129:報告会 前編
「では、作戦がどうなったのかについての報告会を始めるとしようか」
数時間後。
宮廷魔術師長の部屋に宮廷魔術師だけが集められて、今回の『ブラックハート』の一斉制圧作戦及び、その後のトリニア教とイストフィフス侯爵家の関係者捕縛作戦についての第一次報告会とでも言うべき物が行われる事になった。
なお、第一次とついているのは、宮廷魔術師ではない騎士や魔術師の人たちがまだ現地で頑張っていたり、捕らえた人間の事情聴取が途中だったり、逃げている人間を追跡していたりと、まだまだ裏で状況が動き続けているからである。
「じゃあまずは俺から全体の報告を」
「うん、よろしく頼むよ」
初めに手を挙げたのは、風のハト……ではなく、『風鳩の魔術師』様本人だ。
風属性……黄緑色の右目と、鳩属性……右目より少し白っぽい左目をしていて、髪型も合わせて全体的にハトっぽい姿をしている。
「始めに、『ブラックハート』の拠点を一斉制圧する作戦は成功した。事前にこちらで把握していた拠点は全て制圧済み。構成員についても大部分を捕縛または殺害。幹部級についても同様。各種証拠の確保も出来たから、こちらについては大成功と言えるだろう」
「なるほど。つまり、王都、王城、王家の安全は確保されたわけだ。実に良い事だね。ところで怪我人の類は?」
「怪我人は多少出ていますが、死者、重傷者は出ていません。そう言う意味でも大成功でしょう」
『ブラックハート』の拠点制圧作戦は、ワタシが関わっていないところも含めて上手く行ったらしい。
ただ、置かれている資料をよく見ると、こちらが把握していなかった拠点があったり、王都近郊の村に密かに作られた拠点があったりと、根絶やしにまでは至っていないようだ。
しかし、その辺については宮廷魔術師抜きでも大丈夫だろうとの事で、これから騎士たちを派遣して対応するようだ。
「そして、確保した証拠から、『ブラックハート』を支援していたと思われる者たち……つまりはトリニア教の一部の人間、イストフィフス侯爵家の縁者、侯爵家の王都屋敷に勤めている者たちの確保にも乗り出したわけですが……」
さて、問題は此処からである。
『風鳩の魔術師』様も何処か言いづらそうな気配を漂わせている。
だからだろう。ヘルムス様が手を挙げて、話し始める。
「『石抱きの魔術師』ライオット・フォン・イストフィフスについては、事前の協定を守らず抵抗したので、周囲の人物含めて制圧いたしました。その際に王城の壁を少々傷つける事になってしまいましたが、これについては許容していただけると幸いです。それと制圧の際にはミーメ嬢の協力があった事を付け加えさせていただきます」
「ふむふむ」
ターゲットその1である『石抱きの魔術師』様は確保できた。
これについては成功と言う事でいいと思う。
なお、『石抱きの魔術師』様当人もこの部屋に居て、魔術を封じる効果があるらしい手錠を付けた上で、椅子に縛り付けられている。
すぐ後ろにワタシの闇人間とジャン様が控えているので、何かしたら即座に制圧できる構えである。
さて、この流れなら次に話すべきはワタシだろう。
「サキ・イストフィフスについては申し訳ありませんが、逃げられてしまいました。ただ、交戦時に用いられた魔術から、サキさんが『ブラックハート』に対して指導を含む干渉を行っていた事はほぼ間違いないと思います。それと、『聖アンザンシ教会』そのものの制圧は出来ていますが、あの教会に居た人間はサキさんによって洗脳や精神誘導を掛けられていた可能性が高そうです」
「なるほどね」
「それと……」
ワタシはターゲットその2であるサキさんとの交戦がどのような流れになったのかを語っていく。
なお、サキさんの行方は結局掴めなかった。
一応、あの後にワタシ自身もサキさんを見失った現場に行ったのだけれど、見つけられたのは、ワタシの闇人間がサキさんを殴った時に散ったであろう僅かな血痕ぐらいなもので、サキさん本人については影も形も無いような状態だったのだ。
『風鳩の魔術師』様が王都の各門に通達を出してはくれたが……正直に言って、サキさんの属性と魔術の腕前を考えると、捕まえられる可能性は限りなく低いと思う。
「うん、この取り逃しについてはミーメ君の責任じゃなくて、相手の戦力の分析とこちらの戦力の分配を失敗した吾輩たち上層部の責任かな。吾輩も含めて、誰もサキ君が特定条件下では事実上の第三属性相当の魔術師であると知らなかったのだから。むしろミーメ君には、よくぞ勝って、情報をもたらしてくれたと褒め称えておくべきところだと吾輩は考える」
「えーと、ありがとうございます?」
「此処は素直に受け取って大丈夫ですよ。ミーメ嬢」
「そうですか。では、改めて。ありがとうございます。宮廷魔術師長様」
とりあえず、サキさんを逃がした件については、ワタシの責任にはならないらしい。
宮廷魔術師長様の顔と言葉から察するに、サキさんが一枚上手だったという事にするようだ。
そうしてくれると、ワタシとしても助かるところである。
なお、今後サキさんについては、第一級の危険人物として取り扱われる事になるとの事。
やっていた事がやっていた事なので、仮に王城側のスパイだったとしても、そう扱うしか無いのだろう。
「そういうわけだから、イストフィフス侯爵家の王都屋敷で何があったのかについても頼むよ。そちらでも妙な事があったんだろう?」
「では私から」
手を挙げたのは『剛拳の魔術師』様だ。
「私と『焔槍の魔術師』がイストフィフス侯爵家の王都屋敷に赴いたところ、有無を言わせない様子で相手は抵抗を始めました。そのため、『焔槍の魔術師』と騎士たちが交戦、王都屋敷に詰めていた者たちを捕縛すると共に、処分されていなかった書類などの証拠を確保しています」
出された資料によれば、『ブラックハート』の構成員と思しき人間も含めて、数十人の人間が捕縛されたらしい。
また、書類の中にはイストフィフス侯爵からの、王都に害を為すような命令文と思しき物も含まれていたようだ。
「ただこのままではイストフィフス侯爵の甥であるトレイタル・イストフィフスに逃亡される可能性が高いと判断したので、私は単独先行し、トレイタル・イストフィフスの部屋に突入。そこで隠し通路から逃げようとしている対象を見つけたので殴ったのですが……」
問題は此処からだ。
ターゲットその3であるトレイタル・イストフィフスは侯爵家の王都屋敷に居た。
逃げようとしていた、生死不問の対象であった、と言う事から、逃げられるくらいならば『剛拳の魔術師』様は相手を全力で殴ったらしい。
『肉体』と『拳』の属性を持つ『剛拳の魔術師』様の全力パンチだ。
一般人なら、触れた場所を中心として消し飛び、掠っただけでも致命傷になる威力があると言っても過言ではない。
だから、頭は残るように腹の辺りを殴ったとの事だったが……。
「奇妙な感触でした。見えない壁とでも言えば良いのでしょうか? それに阻まれて、私の拳は相手に届かず。けれど相手自身は勢いよく飛んでいき、屋敷の壁を何枚も突き破るも減速せず、そのまま屋敷の外にまで飛んで行ってしまったのです」
不思議な結果になってしまったようだ。
うん、何が不思議って、普通なら、そんな勢いで飛んでいった場合、壁で衝突して死ぬか、地面に衝突して死ぬかになるはず。
だが、『剛拳の魔術師』様が慌てて後を追って、着弾点であろう場所に辿り着いた時には、既に対象の姿はなかったし、現地には血の一滴も零れていなかったという。
うん、本当に不思議な結果である。
「ふむ。全員、何が起きたと思う? 事前調査を見た限り、トレイタル・イストフィフスの魔術の腕前は大したものではないと吾輩は思うのだけど」
「本人の魔術でないのなら、魔道具の類でしょう。『ブラックハート』と繋がりがあった以上、どんな魔道具を持っていてもおかしくはない」
「しかし、『剛拳の魔術師』の一撃を受け止めるどころか、その後の衝撃吸収までしているであろう魔道具。そんな物が一属性魔術師に作れるか?」
「となると……ライオット。お前はトレイタルに魔道具を作って渡したか?」
「そんなの死んでも御免だね。サキの為なら魔道具の十や二十くらい作って渡しても構わねえが、あのクソ従兄弟に渡してやる魔道具はねえよ。ついでに、俺の実力じゃ『剛拳』先輩の全力だけならギリギリ防げるかもしれないが、その先までは絶対に無理だ」
宮廷魔術師長の言葉にそれぞれがそれぞれに意見を出して、何があったのかを考えていく。
『石抱きの魔術師』様も話に加わっているが、その口ぶりや様子に嘘は見られない。
また、論理的に考えても、二属性同士では属性の相性はあるが、そこまでの出力差はないので、『石抱きの魔術師』様の言葉に間違いは無いだろう。
しかしそうなると……。
「二択でございますね」
「そうね~。ドラゴンのような~強力な魔物の素材を用いた特別製魔道具か~」
「あるいはワタシのようなトリニティアイの魔術を込めた魔道具ですね」
どちらに転んでも厄介極まりない話になってしまう。




