事に役立ったという報告が来ていると共に、数量に異常は無いと言う報告が余の下まで来ている。しかし、それ以上の情報は余の手元にはない。宮廷魔術師長」
「はっ! あの魔法薬は吾輩の妻、『白衣の魔女』ユフィール・フォン・ウインスキーが管理しております。作戦中にどのような意図でどれだけ使用されたのかについての記録も、妻とその部下たちの下にあり、現在不正な使用または紛失が無かったのかを改めて確かめております。つきましてはミーメ君」
「何でしょうか、宮廷魔術師長様」
「ミーメ君。製作者である君にも一通りの記録を渡すので、そちらでも不審な点が無いかは確認して欲しい」
「分かりました。謹んで確認させていただきます」
ワタシの王都に帰って来てから最初の仕事は決まったようだ。
どう考えても書類仕事の類であるけれど、『ぜったいあんせい』を作った人間として、どのような活躍をしていたのかは気になるところなので、頑張って確認させてもらうとしよう。
とりあえず、数量が合わなくなるような杜撰な横領はされていなかったようで何よりである。
「『船の魔術師』よ。これでそちと公爵の懸念は晴れただろうか?」
「誠にありがとうございます、陛下。私も父もこれで安心できる事でしょう」
これでヘルムス様……と言うより、トレガレー公爵様の懸念は解消された。
「さて、『船の魔術師』『闇軍の魔女』よ。そちらはトレガレー公爵領にて非常に珍しきものに遭遇したと聞いているぞ。事実か?」
「事実にございます。中へ!」
ヘルムス様の合図でトレガレー公爵家から連れてきた騎士たちが、布をかけられた大きな荷物と共に謁見の間へと入ってくる。
そして、陛下の前で布が取り払われて現れたのは……。
「「「おおっ……」」」
「なんと言う大きさだ……」
「この大きさ。ドラゴンに匹敵するかもしれない」
「うーむ。このような生き物が海の中から襲い掛かって来るとは、恐ろしい話よ」
ギガントスイムクラブの鋏の片方と甲殻の一部であった。
その威容に居合わせた人々の多くが感心の声を上げ、一部は背筋を震わせている。
「この他、少量ではございますが、冷凍した身も持ち帰っておりますので、是非ともご賞味いただければと思います」
「うむ。大変結構」
ヘルムス様の言葉に陛下は嬉しそうにしている。
安心して欲しい。ギガントスイムクラブの蟹肉は、その嬉しさが間違っていなかったと必ず示してくれる。
「それで目はどうした? 聞いておるぞ。この度、トレガレー公爵領の領都に現れたギガントスイムクラブなる巨大蟹は二つの属性を持つ珍しき魔物であったと」
「ミーメ嬢」
「はい。こちらになります」
ここでワタシに話が回ってきたので、ワタシは一歩前に出る。
そして、先ほどの公爵領の騎士たちと同様に、布をかけられた包みと共に闇人間が謁見の間に入って来て、ワタシの横に並んだところで布を払う。
現れたのは二つの物体。
それぞれの物体は藍色と鉄のような色合いに輝き、大量の魔力を保有していた。
この輝きに、謁見の間の多くの人は息を飲んでいた。
06/09誤字訂正




