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トリニティアイ -転生平民魔術師の王城勤務-  作者: 栗木下
4:呪いを扱う者

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128/165

128:呪いの人形たち

「やられた」

 ワタシは闇人形ナイトメアバージョンで『石抱きの魔術師』様の意識を刈り取った。

 だが、その一瞬だけ、『石抱きの魔術師』様の意識を刈り取る事に集中するべく、ワタシの意識は地下倉庫ではなく王城に向いていた。

 そして、その一瞬を最大限利用する事で、サキさんは地下倉庫の状況を一変させていた。


「やられた。ですか。やった。の間違いではありませんか?」

 ワタシはワタシの身を守っている闇で出来た巨大な頭蓋骨の向こう側へと視線を向ける。

 サキさんの姿をしている物が、トリニア教のシンボル付きの紐を右手で持って提げ、左手に呪いを纏った短剣を握っている。

 そして、その周囲には以前にもこの地下倉庫で遭遇したものと同じ姿の悪霊が何体も浮かび、ワタシの様子を窺っている。

 外に繋がっているであろう隠し通路の闇が払われている。


「いいえ、やられた。です。貴方はサキさんではありませんから。姿形だけ取り繕っても、『人間』属性を持つワタシの目を誤魔化し続ける事は出来ませんよ」

「ふふふ。バレているのですね。流石は宮廷魔術師様」

 サキさんの姿をしている物は、ワタシでも一瞬なら誤魔化されるくらいには、よく出来ている。

 ただ『人間』属性は目の前のそれが人間では無いと告げている。

 恐らくは精巧に出来た人形に、サキさんが精神属性魔術によって自分の精神をコピーして憑りつかせ、それで動かしているのだろう。

 仕組みだけなら、周りに居る他の悪霊と同じだ。

 入れ替わった方法についても、ワタシの注意が逸れた一瞬を狙うように魔術で干渉して、ワタシの認識外にほんの僅かな時間だけ逃れ、その時間を利用して入れ替わったのだろう。

 恒久的あるいは唐突な精神干渉なら分かり易く、防ぐ事も出来るが、こう言う一瞬かつ違和感の少ない精神干渉だと、流石に防ぎ切れなかったようだ。


「それで、どうしますか? 本物の私の後を追いますか? この悪霊たちを放置して」

「心配しなくても、既に追っています。追いつけるかは少々怪しいところですが」

「あら怖い」

 しかし、気が付いた瞬間に隠し通路の方に闇人間を出して、後を追わせている。

 通路を出られる前に追いつければ、ギリギリ対処できるはずだ。


「それで悪霊の方は?」

「勿論対処します。放置できるような存在ではありませんから」

 ワタシは闇で出来た頭蓋骨を消して守りを解く。


「「「ーーーーー~~~~~!」」」

「そうですか。ではやってみてください」

 その瞬間、悪霊たちが一斉にワタシへと飛び掛かり、サキさん人形がトリニア教のシンボルを投げつけてくる。


「闇よ。飲み込み、噛み砕き、すり潰せ。全てを溶かしてしまえ」

「「「ーーーーー~~~~~!?」」」

 が、ワタシの下に辿り着くよりもはるかに早く、悪霊たちは目の前に生み出された巨大な闇人間の口に飲み込まれ、鍵をかけたかのように強く閉ざされた口の中で噛み砕かれて、硬い物を噛み砕くような音と共に消滅する。

 サキさん人形が投げたシンボルの方も闇人間を普通に出して、打ち払わせる。


「とっ」

「これを避けるのですか。本当に別格ですね」

 そして、更に別角度から飛んできた物品……呪われたツルハシ、ナイフ、陶器と言った物たちを、ワタシは自分の体を闇人間に運ばせることによって、回避。

 倉庫の中を走る闇人間が走った軌跡に沿うように、次から次へと物が飛んできては、床や壁、棚などに突き刺さっていく。

 なお、防ぐのではなく避ける事にしているのは、投げつけられたツルハシが、以前に此処で見た妖ツルハシだったからだ。

 そして、その妖ツルハシと同程度に危険そうな代物が時折混ざっているので、防げるとは思うが、出来るだけ触りたくないのである。


「すみませんが、時間もないので、早々に決着を付けさせてもらいます」

「ふふふ。そうですか」

 ワタシは闇人形をサキさん人形の背後に出現させると、装備させた斧を振り降ろさせる。

 サキさん人形はその攻撃を前に向かって跳ぶことで避ける。


「やれるものなら……早いですね」

「時間が無いと言いましたので」

 だが、避けた直後にワタシが背後に再度出現させた闇人間によって、その首を刎ねられる。

 切断面から血は出ない。

 何なら、中身は空洞で、皮膚下数センチの断面は陶器に近い物だった。


「ふふふ。人間相手でないと容赦がないのですね。宮廷魔術師様は」

「当然でしょう。ああ、止まりましたね」

 ワタシはさらに追加でサキさん人形の胴体を闇人間たちに刻ませて、粉々に破壊する。

 すると、ワタシに向かって飛んできていた呪われた品々の動きが止まる。

 その様子は何処となくだが、困惑しているようだった。

 恐らくだが……サキさん人形が呪われた品々を飛ばしていた方法は、事前に精神属性魔術で呪われた品々に仮初の意思を与えて、サキさん人形の指示に従って飛ぶように命じてあった。と言う事なのだろう。

 精神属性魔術については分からない事も多いので、断言はできないが。

 なお、当たり前のようにサキさん人形の頭部は喋り続けている。

 正直に言って、人形の出来の良さも相まって、かなりホラーな光景である。


「そして追いつき……ちっ」

 と、ここで隠し通路を駆けていた闇人間が本物のサキさんに追いついたようだった。

 闇人間は間髪入れずにサキさんに殴りかかったが……闇人間の拳がサキさんの頬に当たると同時に、クロスカウンターのような形でサキさんが隠し持っていた短剣で闇人間は刺され、そのまま耐久限界を迎えて消滅してしまった。

 どうやら何かしらの魔術が込められた短剣だったようだ。

 ワタシは直ぐに闇人間が今消えた座標に向かって、追加の闇人間たちを生成し、視覚と聴覚を繋げるが、既にサキさんの姿は影も形もない。

 手ごたえはあったし、拳に触れた以上は悪夢の魔術も入ったと思うが、どうやら対処されてしまったようだ。


「残念でしたね、宮廷魔術師様。さて、私もそろそろ活動限界のようです。仮初の意識と言えど、死は恐ろしきもの。出来る事ならどなたかが近くに居てくれると嬉しいのですが……」

 どうやらサキさん人形の頭もそろそろ動きを止めるらしい。

 同情を誘うような目をワタシに向けてきている。


「はぁ……。何か情報を話す気などは?」

「内容によります。それと答えられるのは時間的に一つが限度でしょう」

「そうですか。では聞きます。サキさん、貴方の動機あるいは目標はなんですか?」

「そんなの決まっています」

 サキさん人形が笑う。

 紫色の虹彩を怒りの火で輝かせ、深い深い闇を瞳孔の奥に湛え、醜悪なれど美しいとしか表現しようのない笑みを浮かべながら。


「復讐です。あの男の娘らしい。極めて身勝手で、利用できるもの全てを利用した、復讐です。私はその為に生きてきた」


「……」

「どうやら時間のようです。それではご機嫌よう。宮廷魔術し……サ……マぁ……」

 サキさん人形の頭が活動を終えて、精緻な出来はそのままに動きを止める。

 どうやら込められた魔術の効果が切れたらしい。

 周囲にある呪われた物品たちからも魔力が抜けていき、元に戻る……のを通り越して、呪いそのものもなくなっていく。

 一部の品……妖ツルハシなどはそのままだが。


「さて、どうしましょうか?」

 個人的にはサキさんの後を追いたいところだが、先に情報共有をするべき状況である。

 そして、この地下倉庫をどうするかも相談しないといけない。

 サキさん人形の頭などは重要な証拠物でもあるはずで、ワタシが責任をもって引継ぎまでは管理するべきだろう。

 『風鳩の魔術師』様に報告をしたくはあるので、喋れる闇人間を待機場所に飛ばしたが、他の現場で何かが起きているのか、カゴの中に居る風のハトは反応を示してくれなかった。


「ミーメ嬢。無事ですか!?」

「ちょうどいい所に来てくれました。ヘルムス様」

 そんな事をしばらく考え、出来る限りの行動をしている間にヘルムス様が来てくれた。

 と言うわけで、ワタシはこの場の取り仕切りと、此処からの動きの指示をヘルムス様に任せたのだった。

 なお、ワタシに頼られた事でヘルムス様が少々妙な顔をしていたが、こういう時はヘルムス様に任せるのが一番なので、その点については何も言わない事にした。

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― 新着の感想 ―
このお話の段階でここまでの手だれを出してしまうと、後々誰を出してもサキさんより、となってしまいそうで怖いですね。
仕込みと技術でトリニティアイに対抗できる一属性ってサキ嬢凄腕ですね。 サキ嬢人形、『石抱き』氏の部屋に複数ありそう。
 状況がうまく嚙み合ったことでうまく逃げられたと。  石抱きさんを早々捕縛出来なったのか痛かったか。  ミーメ嬢以外じゃ単独で実質三属性使ったサキさんを抑えるのは宮廷魔術師でも数人程度でしょうか?  …
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