130:報告会 後編
「ふうむ……。この件については一度此処までにしておこうか。判断するための情報が足りない」
「同感ね~。これから教会や王都屋敷を捜査している面々から報告が入るかもしれないし~、また今度にしましょうか~」
「そうですな。今は私が全力で殴りつけても傷一つつかないような防御を与えられる魔道具がある。これだけ広まれば構いません」
トレイタルが持つ防御については、宮廷魔術師長の言葉で話を一度切る事になった。
実際、この話については長引きそうな予感もあるし、今は後回しにした方が良いだろう。
「代わりと言っては何だが。グレイシア君、『ブラックハート』の拠点で見つけた資料について話して欲しい」
「了解でございます」
どうやら此処からは少し細かい報告になるようだ。
グレイシア様が幾つかの資料を机の上に置く。
「『ブラックハート』ですが。どうやら、王族の方々の殺害、王都に混乱をもたらす事、わたくしたち宮廷魔術師の殺害、イストフィフス侯爵に敵対する貴族の殺害、混乱した王都を立ち直らせる際にトリニア教共々支配者層に食い込む事を考えていたようです。全てが計画や実行の段階に進んでいたわけではありませんが、少なくとも展望はそのようなものでございます」
「「「……」」」
グレイシア様の言葉にこの場に居る宮廷魔術師の殆どが怒気のあまり、魔力が揺らぎ、漏れる。
だが、それほどまでに怒るのも当然の事だろう。
王家、王都、自分たち、味方を殺す事を狙ってきている上に、それを為した後にやろうとしているのが王家に成り代わる事なのだから。
汝、求めるならば啓き給え。
トリニア教の教えは裏を返せば、求めるならば開拓せよが教えである。そして、これは国是でもある。
だから同胞から奪うなど論外中の論外。
他人から奪う事しか考えていない奴が上に立ったところで、待っているのは亡国のみ。
おまけにこれをやっている側に居るのは、あろうことか教えを説く側であるトリニア教の上層部だった。
そこまで瞬時に理解が及んだからこそ、宮廷魔術師たちは許しがたいと怒りを顕わにしているのだ。
「グレイシア君。計画については?」
「完全な精査を終えてはいません。ただ、分かっている範囲でも幾つかの計画が実行されたり、実行間近であったようです。そして、その一つが呪いによる王族の殺害でございます。こちらは阻止されましたが、成功するまで何度でも試みるつもりだったようです」
「なるほど。吾輩たちも舐められたものだねぇ」
「他の計画としては、準備段階のものとなりますが、拷問などにより、生きた人間を悪霊に変えて、王都に解き放つ。スタンピードを人工的に起こす計画もあったようです」
部屋の中に渦巻く怒りが強まっていく。
それにしても人工的なスタンピードとは……ノスタの二番煎じだろうか?
まあ、アチラよりは質も質も悪そうだが。
なんにせよ、『ブラックハート』と言う組織そのものは潰れた以上、これらの計画ももう潰れた。
残党には注意が必要だろうが、何とかはなったでいいだろう。
「それで? トリニア教上層部とイストフィフス侯爵家が関わっている証拠については?」
「流石に直接的な物はまだ見つかっていません。サキ・イストフィフスが関わっていた証拠は見つかっていますが、今はそこまでです。ですが、状況証拠としては、もはや言い逃れが出来ない段階と考えてよいでしょう」
「なるほど。なら少なくとも、イストフィフス侯爵を王都に召喚する事ぐらいは出来そうかな」
証拠は……ワタシが見つけたティーカップについては、『聖アンザンシ教会』と『ブラックハート』の間に繋がりがある事を示すだけで、そこまでの証拠では無かったはず。
けれど、グレイシア様の言葉からして、その後に色々と見つかったのだろう。
それこそイストフィフス侯爵を王都に呼び出すという、断らなければそれで終わり。断っても終わり。と言う手も打てるくらいには。
「宮廷魔術師長様。この先はどうなりますか?」
「陛下のご裁断次第ではある。が、事ここに至って温情をかけるような陛下ではない。相手の出方にもよるが、相応の命令が下る可能性を吾輩たちは考えておくべきだろう」
ワタシの質問に宮廷魔術師長様は冷たい声で答える。
つまり、大規模な捕縛作戦……いや、内戦と言った方が正しいような物が起きると考えた方が良さそうだ。
とは言え、魔術があって、魔物が居て、魔境があるこの世界だと、前世知識にあるような内戦とはだいぶ様相が異なる形になりそうだが。
「さてそうなると問題になるのがライオット君の処遇だが……」
と、此処で『石抱きの魔術師』様の方へ全員の視線が向けられる。
「陛下のご裁断なら、目潰しの上での処刑も受け入れる。それは元より覚悟の上だ。ただ、あのクソ親父はなぁ……俺が死んだら死んだで、喜んでその死を利用するだけだろうな。アイツはそう言う男だ」
「まあそうだろうね」
『石抱きの魔術師』様は堂々と死を受け入れた上で、自分の父親の碌でも無さに辟易とした様子を見せる。
たぶんだが、本当に処刑しても意味が無いというか、こっちが不利になるだけなのだろう。
「しかし、吾輩たちとの事前取り決めをライオット君が破った以上、無罪放免と言うわけにもいかない。ライオット君。何故、サキ・イストフィフスを助けた。君の助けが無ければ、ミーメ嬢は彼女を容易に捕まえる事が出来ていた」
「何故ってそりゃあ……」
宮廷魔術師長様の言葉に『石抱きの魔術師様』は何を当たり前の事を聞いているんだと言う表情を浮かべる。
あ、うん、なんか嫌な予感がしてきた。
「俺はサキの兄だぞ。妹の願いなら命がけでも叶えるのがお兄ちゃんってものだろう」
「「「……」」」
そう言った『石抱きの魔術師』様の姿は、まるで真理を語る賢者のようだった。
水が方円の器に従うように、物が大地に向かって落ちるように、太陽が東から登って西へ沈むかのように、当然極まりないという様子で断言して見せた。
あまりにもな発言にワタシは『何を言っているんだコイツは』と言う目しか向けられないし、他の人たちも呆れてものが言えない様子だった。
「ミーメ君、ミーメ君」
「なんでしょうか、宮廷魔術師長様」
「ユフィにも確認して貰った上で一応聞いているのだけれど、あれってサキ君の魅了魔術とかじゃないよね?」
「困った事に魔術はかかってないですね。なので素面か、魔術以外の技術です」
「そっかー……」
宮廷魔術師長の要望もあったので、とりあえずワタシは改めて『石抱きの魔術師』様に魔術が掛かっていないかを各種属性を利用してモニターしてみるが、うん、今の『石抱きの魔術師』様には何の魔術もかかっていない。
非常に困った事に。
この結果には、宮廷魔術師長様も困り果てている様子だった。
「ライオット。それならなおの事ミーメ嬢の邪魔をするべきでは無かったのでは? お前の行動でサキ嬢が逃れたせいで、彼女はむしろ危険に晒されていて、願いが叶うような立場ではなくなっている」
「はんっ。好きに言いな。だがなぁ、危険に晒されなければ叶わない願いだって世の中にはあるんだぜ。サキの最終的な願いは俺も知らねえが、これがサキと俺の選んだ道だ。外野がとやかく言うんじゃねぇ」
ワタシと宮廷魔術師長がそんなやり取りをしている間に、ヘルムス様と『石抱きの魔術師』様が睨み合って、話をしている。
その話を聞いていて思い出す。
サキさん人形曰く、サキさんの目的は復讐との事だった。
そして、ワタシ……いや、捕縛に来た人間相手に抵抗する事も、やらなければいけない事である。そう、サキさん本人が言っていた。
つまり……命からがら逃げ出すような状況に敢えて陥る事で、サキさんはイストフィフス侯爵の懐に飛び込もうとしている?
「願いも知らずに願いを叶えられるとは、随分な自信ですね」
「サキ相手ならそれでいいんだよ。アイツは俺よりよっぽど頭がいいからな」
「ミーメ嬢なら分かりますが、サキ嬢にそこまでの実力があると?」
「あるとも。サキの実力はなぁ……」
二人は引き続き話をしているが……。
いやなんだか、話がだんだんとズレて、ヘルムス様がワタシの素晴らしさを、『石抱きの魔術師』様がサキさんの素晴らしさを語る場になって来ている?
……。
闇人間でも出して、二人とも一度締め落とした方が早いのではないだろうか?
なんだか周りの宮廷魔術師たちがワタシに向ける視線がやるせない物になって来ているように思える。
「ゴホン! はぁ……ライオット君の処分についても陛下のご裁断に任せる。それでこの場は終わりとしよう」
が、ワタシが強硬手段に訴えるよりも早く。
大きな咳払いと共に放たれた、宮廷魔術師長のその言葉と共に、この場はお開きとなった。
とりあえず『石抱きの魔術師』様が重度のシスコンだと言う事だけは理解した。




