123:拠点制圧作業
「暗黒支配」
闇人間によって壁をぶち抜いて拠点の中に入ったワタシは、即座に拠点内に存在している全ての人間を『人間』属性の応用によって感知。
そうして感知した人間の体内……特に食道と四肢の筋肉と皮膚の間に存在する闇を『闇』属性によって掌握。
そこに『魔力』属性による強化を挟みつつ、『万能鍵』属性によって魔力と闇と空間を結びつける錠に鍵をかける。
つまり、現在『ブラックハート』の拠点内に居る全ての人間の動きを強制的に停止させる。
「突入でございます!」
「「「……!!」」」
続けてグレイシア様と他の突入メンバーたちが拠点の中へと入ってくる。
拠点に存在している複数の出入り口、その全てから一斉にだ。
そして、視界内に入った人間を片っ端から捕縛していく。
単純に縄で縛る場合もあるが、こう言う作戦用に準備されたであろう強制的に気絶させる雷属性あるいは精神属性の魔道具も使われているようだ。
当然ながら『ブラックハート』の構成員はそれに抵抗する事など出来ない。
ワタシの暗黒支配によって呼吸すら許された範囲でしか出来ないようになっているのだから。
「舐めんじゃねぇ!」
「「「っ!?」」」
「やっぱりありましたか」
「予想されていた事ではございますね」
が、そう全てが上手く行くわけでは無いらしい。
『ブラックハート』のボスと思しき人間が肉体属性の魔術によって身体強化を行い、暴れ出す。
その口の中や鼻の穴からは光が漏れ出しており、暗黒支配の干渉はボスの体内に届かない。
どうやら、体内の闇を消す光属性の魔道具を身に着けていたようだ。
そして、同じように干渉が及ばなくなった人間の存在が地下の方でチラホラと感じる。
つまり、そちらにも同じ魔道具を身に着けた人間が居るようだ。
まあ、これについてはあって当然だ。
ノスタの事件の時、ノスタは光属性ではないのに、この方法でワタシの暗黒支配から逃れていた。
だったら、ノスタが作成依頼を出した先が何処かにあって、その先が『ブラックハート』である事は、ノスタが他に使っていた魔道具の出元からして、おかしな事ではない。
で、ノスタから知識を得ていたのなら、万が一に備えて配備をしておくのもまた当然と言う事だ。
「お前が『闇軍の魔女』か! くた……ぎゅっ!?」
「あまりにも甘いですけどね」
「同感でございます。氷よ、彼の者の不安通りに枷と化せ。『アイスシャックルズ』」
が、体内の闇を掌握できないのなら、外部から拘束するだけである。
と言うわけで、ワタシはボスの背後に闇人間を出現させると、チョークスリーパーを仕掛ける。
ボスは抵抗を試みるが、そこへ更にグレイシア様の魔術によってボスの体の各所に氷で出来た枷が出来て、その場に縫い付けられる。
同時に、ワタシは暗黒支配から逃れている連中の背後にも同じように闇人間を出現させて、締め上げていく。
ノスタはワタシの暗黒支配を凌いだ後も考えていたのだが、どうやら、コイツらは凌いだ後を考えていなかったようだ。
じゃあ、何の問題もない。
「制圧をお願いします」
「分かりました」
はい、そんなわけで、拠点の制圧はサクッと終了。
隠し通路の類は闇の感知が出来るワタシの目は誤魔化せないし、証拠の隠滅にしてもタンスや棚のような小さな闇を掌握しておけば早々される事はなく、引きずり出すのも簡単。
後は騎士たちが順番に眠らせたり、目視確認していくだけである。
「グレイシア様。お願いします」
「了解でございます」
と言うわけでワタシたちの作戦は次の段階に移るべく、書類の確認作業になる。
ただ、書類の確認作業については素人のワタシに出来る事はないので、ワタシが今やるべき事は拠点内に異変が起きていないかのチェックと、暗黒支配を適宜解除して『ブラックハート』の人間をその場から動かせるようにする事なのだけど。
「どうですか?」
「少々お待ちください。どうやら、『ブラックハート』はかなり手広くやっていたようですね。デフォール男爵家やヤーラカス子爵家の名前もあります」
「なるほど」
ワタシはボスの部屋と思しき室内を見回す。
魔物の頭部の剥製が置かれていたり、高級そうな絵画や壺が飾られていたりと、スラムにあるとは思えないくらいには整えられているが、同時に素人目に見ても高級そうな物を集めただけと感じる部屋だった。
おまけに幾つかの品は呪われているようで、不穏な気配を漂わせている。
これは後の処分が大変そうである。
そんな事を考えていた時だった。
「ーーーーー~~~~~……!!」
「「「ーーーーー!?」」」
「っ!?」
不意に何処かからか叫び声のような物が響く。
種類は大まかに分けて二つ、獣のような咆哮と驚きや痛みに反応して発せられた人の声で、前者は一つで後者は無数。
合わせて、周囲の魔力が高まる? ざわめく? とにかく、何かしらの反応を見せて、何かしらの強力な魔術の気配が声がした方からしてくる。
そして、気配の主は直ぐに来た。
「ーーーーー~~~~~!!」
「なっ!?」
壁も床もすり抜けて、先ほど見た『ブラックハート』のボスそっくりの悪霊がグレイシア様に向かってきた。
その表情は正に鬼気迫るものであり、四肢に漲っている力は実体が無いとは思えないほどで、体からは誰にでも見えるくらいにドス黒い呪いが漂っている。
で、当然ながら暗黒支配の干渉は受け付けず、『人間』属性は人間判定を出していない。
「飲み込め」
「!?」
どうやら、ワタシが危惧していた事態が起きたらしい。
そう判断したワタシは悪霊の目の前に巨大な闇人間の口を出現させて、悪霊を丸呑みにしてしまう。
「噛み砕いてすり潰せ。粉も残らないくらいに」
そして、そのまま噛み砕き、『闇』による浸食と分解も組み合わせて、跡形もなく消し去る。
と同時に、可能な範囲で、闇人間の口に入れたそれが何だったのかを解析してみるのだけど……。
「ミーメ様。今のは……」
「まだ分かりません。情報が欲しいので、グレイシア様は引き続き確認をお願いします」
「分かりました」
グレイシア様が資料の確認を進める横で、ワタシは闇人間に指示を出して、『ブラックハート』のボスと思しき男を連れてきてもらう。
が、連れて来てくれた騎士曰く、男は先ほど突然叫んだかと思えば、体から悪霊にしか見えない物が抜け出て、そのまま死んでしまったとの事だった。
まあ、死んでしまったものは仕方が無いとして、男の検分を開始。
何か持ってないか探ったところ、トリニア教のシンボルらしき物に魔術を込めた魔道具を発見する。
ただ、使い捨ての魔道具だったようで、シンボルに残っている魔術の気配はほんの微かな物だった。
ついでに、このタイミングで地下を探索していた騎士たちが顔を青褪めさせながら報告してくれたのだが、地下に拷問部屋のような物があったらしい。
ただ、壁も天井も乾いた血の色で染まっているにしては、空気が妙に綺麗だったそうで、そのせいでむしろ気味が悪くなったようだ。
うん、だいたい察した。
「どうやら、濃縮された呪いと精神属性の魔術を組み合わせることによって、任意の対象を悪霊にする魔術だったようですね。敢えて名前を付けるなら『悪霊化』と言ったところでしょうか」
「そのような事が可能なのですか?」
「流石に第一属性だけで無条件に使える魔術では無いと思います。いえ、第二属性があっても難しいでしょう。そうですね……多くの犠牲によって生まれた濃密な呪い、それを制御できる優れた精神属性の魔術師、魔術抜きに対象が術者に気を許して抵抗されない状態である事。これくらいは最低限でも必要かと」
「なるほど」
たぶんやったのはサキさんだろう。
口封じか、敢えての証拠として残したのか、その辺は分からないが、他に仕込めそうな関係者が居ない。
しかし、不意を突かれれば第二属性持ちでも危うそうな魔物を第一属性持ちが生み出すとは……事前準備を重ねてようやく一体だけではあるだろうけど、何とも厄介で恐ろしい話である。
「ミーメ様」
「何か見つかりましたか?」
「はい。とんでもない物が見つかりました」
と、此処でグレイシア様が声を上げる。
だがその声は怒りに満ちたものだ。
「王族を暗殺せよ、と言う書簡です」
「……」
どうやら『ブラックハート』……いや、トリニア教の上層部とイストフィフス侯爵は絶対に許されないラインをとうに超えていたらしい。




