201:帰って来た我が家
第七章開始でございます。
後書きに重要なお知らせがございます。
ワタシことミーメ・アンカーズは『魔力』『闇』『人間』『万能鍵』の四属性を持つトリニティアイである。
少々今更な話となるが。
この世界の生物は、種族ごとに特定量以上の魔力を持っていると第零属性『魔力』に目覚めて、魔力を操り、魔術を扱えるようになる。
第零属性『魔力』を少し扱えるようになると、人間の場合は十二の候補がある第一属性に目覚める。
第一属性の八顕現をある程度以上習熟すると、習熟者が十分な知識を有している概念を候補として、第二属性に目覚める。
そして、第零属性、第一属性、第二属性の八顕現全てを混ぜ合わせた魔術を扱えるようになれば、任意の属性を選べる第三属性に目覚め……この段階に至った生物をトリニティアイと呼ぶ。
この条件が正しいかを問われた場合、残念ながら証拠を示すのは難しい。
現在生きているトリニティアイをワタシは自分以外には知らないからだ。
しかし、『人間』属性が与えてきている知識や感覚に基づく判断であるため、少なくとも大きく外している事は無いとも思える話でもあった。
だが、このような条件だからこそ、人間以外の生物も第二属性、第三属性を得る可能性は存在する。
そして、ワタシはトレガレー公爵領の領都でギガントスイムクラブと言う、第二属性を持つ巨大蟹の魔物にも遭遇した。
ならばきっと、世界の何処かには、トリニティアイの魔物も居る事だろう。
そこまででなくとも、人間よりはるかに多い魔力と第一第二の二つの属性を巧みに操る魔物が居る事だろう。
ワタシはそれと遭遇し、戦う事になった時の為の備えも考えないといけないのかもしれない。
なにせ、ここ最近はどうにも、トリニティアイであるワタシの手でも持て余すような相手が増えている気がしているので。
「ようやく帰ってこれましたね。ミーメ嬢」
そこまで考えた時だった。
馬車に一緒に乗っているヘルムス様……ワタシの婚約者が話しかけてきたので、ワタシは意識を話と馬車の外へと向ける。
「そうですね。本当にようやくです。ちょっと懐かしい気もしてきますね」
「気が付けば一月少々も王都を離れる事になってしまいましたからね。大きくは変わらなくても、細かい部分は色々と変わっているかもしれません」
ワタシたちはイストフィフス侯爵討伐作戦の為に王都の外へと出て、作戦終了後は侯爵領の隣にあるヘルムス様の実家……トレガレー公爵領を訪れて、休暇を過ごしていた。
公爵領ではトレガレー公爵との挨拶を済ませ、ヘルムス様と共に舞踏会に臨み、少々想定外の事もあったけれど、無事に全ての事が済んだ。
そして、今日になってようやくワタシたちは本来の居場所である王都にまで戻って来たのだった。
「ヘルムス様。では明日からはその確認……いえ、その前に溜まっていそうな書類の整理からですか?」
「いえ。まずは陛下への挨拶と報告になるでしょう。ギガントスイムクラブの件もありますし、他に報告しなければいけない事もありますので。確認と整理は……情報収集と並行しつつ少しずつ。と言う所でしょうか」
「なるほど」
馬車の中から見る限り、王都の様子に変わったところは見られない。
強いて言えば、季節が既に夏に入った頃合いであるため、多少日差しも強まっている事。
それに合わせて、平民の中でも裕福な人たちはアイスクリームを食べ、貧乏な人たちでもしっかりと水を飲み、誰もが水分と塩分をしっかりと摂るようにしている事。
かつてノスタに破壊された街並みはすっかり元通りになって、銅像のような物を除けば、その痕跡は完全に消え失せた事。
これくらいだろうか。
ひとまず、平和である事は間違いないようで、何よりである。
「ところでミーメ嬢。今気づいたことがあるのですが」
「何でしょうかヘルムス様」
「私たちは今、ミーメ嬢の家へと向かっているのですが……。ミーメ嬢の家の隠蔽はその、出発前にどうされていましたか?」
「あ……」
「……」
ヘルムス様の言葉にワタシは思い出す。
そう言えば、イストフィフス侯爵討伐作戦に出る時は急だったから、特に誰かに家の手入れを頼む事はしなかったし、家に掛けている隠蔽の魔術を解除または調整するような事もしていなかった。
ワタシの家に掛けてある隠蔽の魔術は、家そのものを魔道具にするような形で付与されているもので、長時間維持できるようにアレコレ工夫してあるトリニティアイの魔術である。
その効果はワタシが許可している人間以外には、隠蔽されている事実すら認識させないと言う非常に強力な物。
極端な話となるが、何かに追いかけられて、無我夢中で逃げている真っ最中くらいでもなければ、ワタシの家は一般人には認識不可能だろう。
そして、ワタシが家を出る時は、ワタシ自身以外には誰にも許可を出していない状態だった。
同時に、そんな隠蔽に加えて、ワタシの家には多種多様な侵入者対策が施されている。
つまり、許可が無ければ、例え家の中に入れたとしても、直ぐに追い出されるようになっていた。
よって、死人怪我人が出ている事は無いだろうが……。
家の手入れがされている可能性はゼロと言っても良かった。
「あの、ヘルムス様……」
「人手を集めて来ましょう。それと今夜は公爵家の王都屋敷に泊まってください」
「ありがとうございます」
案の定と言うべきか、当然と言うべきか、ワタシの家は屋内はホコリが降り積もり、庭には雑草が生え放題となっていた。
たぶん、引っ越してきた直後よりも酷くなっている。
その後、ワタシは闇人間を全力で操り、ヘルムス様が連れて来てくれた王城の侍女の方々と協力して、自宅を綺麗にしていった。
幸いと言うべきか、きちんと管理しておいた甲斐があったと言うべきか、素材類については問題なし。
駄目だったのは買い込んでいた食材たちぐらいであり、その食材たちも腐る前に乾燥しきってしまったらしく、そこまでの腐臭は放っていない。
「アレ?」
「どうかしましたか? ミーメ嬢」
「いえ、猫の足跡があるなと思いまして」
「ふむ。猫ですか」
そんな掃除の最中。
ワタシは猫の足跡が屋内にあるのを見つけた。
きっと、何処かの窓が開けっぱなしになっていて、そこから入り込んだのだろう。
ワタシの隠蔽は動物にも通るが、先述の通り、無我夢中で逃げているような状況なら、すり抜けてしまう事もあるのだ。
「ミーメ嬢は猫に何か思い入れでも?」
「いえ、まったくないです。そもそも動物を飼えるような生活ではありませんでしたし。ヘルムス様は何かありますか?」
「そうですね……。公爵家の王都屋敷には、ネズミ対策に何匹か猫と犬は居ますよ。ただ、犬がきちんとテイムされたものであるのに対して、猫たちはテイムされていませんし、自分たちの方が上であると認識しているような節もありますが」
「それは仕方が無いですね。猫とはそう言うものです」
「確かに」
埃が積もっていたから足跡が残っていただけで、綺麗好きな猫だったのだろう。
泥汚れのような物はなく、毛の類も見当たらなかった。
ならば問題は無いだろう。
侍女の方が箒で埃を払い、闇人間が雑巾がけを終えると、猫が屋敷の中に居た痕跡はキレイに消え去った。
「そう言えばミーメ嬢。人によっては人の事を犬っぽいとか、猫っぽいとか評する事もあるそうですが、ミーメ嬢は私の事をどう思いますか?」
「ヘルムス様は……例えるなら犬の方だと思います。それも大型犬の部類ですね。逆にワタシはどうですか?」
「なるほど。ミーメ嬢は……敢えて挙げるなら犬かもしれませんね。信頼を大切にしているように見える姿がなんとなく。と言うところですね。ただ流石に犬種までは思い浮かびませんね」
「なるほど」
ヘルムス様とワタシは他愛もない会話を交わす。
思えば、ここまで他愛のない会話を交わせるようになったのも、王都の外へ出たからかもしれない。
そして、この姿を王都の人たちへと見せられるのは、王都に帰ってきたからこそなのだろう。
何となくですが、既出の宮廷魔術師たちは犬猫で言えば、犬の方が多い気がします。(役目を考えたら当然かもですが)
そんな情報はさておき、重要なお知らせが一つ。
『トリニティアイ -転生平民魔術師の王城勤務-』
書籍化決定でございます!
詳しい情報はもうしばらくお待ちいただければと思います。




