127:王城での戦い ※
「『石抱きの魔術師』ライオット・フォン・イストフィフス。この扉を開けなさい。王城が現在調査中の案件において、イストフィフス侯爵家が関わっている可能性が出てきました。事情聴取を行いたいので、この扉を開けなさい」
私は目の前の扉を多少乱暴に叩きながら、中に居るはずの人物に声をかける。
此処は王城の宮廷魔術師に与えられた区画であり、予定通りならこうして声を掛ければ、後は周囲に居るイストフィフス侯爵の手の者を排除できれば投降すると言う話だったが……反応がない。
「……。水よ。水夫となって、この扉を蹴破れ。『アクアセーラー』」
私が生み出した水水夫が私と入れ替わりに扉の前に立ち、その扉のドアノブ部分に足をかけ……蹴る。
が、普通の木製扉ならば確実に破壊出来るはずなのに、目の前の扉はビクともしない。
これは……扉が魔術によって強化されているようだ。
恐らくだが、単純に強度を上げるだけでなく、『加重』属性によって扉をこの位置に押し付けてもいるのだろう。
ついでに、扉の向こう側には机や棚を置く事によって、単純な物理的障害も増やしているようだ。
「ヘルムスよ。どうする? この場の指揮官はお前だ。だから、私はお前の指示に従う」
「同じく」
同行してくれている『渦潮の魔術師』殿と『雷釘の魔術師』殿は現状では私の判断に委ねてくれている。
ただ、二人とも戦闘態勢は取っているので、私が不甲斐ない、役に立たないと判断したら、独自の判断で事態の解決を図るつもりのようだ。
ならば、二人が待ってくれている間に、私は解決策を提示しなければいけない。
「まずは情報を得ます。水よ。音伝える管となりて、彼方の音を我が手に。『アクアチューブ』」
私は水で出来た管を生み出すと、それを天井に沿わせ、壁をすり抜けさせると、部屋の中へと侵入して音を拾い始める。
『えーと、良いんですか? ライオット様。素直に投降するって話だったでしょ?』
『いやぁ、俺としてもそう言うつもりだったんだがな。サキの奴がどうにも粘るつもりらしくてな。そうなると、兄として俺も少しくらいは粘らないとサキの奴が危なくなるし、示しって奴がなぁ』
『示しって。それで捕まった後の我々の待遇が悪くなったらどうするのですか!?』
『そこは大丈夫だろう。陛下だからな。と言うか、お前らこそ抵抗しておかないと拙いだろ。あのクソ親父の事だ。あっさり降ったら、領地に居る家族とかに手を出しかねないぞ』
『それは……』
『な? だから一応でも抵抗をしておけ。ちゃんと抵抗したけど、奮闘空しく捕まりましたって方が、色々と得なんだ。そんなわけだから、このまま出来る限り無視し続けて……』
私はそこで『アクアチューブ』を解除する。
なるほど、ライオットの側の事情は分かった。理解も出来る。
だがしかしだ。
「『渦潮の魔術師』殿、私が水を生み出すので、それを使って扉を破壊しましょう。『雷釘の魔術師』殿も私の水に釘を混ぜてください。破り易くすると共に、その後の制圧を簡単にします」
サキ・イストフィフスが粘っているという事は、師匠と戦闘中であるか、それに準ずる状態にあると言う事。
師匠が負けるとは欠片も思っていないが、それを看過する事は弟子としても婚約者としても出来るものではなく、ライオットがサキに協力しているのならなおの事。
多少手荒でも最速最短で解決できるような方法を取ってしまった方が良いだろう。
なので私は自分の背後に船型にした大量の水を出現させると、二人に指示を出す。
「落ち着けヘルムス。『闇軍の魔女』の事だから心配するのは理解できるが、流石にそれは過剰だ。自前で足りる」
「私の釘は出来るだけお前の水には入れたくない。『渦潮』の水だけで足りる」
「そうですか。では、私は突入後に備えます」
が、やり過ぎだと苦笑されてしまった。
だが、頼んだことはしてくれるらしく、『渦潮の魔術師』殿は水で出来た円盤を高速回転させ始め、『雷釘の魔術師』殿はそこへ自身の作った釘を混ぜ込んで一緒に回転させ始める。
「ヘルムス。一応、中へ警告をしろ」
「分かりました。ライオット! 今から扉を無理やり破る! 怪我をしたくないのなら、伏せていろ!」
「行け! 『ワールプールディスク』!」
円盤が扉に当たり、円盤の中にある釘が刃のように扉を掻き切り、魔術による強化も上回って打ち破る。
そして、扉の向こうに置かれていた棚や机も破壊して、部屋の中へと侵入。
私の視界に驚いた様子のライオットと、ライオットの部下にしてイストフィフス侯爵の手の者たち合わせて四人ほどの姿が入ってくる。
「やべっ!? 土よ、力よ、壁となれ! 『パワーウォール』!!」
ライオットが手にした乾いた砂をばら撒きつつ魔術を発動。
『土』と『加重』の組み合わせによって、透明な壁のような物を作り出して、水の円盤の直撃を防ぐ。
その壁の硬さにぶつかった水の円盤は砕け散り、水と釘が部屋の中にバラまかれた。
が、それは想定内の結果。
「ヘルムス! お前、俺の事を殺す……」
「雷よ。我が釘の間に意識奪う弱き稲妻の橋をかけよ。『スタンブリッジ』」
「「「っ!?」」」
すかさず『雷釘の魔術師』殿が魔術を発動し、部屋の中の釘と水を伝い、橋をかけるように電気が迸って、部屋の中に居る人間を痺れさせる。
この攻撃によって、イストフィフス侯爵の手の者たちは気絶し、倒れる。
「ぐっ、このっ。ちょっと待て!」
が、ライオットは流石に宮廷魔術師と言うべきか、弱めに放たれた電撃では怯みはしても気絶まではしなかったらしい。
しかし、これもまた想定の範囲内。
「待つ気はありませんよ。貴方が粘らないとサキ・イストフィフスの身が危うくなるというのなら、貴方を早々に落とさなければミーメ嬢の身が危うくなると言う事ですから」
私はライオットを仕留める……捕らえるために、水水夫たちを部屋の中へ侵入させると、一斉に飛び掛からせる。
同時に水水夫たちの隙間を縫うように水の縄や銛も飛ばして攻撃する。
「マジで殺す気じゃねえか!?」
が、ライオットは力場の壁を再展開して私の攻撃を足止めしつつ、素早く横へ跳んで攻撃から逃れようとする。
だから私はライオットの移動に合わせて攻撃の軌道を変えていき……。
「ミーメ嬢と貴方の命なら、ミーメ嬢の命を優先する。そんなの当たり前の事でしょう」
「ぐっ!?」
ついに壁を破った水水夫の拳がライオットの腹に命中し、苦悶の声を上げさせる。
「悪いが、時間を稼がせぇ……」
だがそれでも抵抗を続けるつもりだったらしいライオットが次の魔術を放とうとして……。
「おやっ」
「「!?」」
その前に天井から降ってくるように師匠の闇人間が現れて、ライオットの後頭部を殴打する事によって意識を刈り取った。
その光景に私は流石師匠と思い、『渦潮の魔術師』殿と『雷釘の魔術師』殿は驚いた様子を見せる。
「申し訳ありません、ミーメ嬢。手間をかけさせてしまったようで……」
此処に師匠の闇人間が来たという事は、やはりライオットは何かしらの手段でサキを援護していたのだろう。
つまり、私たちが手間取ったせいで、師匠に余計な仕事をさせてしまったという事だ。
その事実と申し訳なさから、私は頭を下げ、謝罪の言葉を口にするが……言い終える前に闇人間は消えてしまった。
どうやら師匠の方はまだ終わっていないらしいし、余裕もないようだ。
「ライオットは生きているか?」
「生きてはいるな。眠っているだけだ。ただ、悪夢を見せられているようで、早速うなされ始めている」
私は部屋の中を見る。
イストフィフス侯爵の手の者は全員気絶している。
ライオットも眠っていて目覚める気配はない。
ならばこの場は任せても大丈夫だろう。
「『渦潮の魔術師』殿。この場の後始末はお願いしても良いでしょうか?」
「ヘルムス、何処へ行くつもりだ?」
「ミーメ嬢の下です。ライオットの話から考えるに、アチラはまだ戦闘中でしょう。ならば支援にしろ、後始末にしろ、人手は少しでもあった方が良いと思うので」
「……。分かった、兵士を幾らか連れて行ってこい」
「感謝します」
私は部屋を後にすると、師匠が居るはずの『聖アンザンシ教会』に向かって駆け始めた。
なお、本話の最中、ヘルムスは終始微笑んでいます。




